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この世界には七人の魔女がいる  作者: 最中
その魔女は怠惰と呼ばれる
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05

 



『紅茶でもいかがですか』


 面倒な依頼に落胆している主人を見兼ねた使い魔があたらしい紅茶をセットする。香りが強いキーマンを選んでるところを見るとベルの気分転換を狙ったのだろう。

 本当に出来る使い魔である。頭を撫でると恥ずかしいのか少し嫌がった表情を見せるが、本気で嫌がっていないことは理解している。可愛さも持ち合わせる最高の使い魔だ。


「マッシュ殿ありがとうございます。こうしてお会いするのは末の妹の生誕以来ですね」

『覚えていていただき光栄です。おっしゃる通り、第二王女殿下の誕生以来はナッシュが王城への使いをしております』

「そうだったんですね。最近は外交で外に出回っていたナッシュ殿とはお会いできていなかったです」


 ロイドの前にも新しい紅茶をセットしているとロイドが頭を下げてコミュニケーションを取っている。

 しっかりと使い魔の区別もできているロイドは王族としてしっかりと魔女について学んでいるんだろう。もしかしたら前回の件を踏まえ間違えがないように慎重な行動をしているのかもしれない。

 資料も短時間でしっかりまとめたところを鑑みるに前回をだいぶ減点だと思っているのかもしれない。そうだとしたら色々と素直な王子だと笑ってしまう。


「そういえば、なんで一人なの?」

「魔女殿が言ったのではないですか」

「何を?」

「次は王子が来いと」


 その言葉を聞いてベルは数秒固まる。ロイドの言葉の意味を理解した瞬間に声を上げて笑ってしまった。そんなベルにロイドは驚いているが、そんなことはどうでも良い。


 確かに言った。帰り際にポツリと言ったことは覚えている。

 ただ、言ったが一人で来いという意味ではない。人の言葉を素直に受け取る自国の王子に素直は良いことだと思う一方で本当に素直過ぎて大丈夫なのかと心配になる。外交をしているらしいが、これはいいカモになっていないだろうか。


「あー……そうだね、確かに言ったよ。言ったけど、そういう意味じゃないし王子が一人行動するのも認められているのってどうなのよ」

「一人で行動することは問題ないです。理由は魔女殿のおかげで薬草などの植物の栽培に特化し、薬などは我が国が流通のトップなことです」

「え、何の話?流通?」

「我が国は農作物の品種も価値が高いです。若者が刺激を求めて他国に出る割合も残念なことに世界トップですが、最終的に家庭を持つと戻ってくる率もトップです」

「はぁ」

「つまり、我が国は自足自給のできる環境が整っており国民の貧困問題は数百年前に解消されてます。その結果、犯罪率も他国より圧倒的に低く安全なのです。これもそれも、魔女殿が我々に最低限の関与しかしなかった結果です」


 誇らしげに語るロイドにベルは全く追い付けない。一人で出歩くなという話からなんで自国自慢になっているのか。


「え、どういうこと?」

「我々に最低限の農業というものを伝え、かつ品種の担保をしてくださったことに感謝してるということです」

「感謝は常にしてもらって構わないけど、出歩く話はどうなったの?」

「言ったじゃないですか、安全だと」


 自信満々な様子にそれ以上の追求は無理だと悟る。

 自国が安全で平和なことは喜ばしいことであるが、ベルが求めていた回答と何か違う。なんで王族が一人で出歩くのかという質問は上手くはぐらかされている気もする。


 会話のペースがすべてロイド側にあること、そもそも今の自国の状況をベルが理解していないこと。この二点でこのまま会話を続けるとどう考えてもベルが疲れてしまう。

 本題でもない会話にこれ以上の労力は割きたくない。


「関係ない話題を出したね、ごめん」

「魔女殿が疑問に思うことはすべて回答するのでなんでも聞いてください」

「あー……うん、はい。もういいや。とりあえず次のアクションの話をしたい」


 相手にする必要はないと判断して本題に戻った方がいい。

 そう切り替える様子のベルを見てロイドは本当に表情が分かりやすい人だと思う。


 魔女については国の歴史を学ぶよりも先に教えられる存在だ。それくらい魔女はこの世界で重要視されている。

 敬うべき存在であり、畏怖すべき存在である。魔女とはそういう存在なのだ。


 そう例に漏れず学んできた存在の魔女が目の前にいる。しかし目の前の魔女は面倒臭いと思っている節を微塵も隠さない態度で威厳などまったく感じさせない。ロイドの目に映る彼女は学園に通っていてもおかしくないただの少女という印象だ。


「まずはラヴィ・ティミンと話した担当に会わせて」


 ベルの声に意識を戻す。

 外交中に他のことに気を取られるなんてあってはならない。初歩的なミスだと反省してもう一度目の前の少女―――いや、自国の魔女に向きなおした。


「それは可能ですが、魔女殿が直接会うのですか?」

「面倒だけど直接会わなきゃ分からんからねぇ」


 魔女を万能だと人々は思っているが、実際は誓約も多く出来る行動も限られている。

 例えば指を鳴らして身支度を整えられても、指を鳴らして世界を簡単に平和にすることは流石にできない。正しくは平和にできる力はあるが誓約で簡単には出来ない状態なのだ。


 そういった誓約も含め、ある程度自分の言動を意識して人々との関わりをしないといけない。それを面倒と感じているベルは基本的に家から出ずに家の中でできることだけをやる方針でいる。そうする方が他の魔女に迷惑をかけることもなくお互いが平和なのだ。


 しかし、魔術が絡んでいる可能性が高い以上は高みの見物はできない。とはいえ、今回については魔術が絡んでいなくても話を聞いてる限りラヴィ・ティミンは不可解な危ない存在と現時点で言えるだろう。


 危険な芽は早々に摘むのが魔女の責務だ。


「あとこの資料はもらっていい?」

「もちろんです」

「ありがとう。確認したい事は以上だから、今日はおしまい!」


 手をパンっと叩くと玄関の扉が開かれる。丁寧に帰り道を示した看板まで外に立っているではないか。笑顔のベルから無言の帰れの圧力を感じつつ、ロイドは笑顔を作って優雅に紅茶を飲み始めた。


「うん、美味しい紅茶ですね」

「いや、ここは帰る流れでしょ」


 思わず突っ込んでくるベルに対し、やはり帰宅を促していたのかと笑いそうになるのを堪えてロイドはまた優雅に紅茶を飲む。外交というのは慌てた姿を見せたら負けなのだ。堂々としている方が要望も通りやすいと持論を持っている。今回はどうやら成功したようだ。


「依頼の話はそこまでですが、折角なので他愛もない話でもするのはどうですか?」

「いやいや。依頼は依頼だから話は聞くけど。それ以外は業務外です」

「業務外と言いますが、王家との懇親の場を悉く無視してるのは魔女殿では」


 心当たりがあり過ぎるベルは反論するために開いていた口を閉じることになる。

 ロイドが言っていることは正論以外の何でもない。ここ数百年は魔女自身が招待されている場に使い魔たちに代替していることは事実だ。その理由も面倒だからの一点なのでベルの方が分が悪い。


 ため息とともに開けた扉を閉めると諦めた表情でロイドを睨む。

 見た目相応の態度に今度こそロイドは抑えきれずに声を上げて笑うのだった。


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