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この世界には七人の魔女がいる  作者: 最中
その魔女は怠惰と呼ばれる
10/12

09

 



 民家は今は誰も住んでいないようだった。

 しかし埃っぽさを感じることはなく、誰かの手でしっかりと管理されているようだ。

 最後に使われたのは随分昔のことだろうに、いつ使われるかも分からないポータルを今もなおしっかり管理している街の人たちはもっと気楽に生きて欲しいと思う。


「素敵な人と街だな」


 誰に言ったでもなく溢れたロイドの言葉にベルは答えることはなかった。

 それでもロイドの言葉は良くしてもらっている人々の良さを分かってもらえたようで魔女として誇らしいものだった。


「さてさて、行きますか」


 ポータルに手を近づけるとゆっくりと青白く光り始める。本来なら起動までに数十分かかるものだが、ものの数秒で準備が完了する。直接魔女が準備をするとこんなにも早いものなのか。それにロイドが普段見る光はこんなに青は強く出ていない。


「久しぶりでも起動方法とかちゃんと覚えてるもんだね」

「直接動かすなんて初めて見たけどな」

「あ、そっか。魔力をタンクに貯めてるんだっけ? えぇ、無駄なことしたな」

「そのおかげで貴重な光景が見られた」

「まぁいいか。じゃ、さっさと行こうか」


 ポータルの上にベルが立つ。それにロイドも続くとすぐに浮遊感が体を襲う。王族としてポータルを使用することは何度もあるがこの浮遊感には慣れない。


 そんなことを考えた直後、これまで感じたことのない違和感が身体を駆け巡る。


 脳が、心臓が、肉が、骨がーーー


 すべての位置が無理やり入れ替わるような奇妙な感覚がロイドに襲いかかる。このまま自分の体の一部が四方に散ってしまうのではないか。


 否。このまま自分が消えてしまうのではないか。

 魔力の波に飲み込まれて自分という存在がなかったことになる。

 そんな絶望を感じていると能天気な声が遠くから聞こえてくる。


「とうちゃーく!」


 二重で聞こえてくる声はどこか呑気そうで。その声に反応したくても声を出すことができない。そもそも何故そんなにも元気なのか、不思議で仕方がない。

 ロイドは今自分自身が立っているのか、横になっているかも分からない。そもそも自分は五体満足でたどり着いているのだろうか。


「え、なんでそんな死にそうな顔してるの?」


 ロイドに視線を向けたベルが不思議そうに尋ねる。王族としてポータルは使ったこともあるだろう。なんだったら外交をしてるなら今回以上の長距離利用もしてきただろうに。何故こんなに体調が悪そうなのか。


 ベルが思っている通り王族という立場からロイドは確かにポータルの利用には慣れている。

 但し、それは使い魔が魔力を一般の人間に調整したポータルの利用に慣れているだけだ。


 今回のように魔女自ら起動させたポータルは魔力が必要以上に充満した状態となる。そんな状態のポータルを使えば、一般の人間は酷ければ正気を失う。


 もちろんベルはそんなことを知らない。

 ポータルを作った当初に同じようなことをやらかしているが、そんなこと覚えているわけもなかった。


「えーっと……あ、あった。気分が悪いならこれ噛んで」


 ゴソゴソとポーチから取り出した葉っぱは見たことのないものだった。

 これは何かと聞きたくても声が出ない。そんなロイドの表情で察したのかベルが何でもないように答える。


「魔女特製のスッキリミントだよ。暇つぶしに交配してたらなんか作れたんだよね。でも効果は抜群だよ! なんたって私が噛んでもスッキリしてその後はシャキシャキするから」


 なんてふわっとしながらも、説得力のあるプレゼンテーションだろう。

 そんなことを考えながらロイドはベルの方に手を伸ばすが、どうやら全く違う方向に伸ばしていたらしい。

 苦笑いしたベルがロイドの口にスッキリミントを大量に押し込んできた。

 一気に口の中に青臭さが広がり、ロイドは顔を顰める。


「本当は一枚で良いんだけど。なんか顔やばそうだから適当に噛んでおいて」


 さっきまでとは違う表情で悶絶しそうなロイドを片目にベルは当たりを見回す。

 特に看板などは見当たらないが、恐らく目的地には着いているだろう。思ったより時間もかからなかったからロイドの回復をしばらく待ち、目的の人物の所に向かっても余裕はありそうだ。


 さて何して暇を潰そうか。そんなことをベルが考えていると扉の外が慌ただしくなる。バタバタと走る音と慌てる声がなんとなく聞こえた。

 何事だと扉に視線を向けるとすぐさま扉が開くと警官数名が入ってきて銃口を向けてきた。


「お前たち、どこから来た」


 一人が銃口を向けたまま尋ねてくる。

 一般の人間なら慌てたり、怯える様な場面だが、ベルにとっては騒がしいなと思うくらいの出来事だ。

 何故このようなことになっているかという疑問よりも向けられているモノに興味を惹かれてしまった。


「来たのはメディプラ街だけど……持ってるそれ、なんだっけピストル? あの子の国が作ったやつ今そんな小さくなったの?」


 自分に銃口を向けられているというのにベルはいつもの調子だ。銃口を向けている警官の方がたじろいでしまう。

 随分昔に見たピストルはもっと運びにくい大きさだったはずだが、文明が進むのはこんなにも早いのか。とはいえ、進化が進んだものが攻撃的なものであるというのは、あの子の国らしいが危うさがある。


 どんな構造に変化したのかと、まじまじと銃口に顔を近づける。そんなベルは側から見れば奇行に見えるだろう。現に警官たちも少し後退りをしている。


「メディプラ街にポータルがあるなんて報告はない」


 たじろいでいた警官の一人が流石に我に返りベルに返答する。突然現れた少女に気味の悪さと危険な雰囲気を感じ取り、威嚇射撃をしようとトリガーに指をかけた瞬間。


「私が保証しよう」


 さっきまで死にそうな顔をしていたロイドが王族の立ち振る舞いをして二人の間に割って入る。

 正直まだ平衡感覚は取り戻せていないが、先ほどまでの酷さはもうない。スッキリミントは有難いことにしっかりと役目を果たしてくれた。


「わ、我が国の第二王子に挨拶いたします」


 ロイドが現れた瞬間に警官たちは慌てて姿勢を正す。

 先ほどまでの酷い姿は見られていないようで心の中で安堵する。

 片手を上げて楽にするようにジェスチャーを送りながら、未だピストルに興味を示している元凶におもわずため息が出てしまう。


「この方は……あー、我が国の魔女殿だ」


 ロイドの言葉に警官たちはポカンとした表情を浮かべる。それもそうだ。突然魔女だと言われても国民からすると御伽話のような存在だ。

 しかし第二王子であるロイドが嘘をつく必要はない。何より、申告なしでポータルが使えるのはその力を持っている必要がある。


 起きた事実が納得できる正体に警官たちはあわててベルに対して膝をつく。魔女に対する礼など習ったことはないが、王族に対して行う最大級の敬意をベルに対しても行う。

 知らなかったとはいえ魔女に銃口を向けてしまった。どんな罰があるかは知らないが、極刑もあり得る。御伽話でしか知らない魔女は、世界を握っている存在なのだ。


 震える警官たちにロイドは声をかけたいが留まった。

 いくら自分が王族とはいえ、魔女の方が立場は上だ。赦すかどうかはベルが決めるべきこと。何が魔女の地雷かなど人々にわかるはずもないのだ。


「勝手にポータル使ったのはこっちだしお互い様にひたいけど。流石にそれは示しがつかないよね」


 そう言うとベルは無邪気に笑い、こう言った。


「君たちから対価をもらうね」




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