新たな敵(?)が現れました
敵を求めていた水門たちの前に、それは現れた。
山の下の方から這い上がってきたフラフラな状態の小太りのヤンキーだ。
ジャラジャラとベルトにチェーンなどの金属類をつけていて重そうだ。
「……敵ですかね?」
と呟く水門に、男二人が、
「行き倒れそうになってる人に見えるが……」
と言う。
確かに。
敵を求めるあまり、自分たち以外のなにかなら、アリでも敵にしたい気持ちだったので、見誤ってしまったようだ、と思いながら、水門は近くまで来たヤンキーに声をかけた。
「大丈夫ですか?」
ヤンキーはホッとしたように前のめりに倒れかけた。
水門は慌ててそれを支えようとして、一緒に座り込む。
ヤンキーの頭が膝の上に乗り、かなりの重量だったが、うっ、と思いながらも、水門は耐えた。
「大丈夫ですか?
お水でも……。
あ、いや、ないんだった」
うう、とヤンキーが呻く。
「お腹空いてませんか?
……って、なにもないんだよな~」
困った水門は木々に覆われた山の下を窺うように見たあとで、膝の上のヤンキーに訊いてみた。
「あの、最後の力を振り絞って、この人と戦っていただけませんか?」
手で示された矢頭に、
「鬼かっ」
と叫ばれてしまったが、水門が戦闘に固執するのには訳があった。
「いやいや、戦闘中なら私と矢頭くん、『召喚』の能力が使えるじゃない。
とりあえず、戦うフリして、金の延べ棒を召喚しようかなと思って。
下に町があったとしても、食事やなにか確保するのにお金、必要でしょ?」
「まあ、それはそうだが。
召喚で呼んだ木刀なんかは戦闘終わったら消えたじゃないか」
金の延べ棒も消えてしまうのではないかと矢頭は言う。
「でも、延べ棒はうっかり投げちゃっただけで、もともとは私のチート能力だから、消えないかもしれないじゃない。
それか店先で戦闘をはじめて、延べ棒召喚して。
払い終わるまで戦闘しとくとか」
「店の前で戦闘、迷惑だろ」
「払い終わったあと、延べ棒消えるかもしれないのも迷惑だろ」
と倒れているヤンキー以外の男たちに説教される。
いや、消えないかもしれないではないですか……と思う水門を何故か小太りなヤンキーは拝んでいる。
「聖女様だ、聖女様だ」