マイ地蔵が!
「っていうか、お前ら、ここに地蔵を召喚するな」
俺が支配人に怒られるわ、と塁がその場で召喚の練習をはじめた赤西たちを指導していた。
「鳥居とか社殿まで飛んで来たらどうする」
「大丈夫だよ、天井高いからこの部屋」
絵画の描かれた天井を見上げながら、水門は笑う。
「……あの鳥居のあった森まで召喚するなよ」
「大丈夫だよ、天井高いからこの部屋」
今度は浜田たちの面倒を見ながら、水門は答えた。
「……お前、適当に言ってるだろ」
と塁が言ったとき、
「やったっ。
召喚できたっ」
と蜂山が声を上げた。
「見せてっ」
「見せてみろよ、生意気なっ」
楓子と猿渡を先頭に、みんなが覗きに行く。
「おおっ。
地蔵……が……」
猿渡の感動の言葉は途中で止まった。
「こんな柄もんのよだれかけなんてやってたか? 地蔵さん」
「なんかフォルムが違わない?
それに、こんな白っぽい石だっけ?」
猿渡と楓子にたたみかけるように言われ、あっ、ほんとうだっ、と蜂山が声を上げた。
「これ、うちの近所の地蔵さんだわ。
うちのばあちゃんに言われて、俺が月一で、ばあちゃんが縫ったよだれかけ付け替えてる」
召喚のとき、見慣れているお地蔵様を無意識のうちに思い浮かべてしまったようだった。
「……蜂山くん、いい人だねえ」
水門はしんみりと蜂山の肩を叩く。
「戻しとけ。
拝みに来たばあさんたちが、地蔵がなかったら、ビックリするから」
そう矢頭に言われ、蜂山は照れ笑いする。
お地蔵様によだれかけを作って差し上げる、やさしいおばあさまのためにも、早く蜂山くんを元の世界に戻してあげなければっ。
今まで自分たちには見せなかったような顔をする蜂山を見ながら、水門はそう心に誓っていた。
「やった!
マイ地蔵が!」
悪戦苦闘の末、いや、途中で呑気に、時間になったので開いた、さっきとは違うレストランに行ったりもしたのだが――
まあ、ともかく頑張ったせいか、皆川の前にあの地蔵が現れた。
楓子が手を叩いている。
成功例を目の前で見て、緊張が解けて上手く行きはじめたのか、あちこちで声が上がった。
「俺もマイ地蔵が!」
「だから、なんだ、マイ地蔵って……」
と矢頭がその様子を見ながら呟く。
みんな何度も必死に、自分にとっての一番手前の地蔵を思い描きすぎたせいで、思い入れが深く、現れた地蔵のつるんとした頭を撫で回す勢いだった。
いや、苔がはがれたりして、不具合が起こってはいけないので触らないのだが。
ずらりと地蔵が玉座の間に並ぶ。
ドイツの古城と日本の地蔵。
妙にシュールな感じだった。
「水門……、地蔵は?」
とりあえず並べてみているのだが、楓子の次の地蔵がない。
水門のだ。
ああ、うん、と頷いた水門は、
「召喚、地蔵」
とコマンドを開き、一瞬でそれを出した。
「さすが姫」
と蜂山が感心する。
「いやいや、今、頭の中で何度も思い浮かべてたから」
なにを思って何度も思い浮かべていたのか水門は言わなかったが、塁が、
「なんで今まで出さなかった」
と笑わない目で訊いてくる。
いつもチャラチャラしてるけど、塁は頭がいい。
ずっと一緒にいたからわかってる――。
「あれ、アニキ。
アニキの地蔵は?」
松岡に訊かれた矢頭が、
「莫迦だな。
俺はこいつに召喚で呼ばれたんで、地蔵は見てないだろ。
……ほら、早くしろ」
と彼らに言って笑っていた。
順番に地蔵を並べ、
「合ってるかな~?」
「人の地蔵はあんま見てないよな」
「人の地蔵ってなんだよ。
単に自分が見たとき、一番手前じゃなかったんで、よく見てない地蔵だろ」
と言い合いながらも、みんな楽しげに並べていた。
「俺が最後は確かだよ。
地蔵一個しかなかったから、一って数えたんだから」
「一なのになんで数えたんだよ。
数えてなかったら、飛んでねえんじゃねえのか、ガリ勉」
皆川と蜂山が揉めながら笑っている。
水門がその光景を眺めていると、横で矢頭も同じように眺めていた。
「こうじゃないか?」
「よし、一度やってみようっ」
ずらりと並んだ地蔵の前、全員であの鳥居を思い浮かべる。
祈るためにすぐ目を伏せたのと、赤い夕陽に紛れてしまう色のせいで、よく覚えていない鳥居を――。
全員の記憶をかき集め、今も何処かをさまよっているだろう鳥居の姿を想像した。
「召喚っ!」
全員が叫んだ瞬間、カチリ、となにかがハマったような音がした。




