ホンモノのヤンキー様が現れました
とりあえず、山を下りようと二人は坂道を下っていた。
「矢頭くん、その歩き方さまになってるよ」
ヤンキー風にブラブラ歩いている矢頭を見て、水門は笑った。
「これはただのやさぐれた俺の気持ちの表れだっ。
あんまり金持ってない奴から巻き上げるとか俺の主義に反する」
「金持ちならいいんだ……?」
と水門が苦笑いしたとき、目の前に白シャツの制服を着崩した男子高校生が現れた。
ヤンキー様だ。
「この人茶髪だよ。
金髪の矢頭くんの方がなんだか勝ってる気がするね」
「……何処で勝ち負け決めてんだ」
この人も変化したのだろうか、と思い眺めていると、彼は水門に向かい訊いてきた。
「お前、悪役令嬢かっ」
……は?
意外に可愛らしい顔をした茶髪は、
「ここは異世界って奴だろう」
と訊いてくる。
「やっぱり、あなたも異世界に飛ばされた人なんですか?」
「そうだよ。
土産物屋で俺の好きな子がどっかの高校のヤンキーにナンパされてて、満更でもない顔してたんで、ふてくされて山をどんどん登ってったら、変な鳥居があって」
「……奥の院をのぼって鳥居に来たのなら、たぶん、寺の下の土産物屋だろ?
そのどっかの高校のヤンキー、もしかして、植木じゃないのか?」
「まあ、塁、顔は悪くないですからね」
ナンパされて、彼女が満更でもない顔してたのもわからなくもない。
「塁のせいで、ここに迷い込んだのなら、なんか申し訳ないですね」
そう水門が呟いたとき、そのヤンキーは、
「おい、お前。
後ろにいるその悪役令嬢寄越せよっ。
知ってんだよ、妹のマンガ読んでっからっ。
異世界で最強なのは、悪役令嬢なんだよっ」
と矢頭に水門を渡すよう、要求してきた。
「あの、なんで、この人、私を悪役令嬢だと思ってるんでしょうね?」
「人を見抜く目があるんだろ。
お前の外見に騙されず、こいつが一番タチが悪そうだと直感で思ったんだろう。
おい、ヤンキー」
おのれもヤンキーの姿をしているくせに、矢頭はそう彼に向かい、呼びかけた。
「お前もここから抜け出したいんだろう。
協力しないか」
うるせえっ、とヤンキーはその辺に落ちていた太い木の枝をつかみ、地面を叩く。
「ラスボスみたいな目をしやがって、お前の言うことなんぞ信じられるかっ」
「なるほど。
見る目がある人みたいですね」
「……人の陰に隠れておきながら、なに言ってんだ」
矢頭はさりげなく彼の後ろに隠れた水門を振り向き、言ってくる。
気の短いヤンキー様が殴りかかってきた。
おりゃあああっと突っ込んでくる彼を見て、矢頭は手のひらを上を向ける。
冷静に、
「召喚」
と言ったが、その手に現れたのは、茶筒に入ったお茶だった。