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京都に修学旅行に行ったら、異世界に着いたので、こまって、とりあえず、クラス委員の矢頭くんを召喚してみました  作者: 菱沼あゆ


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矢頭の真実

 

 そこはあの森だった。


 いや、現実にそこにいるのではない。


 あの森が玉座の間に現れたのだ。


 森と被るように玉座の間が見えるから、おそらくそれで間違いない。


「見てっ」


 楓子が指差す先に、楓子以外、誰も見ていない社殿が現れた。


 古いひっそりとした雰囲気の社殿。


 年月を経た木の香りがここまで漂ってきそうな感じがした。


 楓子が進み出る。


「ありがとうございます。

 おかげでお姉様と会えて、長年のわだかまりも解けました。


 いっぱい仲間もできたし」

と楓子は共に苦労したみんなの顔を見回した。


「あ、カエルたちにお別れ言いそびれたのがちょっと心残りだけど……」


 思わずそうもらす楓子に猿渡たちが慌てて手を振る。


「心残るなっ。

 もう満足ですという顔をしろっ」


 楓子は笑って社殿に言った。


「私、ドイツのみんなに会いたい。

 休みには日本に帰ってきて、この仲間と遊びたい。


 もう……


 私、もう、ここではない何処かに行かなくてもいいです」


 強い瞳で楓子がそう言い切った瞬間、社殿がすうっと消えていた。


「ああっ、なんでっ?」


「楓子、てめっ。

 祈りようが足りねえんじゃねえのかっ?」


 みんなが叫んだが、矢頭が、

「待て、違う。

 よく見ろ」

と鳥居を指差した。


 鳥居の向こうの社殿は消えたが、他の場所より、鳥居から覗く森の方がはっきり見えていた。


「俺たちの世界だっ」


「さあ、行け。

 一応、楓子は最後にしろ。


 最初に飛んだこいつが帰ったら、社殿がうっかり鳥居を閉じてしまうかもしれないからな」


 あとのみんなは巻き込まれただけなんだろうから、と矢頭は言った。


「じゃあ、来た順の逆から帰ろうぜ。

 行け、ガリ勉っ」


 ええっ? という皆川は帰れるというのに名残り惜しそうに何度も振り返っていた。


 だが、みんなに急かされ、

「……またな」

と小さく言い、笑ってみせる。


「おう。

 俺ら全国津々浦々から来てるから、またいつ会えるか知れねえけど」


 猿渡はそう言い笑って手を上げたが、浜田が、

「なに言ってんすかっ。

 またいつか会えますよ、京都でっ」

と言う。


 何故に京都……と水門は思っていたが、横で矢頭が、


「人は疲れると京都に旅したくなるものらしいからな。

 OLとかそうだろう」

と呟いていた。


 いや……この人たち、一生、OLにはならない気がするんだけど。


 皆川が消え、

「じゃあな」

と蜂山が笑って鳥居をくぐり、松岡とハイタッチして、赤西が消えた。


 塁が振り返り、

「……じゃ、あとで」

と言い、そのまま行こうとしたが。


 戻ってきて、水門の腕をつかむと、軽く頬にキスしてきた。


 ええっ? なんでっ?

と水門が思った瞬間、塁を矢頭が鳥居の向こうに蹴り込んでいた。


 それが塁との別れになった。


「アニキ、……またいつか」


 そう猿渡が矢頭との別れを惜しむ。


 松岡が、

「なに物悲しい顔してんだよ。

 どうせすぐに会えるじゃねえか」


 そう言いながらも、なんとなくなのか、異世界を去るのが寂しいのか、ちょっと涙ぐんでいた。


 猿渡も、松岡も消えた。


「お姉様」

と楓子が水門を見る。


 立ち止まったままの水門に、

「なにしてるんだ、早く行け」

と矢頭が言う。


「いや、行かないよ」


「……なんでだ」


「案の定だよ」


 水門は幻の森の中を見ながら言う。


「ひとり消えるたび、マイ地蔵が消えてるよ。

 自分の地蔵がないと戻れないんじゃないかな? ここから」


「お前の地蔵はそこにある。

 早く行け」


 指差す矢頭に水門は言った。


「矢頭くんの地蔵はないよ。

 私が召喚しちゃったから」


「じゃあ、お前がリアルに戻ってから俺を呼べばいいだろ」


「矢頭くんが言ったんだよ。

 リアルで召喚の魔法は使えないって」


 ごめんね。

 矢頭くん頼っちゃって……と水門は言った。


 そう。

 矢頭だけが帰れないのだ、この異世界から。


 自分は異世界から矢頭を召喚した。


 なので、矢頭には自分の地蔵がなく、地蔵とともに戻れない。


 そして、水門がリアルに戻っても、リアルで水門が矢頭を召喚することはできない。


 水門が行った矢頭の召喚。


 その転移は最初から異世界への片道切符だったのだ。


「……紅井」


 ぽん、と矢頭が水門の肩に片手を置く。


「でも俺は……、お前が植木じゃなく、俺を呼んでくれて嬉しかった」


 矢頭は身を屈め、水門に口づけた。


「さあ、行け。

 俺ひとりなら、なんとかここで暮らしていけ……」


 楓子ーっ、と気づいたように矢頭が叫んだ。


 楓子はさっさと鳥居をくぐって帰ろうとしていたのだ。


 楓子は振り返り言う。


「お姉様はあなたを置いて帰らないわよ。


 ……双子だからわかるの。


 大丈夫。

 お姉様はあなたと同じか、それ以上にタフだから。


 じゃあね、バイバイ。

 矢頭くん、お姉様」


 楓子は手を振り、鳥居をくぐった。


 鳥居が消滅する。


 気がつけば、玉座の間も古城もなく、草原に二人は立っていた。


 城を呼ぶ塁と楓子の両方が消えたからだろう。


「……お前は莫迦なのか」


 横に立つ水門を見下ろし、矢頭が言う。


「別に莫迦じゃないよ。

 さっきからずっと考えてたんだよ。


 どうやったら、この世界で快適に暮らせるか。


 まず、住処(すみか)だけど。

 あの城、私も呼べるんじゃない?」


「いきなり城に住む気か……」


「家を呼んでもいいけど。

 もし、親がついて来ちゃったら、あんた、なにしてくれてんのーって怒られそうだし。


 あ、学校呼んだら、みんなに会えるね」


「学校細部まで覚えてんのか、てめえは」


「大丈夫だよ。

 城だって、そんなに覚えてなくても呼べるじゃない。


 あ、でも、私、あんまり特別教室の棟の方は覚えてないから呼べないかも」


「実験も裁縫もやらないのなら呼ばなくてよくないか?」


「部室棟は帰宅部だから、入ったことないから呼べないし」


「必要か? 部室棟」


 ここでバスケでもやるのか、と延々と突っ込まれる。


 異世界での暮らしに不安になる暇もないほどに。


「兵隊さんが夜中に行進してるっていう旧校舎も侵入禁止だから呼べないなあ」


「霊をこの世界に持ち込むな。

 霊もカエルもビックリだろうが」


 そう言う矢頭に水門は笑う。


「なんとかなるよ」


「……確かに。

 お前といると、何処でもなんでも、なんとかなりそうだ」


 なんとなく二人は手をつなぎ、歩いていった。


 関所にいたカエルたちが気づいて手を振る。


「とりあえず、カエルとうさぎと一大観光都市を作るよ」


「タフだな、ほんと」


 呆れたように矢頭は言ったが、その手を離すことはなかった。


「ほら。

 行くぞ、……水門」


 そう名前で呼びながらも、こちらを見ない矢頭に水門はちょっと笑って、


「はーい」

と言った。




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