玉座がありますよ
そのあと、全員で玉座の間に移動した。
塁が借りている部屋だ。
もともとは城主の部屋だったらしく、赤と金を貴重にしたゴージャスな造りだ。
ちなみに玉座の間の右隣は皇帝の間で、左隣は王の間だった。
「……何処が一番偉い部屋なんでしょうね」
「特に意味はないんじゃないのか?
ホテルのスイートルームの種類みたいなものだろう。
インペリアルとか、エグゼクティブとかラクジュアリーとか」
でもまあ、と矢頭は後ろを振り返り言う。
「ここには玉座があるけどな」
金の縁取りの赤い玉座が上飾りのついた重厚な赤茶色のカーテンの向こうに神宝が祀られているかのように置かれている。
「よし、こいつに座った奴をラスボスということにしよう」
と矢頭が言い出した。
そんなこと言われたら、誰も座りたくない……。
蜂山、赤西、皆川は今にも座らされそうな予感がするのか、俯いてしまっている。
「じゃあさ、あれやったら?」
椅子取りゲーム、と塁が言った。
「その辺の椅子をかき集めてやろうよ」
いや、そんな軽々しく動かしていい感じではない椅子しかこの部屋にはないのですが。
「でさ。
音楽が止まったとき、玉座に座った奴がラスボス」
と塁が笑う。
でも、そもそも、ラスボス決めてどうすんだ、と水門は思っていた。
ラスボスを倒したら、元の世界に戻れるかもと矢頭くんが勝手な希望を抱いてたから、ラスボスにこだわってるわけだよね?
でも、この中のメンツがラスボスになったところで、誰も現実世界に戻す力なんてない気がするんだが……。
「ラスボスになれ、というコマンドがあればよかったのにな」
矢頭の言葉に、ひっ、と全員が息を呑んだ。
「もうあんたがラスボスでいいじゃねえかよ、総長」
と蜂山が言うと、矢頭は彼を見下すように見て言う。
「俺を総長と呼ぶな。
俺は委員長だ」
……その目つきで完全にラスボスですけど、と全員が思っていた。
「まあ、とりあえず、一度、ジャンケンでラスボス決めてみたらどうだ?」
どうせそれでなにかが起こるわけないだろうという感じで、塁が提案する。
いや、異世界的にはなにも起きないかもだけど。
矢頭くんから物理的になにかが起きそうなんだけど……。
そう怯えながらも、みんなで渋々ジャンケンする。
大人数なので、なかなか決着しないかと思われたが、一瞬で、赤西がパーで負けた。
赤西のこれ以上ない運のなさが露呈した瞬間だった。
いやだあああっ、と赤西が叫んで逃げようとする。
むんずと矢頭がそんな赤西の首根っこをつかんだ。
「よし、お前をぶっ飛ばしたら、現実世界に戻れるんだな」
最早、ただここに来てからのイライラをラスボスと名付けた人にぶつけたいだけのように見えるんだが……と思う水門の前で、赤西が逃げ惑う。
「誰もそんなこと言ってねーっ」
「や、やめてやれ、総……
委員長っ」
と蜂山が間に入って止める。
赤西と蜂山の間に友情が生まれたそのとき、ノックの音がした。
「塁ーっ、いるのー?」
楓子のようだ。
塁が扉を開けると、関所で巻き上げたらしい餅や握り飯などをカゴいっぱいに抱え、楓子が現れる。
「差し入れ持ってきたわよ。
あら、人が増えてる。
お姉様とその下僕たちまで」
「おなじ顔だ」
楓子と水門を見比べ、蜂山たちがざわついていた。
矢頭だけが、
「どこがだ。
全然似てないぞ」
と呟いていたが……。




