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この世界には七人の魔女がいる  作者: 最中
その魔女は怠惰と呼ばれる
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「いやーいいものもらった」


 見るからにご機嫌なベルにロイドは苦笑いをする。

 手に持っているものは誰が見ても物騒だというのにそんなことは気にもしていないらしい。


「ピストルがそんなに嬉しいのか」


 あの後、ベルが対価としてもらったのはピストルだった。ピストルが欲しいと言ったときの警官たちのポカンとした顔は申し訳なかった。

 当たり前ではあるがピストルとは本来譲渡するようなものではない。ただ、あの場をはやくおさめるためにロイドが証人として魔女のベルに渡すことは危険はないと判断した。

 もちろん渡す分のピストルは王家として必ず補充することもその場で約束をしている。まるで裏取引のようだと笑うベルの言葉は聞こえないフリをした。


 対価と聞いて命でも取られるのではないかと怯えていた警官たちは終始不思議そうにベルを見ていた。


「だってさ、私の知ってるピストルよりもだいぶコンパクトになったから興味があるんだよね。この大きさで殺傷能力どの程度なの? なんか心許ない感じあるよね」

「殺傷能力? 殺傷という言葉は正しくない。あくまでもこのピストルには補足するための能力しかない」

「え、どういうこと?」

「ピストルのトリガーを引くと電流の塊、まぁ弾丸のようなものが発射されて一時的に体を痺れさせるんだ。あくまでも確保する目的で使われてる」

「えぇ、めっちゃ平和的」

「国同士の争いは随分昔に落ち着いたから武器としての性能は意味を為さなくなったならな。そこから改良が加えられて、なるべく人体に影響の少ないものになったんだ」


 今の平和な世界だとそうなるのか。そうベルは納得しながら、今の世に適するものを作り続けているひとりの魔女に心の中で拍手を贈る。

 時代に合わせて魔女としてしっかり役目を果たしているなんて、ベルからしたら真面目過ぎるけれど。


 おもむろにベルが持っていたピストルをロイドは手に取るとある一部を見せてきた。


「ここに数字があるの分かるだろ? 横のレバーで電流の強さを選択が出来るようになってるんだ。相対するのが屈強な男だったら出力を強めにしたりして対象の確保が絶対できるように出力レベルの選択が細かい工夫があったりする」

「めちゃくちゃ親切設計だね」

「場合によっては銃弾で命を落とすケースもあるからな。ここ数十年は聴取が必要なケースも増えてきたことで改良が重ねられて今の形になったらしい。まぁ、聞いた話ではまだまだ改良は続けられているらしいが」

「みんな頑張ってるんだなぁ」


 自分のことではないが身内が褒められて嫌な気はしない。ただ、ここ数日は久しぶりに魔女たちのことをよく思い出すのは何かの前触れなのか。


 そんなことを考えているとロイドがピストルを内ポケットにしまっていた。


「え、ちょっと! 私が対価としてもらったんだけどそれ」

「これを持ってこれから人に会うつもりか?」


 呆れながらそう言われてしまうとベルも何も言えない。そもそも手ぶらの状態のベルはそのまま持ち歩くしか方法はなかった。

 流石に魔女とはいえピストルを持ったまま話をしましょう、は暴力的過ぎる。


「終わったらちゃんと返すよ」

「絶対だからね」


 その言葉に渋々納得をする。帰宅したら仕組みの分解をする気満々のベルとしては完全に取り上げられないのであれば問題はない。

 返し渋ったりするなら、実力行使もやぶさかではなかった。


 そんなことを考えている間に目的地に到着していた。

 一見周りの建物と同じように見えるが、ここが、国立調査機関だ。

 注意深く見れば周りの建物よりも防犯のレベルが高い。人々の情報を取り扱う機関ならではのカモフラージュをされている。


「うん、約束の時間にもピッタリだね」

「本当にアポイントを取っているんだな」

「私をなんだと思っているの、君は」


 優秀な使い魔がアポイントを取っているのだから大丈夫に決まっている。

 とは、口には出さずにさり気なく自分の手柄にしておく。扉を開けるとエントランスと思われる場所にはすでに人が待っていた。その人はベルたちに気付くとすぐに頭を下げて挨拶をした。


「お待ちしておりました、魔女さま」

「あなたは?」

「所長を務めております、オリバ・インスと申します」


 オリバ・インスと名乗った人物は大凡五十歳代くらいの男だった。ベルに挨拶をした後はロイドの方に向き直し改めて深く頭を下げる。


「第二王子殿下にもご挨拶申し上げます。またご足労いただき有難うございます。」

「インス殿こちらこそ、この前は有難う」

「とんでもございません。我々の記録がお役に立つなら光栄でございます。ただ、魔女さまに満足いただく記録ではなかったため今後も引き続き精進いたします。」

「内容に文句はなかったですよ。ただ、書いてあることを改めて聞きたいってだけなので」

「それは有難いお言葉です。さ、こんな場所でお話しすることでもございませんので応接室にご案内いたします」


 いつまでもエントランスで話すことではないとオリバが二人を応接室まで案内をする。

 案内した後すぐに飲み物の準備までオリバ自身が行ってくれた。いつも使い魔が対応してくれるベルからすれば所長がそんなことまでやるのかと思ったが、すぐに自国の魔女と王族が揃ってやってくればオリバ以外がもてなすことは難しいだろうと気付く。

 そんなことを考えている間に香りの良い紅茶が提供され、二人の対面に座ったオリバが口を開く。


「本日はカナン・ミラーに会いにきたと言うことでお間違いないでしょうか」

「えぇ。ラヴィ・ティミンと会話をしたカナン・ミラーと当時の話がしたいの」

「かしこまりました。本人に要件は伝えないことをご希望されていましたので、本日は何も伝えておりません。客人が来ることだけを伝えておりますが問題ございませんでしたか」

「問題ないわ」

「また、こちら都合で申し訳ないのですが。この後、彼女が担当する業務が入っております。調整はしましたがお時間は三十分が限界となります」


 オリバは申し訳なさそうに頭を下げる。

 突然の申し出に対しここまでの対応をしてもらってる時点で充分だった。魔女といえど人々に強制する立場でもない。ベルは頭を横に振り優しく微笑みながら感謝を述べる。


「充分よ、ありがとう」


 ベルの言葉にオリバは安堵の表情を浮かべる。

 その表情からして大分無理をして時間を空けさせたようだ。

 この職業はそんなに忙しいものなのか。尋問員のようなものだと思っていたが、ロイドの話ではこの国の治安は良いという話だったと聞いたはずなのに。


「本題とは関係ないんだけど。ここにいる第二王子から国の治安の良さは聞いてて、ここは尋問がメインというわけじゃないよね?」

「魔女さまは昔のイメージで止まってらっしゃるようですね。おっしゃる通り、昔は調査機関は元々は尋問職でしたが今は他国から来ている方に不便はないか聞いたり、各所の現状確認などのご用聞きみたいな側面が強いですね」

「へぇ。てことはラヴィ・ティミンも留学生だからってことで話を聞くのは決まってたってこと?」

「おっしゃる通りです」


 オリバの言葉になるほどとベルは少し考える。

 このまま担当したカナンに会おうと思っていたが確認したいことが一つ生まれた。


「それって、これまでも留学生の話は聞いてきたってことであってる?」

「えぇ。担当はバラバラですが行ってきています」

「もう一つだけ確認したいんだけど」


 ベルの質問にロイドは首を傾げ、オリバは不思議に思いながらも回答をした。

 不思議そうな二人を尻目にベルは満足そうな表情を浮かべる。


「さぁ、カナン・ミラーに会いましょうか」


 準備はできた。

 巻き込まれたこの事象にさっさと終止符を打ちたいところだ。





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