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人間を動物に例えること

作者: 雉白書屋

 ――お前、○○みたいだな。


 近頃、侮辱罪の厳罰化が進み、SNS上の誹謗中傷への法的対応が強化されたことで、露骨な悪口を言うことがはばかれる風潮になっている。

 そんな中、私は今日、出張先で同僚からこう言われた。


「お前、トドみたいだな」


 確かに体型は少し似ているかもしれない。しかし、私は海で泳いだこともなければ、二足歩行もできるし、英語だって話せる。私はトドではない。

 意味がわからず、その場では笑って流した。だが、あとでトドについて調べてみて、この言葉が侮辱だったことに気づいた。

 トドは可愛らしい生き物だ。しかし、人々が抱くイメージといえば、大きくて太っていて、水辺でゴロゴロしている、二重顎――つまり、だらしない体型の象徴である。「トドみたいだね」と言われて喜ぶ人など、まずいないだろう。

 その同僚は、それが悪意のある言葉だとわからないほど幼くはない。つまり、意図的に私を貶めようとして言ったのだ。

 なぜ、彼は私にそんなことを言ったのだろうか? 私は興味を抱き、調べた。すると、調べれば調べるほど、この「○○みたいだね」という言い回しが、いかに無礼なものであるかが浮き彫りになった。

 動物にはそれぞれの魅力があるが、この言い回しはその動物の『悪いイメージ』だけを切り取って、相手にぶつける攻撃手段になっているのだ。

「豚みたいだね」は、トド同様、相手をデブだと言っている。「犬みたいだね」は『人に媚びている』という意味を含ませ、相手を見下している。猿は原始的で知性がないと言っているに等しい。ゴリラはごつくて粗暴。キツネは狡猾で嘘つき。狸は丸い。猫は自分勝手で愛想がない。カメレオンはすぐに態度を変える、信用できない存在。「ウサギみたいだね」は、一見褒め言葉に聞こえるが、実際は『ビクビクしている臆病者』呼ばわりしているのだ。


 なぜ人は、他人を動物に例えたがるのか?

 答えは簡単だ。人間は、自分が他の生き物(他人を含む)よりも特別で優れた存在だと思いたがる生き物だからだ。

 だから、他人を動物に例えて嘲笑することで、自分の位置を確認し、安心しようとするのだ。他人を安易に分類し、理解したつもりになって満足している。だが実際には、相手だけでなく、その動物たちをも貶めていることに気づいていない。

 そう、動物たちは堂々と生きている。トドは水辺でゴロゴロしながらも、海の厳しい環境を生き抜いている。ウサギはビクビクしているように見えても、外敵を避け、立派に生き延びている。

 では、本当に滑稽なのは誰か? そう、それは『○○みたいだね』と他人を貶めることで優越感を得ようとする人間そのものなのだ。彼らは自分の不安や劣等感を隠すために、動物のイメージを借りて悪口にすがりつく、哀れな存在だ。

 私は動物に例えられても動じない。だが、出張から戻ったら、この長期出張を『左遷だな!』と笑っていたあの同僚に、こう言ってみようか。

『君って地球人みたいだね』

 きっと彼はきょとんとするだろう。だが、いくら考えても、彼がこの言葉の真意を理解することはない。それを想像すると、確かに少しばかり愉快ではある……おっと、もうこんな時間か。


「課長、もう夜も遅いですし、足元もふらついています。そろそろ帰りましょう」


 私は前を歩く課長に近づき、声をかけた。


「んー? ああ、そうだな……」課長は振り返り、口をもにゅもにゅと動かした。


「しかし、お前、おれが言うのもなんだが、あれだけ飲ませたのに顔色ひとつ変わらないな。いつもなんかズレてるし、ははは、宇宙人みたいだな」


 ……なるほど。

 的確に言い当てられると、これほどまでに感情が揺さぶられるものなのか。この男には悪いが、この星での任務を全うするために、早急に手を打たなければならないようだ。

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