お前の妄想に異議を申し立てる!
「もしや、これは……
あの鳥居を探さねば帰れないとか?」
ヤンキーな風貌のまま、いつもの思慮深い顔で矢頭は呟く。
「そうなのかもね。
矢頭くん、ゾンビ」
ゾンビたちがスローにこちらに向かっていた。
ゆっくりな動きなので、攻撃されてもかわせそうだが。
「でも、こういうのって、きっと、こっちが疲れても、休まず何処までも何処までも追ってくるのよね。
そして、私たちが疲れ果てたところで、むんずと矢頭くんの足をつかんで引き倒し、肩をつかんで頭から齧……」
「待て」
と矢頭が言った。
「今の妄想の中で逃げてたの、俺とお前だろ。
なんで、俺だけ齧られてる」
いや、たまたまですよ。
どっちでもいいじゃないですか、と水門が思ったとき、まさに今の妄想通りに忍び寄ったゾンビが矢頭の足をつかんで引き倒した。
「矢頭くんっ!?」
ゾンビに乗られた矢頭はゾンビの額に手をやり、押し返そうとしている。
「なにかっ。
なにかないかなっ」
水門は辺りを見回したが、ゾンビを殴れそうな大きな石もない。
次々ゾンビはこちらに向かい、やって来ている。
「し、召喚っ!」
と水門は叫んでみた。
だが、今度は矢頭のような助っ人は現れず、水門の手に金の延べ棒が現れた。
「お前、それ召喚しなくても、紙袋の中に持ってたろ~っ」
矢頭は齧られそうになりながら文句を言ってくる。
いやいや、勝手に延べ棒が飛んできたんですよ、と思いながら、水門は、えいっ、とゾンビの後頭部を殴ってみた。
が、金は意外と柔らかく、変形してしまう。
「……駄目ね」
水門はゾンビの頭の形に歪んだ金を見ながら呟いた。
「こんなんじゃ死なないわ。
……ゾンビ殺すにはなにがいいのかしらね。
ああ、斧かな。
斧で首を落とすのがいいかしら」
水門は延べ棒を手のひらに打ちつけながら、半眼の目でゾンビを見据えた。
ゾンビがビクッとする。
「……ヤンキーになった俺より、なにも変化してないお前の方が怖いぞ」
と矢頭が呟いた。