ヤンキーの特殊能力を発揮してください
結局、矢頭が木刀を召喚し、ゾンビたちを倒した。
「何故、木刀……」
「さっき土産物屋で見てたやつだ」
と矢頭はその木刀を眺めながら言う。
なるほど。
柄の部分に、『京都』と彫ってある。
だが、その木刀は最後のゾンビが倒れて、ちょっとすると消えた。
「矢頭くんって強いんだね」
と水門は素直に称賛したが、矢頭は、
「……ヤンキーに変化したからだろ」
と素っ気なく言う。
「ヤンキー別に強くないよ。
塁なんて、悪事は『女の子とチャラチャラする』くらいしかしないから」
戦ってるのなんて見たことないよ、と水門は言ったが。
「お前が見たことないだけじゃないのか」
と矢頭は言う。
「あっ、待って。
矢頭くん、急いでっ。
ヤンキーの特殊能力を発揮するときだよっ」
「なんだ、ヤンキーの特殊能力って」
「カツアゲ」
と水門は言った。
「早くっ、ゾンビが逃げてくよっ」
水門はそうっと消えていこうとしているゾンビたちを指差す。
ゾンビたちがギクリとしていた。
「鳥居を探そうにも、旅の資金がないんだよ。
申し訳ないけど。
ここはひとつ、悪い奴らからお借りしようよっ」
「……そんな昔の文学に出てくる、サナトリウムに向かう薄幸のヒロインみたいな顔でなに言ってんだ。
実はお前が悪い奴なんじゃないのか」
金の延べ棒はどうした、と言われる。
「投げちゃった。
さっき、矢頭くん助けようとして」
「もう一回召喚しろ」
と言われたが、できなかった。
矢頭はゾンビをカツアゲした。
矢頭はゾンビの三途の川の渡し賃をせしめた。
「待てっ。
俺の方がゾンビより悪いやつになってるだろーっ」
「大丈夫だよ。
ラスボス倒したら、きっと財宝がガッポガッポで彼らにも返せるよ」
「ラスボス……。
ゲームの世界じゃあるまいし。
そんなものこの世界にいるのか?」
矢頭は下を見て溜息をつく。
鳥居が消えた向こうに下に下りる道はあったが、来たときのように地蔵が並んではいなかった。