彼はかく語った(PC用)
パソコンからの閲覧を推奨です。理由は、本文を読めばわかるかと。
※この作品が面白くなるかどうかは貴方の想像力にかかっています。
是非、『彼が存在する』と思って読んでみて下さい。
やあ、久しぶり。
……おっと。久しぶりと言っても君は覚えていないんだったね。
初めまして。私はフリードリヒ。ここに閉ざされて久しい者さ。
真っ暗で私の姿がよく見えない? 私もここに来て以来自分の姿を見ていないんだ。だけど、君の姿は私からはよく見えるから安心してくれ。
そんな事を言った所で、安心にならないか。ははは。
ここがどこか、分かっていない風だね。
ここは命の終着点であり、起点でもある場所さ。
天国? 地獄? 残念。そんな優しいものじゃないよ。
生まれ変わり? 輪廻転生? そちらの方が少し近いけれど、それも違う。
あぁ、そもそも死んだことに気付いていないのか。
今、君はパソコンの画面を見ているつもりなんだろうけれど、それは君の意識が作り出した虚構だよ。
私との会話をパソコンの画面上の物と君が認識しているに過ぎない。
そんなわけない? じゃあ、証明してみてごらん。
出来るわけないね。君の見ている物、聞いている物、感じている物――それら全ては君の感覚が狂っていれば証明にはならない。
それらが正しいとは限らない事を証明できたとして、正しい事を証明することは実は不可能なんだよ。
例え君が死んだ事を忘れてしまっていたとしても、それは君が君の死を受け入れていないというだけさ。
そして、死後の世界と言う存在もまた、証明が不可能なものではあるけれど。これについては、私が言っているというだけと思ってもらって構わない。
……さて、実は私はとある質問を君に問いかける為に存在し続けているんだ。聞いても良いかい? ま、嫌だと言ったところで聞くけどね。
君の人生はどんなものだった?
あぁ、別に一言で終わらせようとかしなくて良いよ。君が生まれて、君の記憶の最初から、君が記憶している最期までの人生。それは一体どんなものだった?
それを私は教えて欲しいんだ。
声に出して欲しい所だけど、声に出すのは恥ずかしいかもしれないから、頭に思い浮かべてくれないかい? そうしたら、それを私が読み取るよ。
そんな事がどうしてできるのかって? 残念だが、私はもう人の規格から外れてしまったモノなんだ。一応生まれた頃は人だったがね。
だから、君が出来ないと考えることも、私には可能だ。
じゃ、思い浮かべて――。
そう。《また》そういう人生だったんだね。
今までの君と同じだね。残念だよ。
どういう意味か?
さっき私は『輪廻転生に近い』と言ったが、輪廻転生は別人になって生き直す事を言うだろう? これはそんなモノじゃないんだ。
『永劫回帰』―― 一瞬が永遠に繰り返されるモノ。
君の人生は幾度と無く同じ人生を繰り返す。同じ日、同じ場所で同じ両親から生まれ、同じ人生を歩み、同じ死を迎える。
想像できるかな? この人生は一瞬にして常に繰り返され、君はずっと君の人生を歩み、死んでいく。
でもね。私はそれじゃつまらないんだよ。
どうして君達はそのまま変らないんだい?
人生において新しい価値を創造しない?
変えられる物を変えない?
私は可能性が見たいんだ。
君には是非、もう一度繰り返される人生の中で、違う物を見つけて欲しい。
――時間だ。
見えるかい? あそこに現れた光が現実への扉だ。あれに触れると君は君の人生をもう一度繰り返す。
生まれなおすとここでの出来事の一切を忘れてしまう。
幸せな人生を過ごす事を祈るよ。
じゃ、《また》ね。
読んでいただきまして、まことにありがとうございます。
念のため『この作品はフィクションです。フリードリヒが言っている事は真に受けないで下さい』も付け加えておきましょう。大丈夫、貴方は死んでません(笑)
ちょっと前に別サイトに投稿したショートショートです。
原作ありにしようか心底悩みましたが、とりあえずこのままで……ニーチェ作『ツァラトゥストラはかく語りき』をベースに書いております。
誤字等ございましたら、ご連絡下さい。感想もお待ちしております。
2パターン作成しましたが、違いは『君』が死後をどう認識しているかだけなのです。期待していた方、すいません。