なろう小説家、のんびりダンジョン配信しながら追放されて婚約破棄されたので、召喚士しながら書籍化する
オレは『なろう小説家』だ。
つっても、ブクマ100も経験したことない雑魚だ。そして同時に『配信者』でもある。
つっても、同時接続者100人も超えたことのない底辺だ。
さて、そんな俺様は今───ダンジョンで配信しながら小説を書いている。
「家だと緊張するってワケー」
細かい説明は必要ないだろうが、ココはダンジョンの中でも安全な一階層!
更に人も少ない!
小説を書くなんていう恥ずかしい行為をするには実にうってつけの場所であり、俺様はいつもココにノートパソコンを持ってきて、作業している。
完全な自己満足。
趣味ってワケー。
「えーっと、同接は……うん、4人か!」
俺様がここから覚醒して、同接が一億人になる……そんな小説を書いてみるが、現実であり得る訳はなく。
ノートパソコンの画面からリアルタイムで表示されるコメントを見ると、
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『どこにいるんですか?』
『○○○というダンジョンです。リア凸OKですので、来ますか?』
『お母さんにだめっていわれました』
『なにしてるんですか?』
『小説を書いています』
『むずかちそうですね』
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みたいに、コメント欄は静止していた。
更に残っているログを見ても、1人の視聴者と自分の会話だけが残っていて、もはやDMと化している。
これはまあ、底辺あるあるだと思う。
「あぁ」
配信は基本的に無言。
何も喋らない。
ひたすた小説を書くために、キーボードで文字を入力する。
1時間ぐらい経って飽きて、
「こなーゆーきー」
と俺様は歌い始めた。
突然の歌枠、とんでもなく下手で、ただでさえ少ない視聴者が更に減っていく。
遂には1人になった。
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『どんなしょーせつなの?』
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その1人とは俺様がさっき擬似DMしていた、おそらく小学生らしき視聴者だった。
「冴えない主人公が、突然神様から力を受け取って覚醒して、更に隠していた本当の実力を出して掛け合わせて、他の人たちをぶっ倒す話だよ」
ジャンルとしてはローファンタジーだ。
異世界恋愛で悪役令嬢ものや、ハイファンタジーで追放ものも良いが──もうある程度書いたし、俺様の文章レベルだとレッドオーシャンであるそこで輝く事も出来ないのだ。
だから、そこそこのジャンルに定住している。
自分の声だけが虚しくもダンジョンという空洞に響き渡る。
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『なんかそれ、アニメで見たことある!!』
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遠回しに自分がパクリだと言われたような気がした。
まあ、そうかもしれない。
俺様は独創性のある男だが、だとしてもあまりにも作品が飽和し過ぎているこの『小説家になろう』において、どんな小説を書いたところで何かしらのパクリに該当してしまうのかもしれない。
難しい話だ。
かといって人気作に憧れて書き始めた作品は所詮、二番煎じですらないので───伸びるわけもなく、
「あぁイライラする!」
で終わる。
趣味で書いているのに、求めているのは名誉と金。
おかしな話だぜ、ベイベー。
「よし、書き上がった」
どーせこれも伸びないのだろう。
いや、伸びてほしいな。褒められたい。
そんな葛藤がありつつも、腕時計を見る。
なろう小説を投稿する際に、時間というのはかなり重要になってくる。
テレビで視聴率がとりやすいゴールデンタイムが存在するように、ここでも同様なのだ。
「伸びやすい時間帯は……まあ、朝の8時とか、昼の12時とか、夜の6時あたりって言われてるけど、本当なのかなあ」
その時間に投稿して伸びた試しがない。
そもそも、一本として伸びた作品がないのだが。
……まあ、そりゃ当然の話。
「そりゃあ人が多い時間帯は色んな作者が一気に投稿するから──固定客がいるならまだしても、こんな底辺見つけてもらえるわけないんだよな」
ため息だぜ。
こっちだって、ため息つきたいところだ。
それにようやくついた『感想』を見てみると───『おもんな』『センスない』『なろう小説書いてる奴はヤバい奴www』とか、単なる批判ならず人格否定の誹謗中傷さえ来る時がある。
「伸びねぇ底辺を苛立ちの捌け口にして、何がいいんだか」
オレは作り上げた小説を午後6時に投稿してみた。
当然、伸びなかった。
投稿してから1時間時点での読者のアクセス数は、たったの7。
今まで投稿してきた中でも、トップクラスに悪かった。
「うぁぁぁあぁあぁぁぁあああ!!!!」
そのまま叫びたい。
叫んでそのまま自分の現実と乖離したプライドで溺れ死にたい。
ーーーー
『なんでおっきなこえだしてるの?』
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配信のコメント欄を見ると、小学生が新しいコメントをしていた。
それに対して苛立っていた俺様はなぜか、
「男ってのはみんなそうなんだよ! 生きてるだけでムラムラしてるんだ!」
と叫んでしまった。
何かがおかしい。
───『ムラムラってなに?』
コメントが続く。
「む、ムラムラってのはなぁ! ち○ちんがイライラすることで、そうなったらすぐにあぁシ○りたくなるんだよ! わかるか!!! おい!!」
と叫ぶ。
────『なんか、ち○ちんがイライラしてきた!』
「おっ、ようやくお前もその域に達したか! いけぇえええええええ!!!」
────『うわあぉぁぁぁあああ!!!』
そんなやり取りの数分後、俺様は配信サイトから追放された。
アカウントバン、アカBANであった。
くそう!
なんて失態だ──っ!!
「はぁ、もう最悪だ今日は……って!」
イライラもムラムラもしながら、ノートパソコンで『小説家になろう』の自分の小説のページを見ていると、
なんと評価に10ポイント入っているのだった!
『なろう』において、読者はその作品に星でポイントをつける。星は最高で『5』まで存在し、星一つにつき2ポイントの評価となる。
10ポイントってことは……最高評価!
「まじかぁぁああ!! 神様ぁあああ!!!」
久しぶりのポイントに俺様は泣き叫ぶ。
ハッピーハッピー、ハッピーだった。
と思うのも束の間、、
「あれ……評価消えてる?」
押し間違いだったのか、理由は定かではないが、入っていたはずの10ポイントが消えているのだった。
───え?
婚約していたのに、婚姻直前で破棄されたみたいだった。
まさに婚約破棄!!
俺様はその場で、座っていたキャンピングチェアから崩れ落ちた。
こんなことでも一喜一憂するのが、なろう──少なくとも俺様である。
「くそう……こうなったら!」
婚約破棄されたのならば、次は召喚士だ!
俺様はスマホを取り出して友人に電話する。
「もしもし? な、何の用?」
「ただいまなろうで俺様の新作が上がった、評価しろ!!」
召喚するぜ───サクラを(注意・これは規約違反なので絶対にしないでください)。
身内に評価してもらうことで、自分の作品に強制的にポイントを入れるッ!!!
これが勝利への方程式だッ!!!
ローファンタジーの日刊ランキング100位内に入るには、大体20ポイント前後が相場である。
つまりだ!
2人以上に満点ポイントをサクラしてもらえば、それで伸びるってわけだ!!
「───もしもし?」
俺様は続け様に、2人目へ連絡した。
それから数時間して、
俺様の新作の総ポイント数は20になった。
わけなのだが、、、
「……伸びない」
ランキングが更新され、
俺様の作品がローファンタジーの日刊ランキング98位に入った。
だが、
かといってPVが増えるわけでもないし。
別に運営からアカウント停止処置を喰らうわけでもなかった。
現実に生きるなろう召喚士は、なろう小説の中の召喚士のように強くはなかった……。
俺様は膝から崩れ落ちた。
書籍化なんて、遠い遠い夢の話だった。
ちなみに、俺様の夢の中では書籍化している。