顎クイされました
「そうか。
お前も山の中で鳥居と出会ったのか」
舎弟、浜田からここに来た経緯を聞いた矢頭はそう言い頷く。
「ヤンキーの方々は信心深いですね」
と水門は苦笑いした。
みんな鳥居を見て拝んだからここに来ることになったのだろう。
「だって、暴走族とか正月とか国旗立てて初詣行ったりしてるしな」
と言う塁に、あれ、初詣に行ってたんですかね? と水門は思う。
「他の連中からも話を聞きたいんだが」
矢頭がチラと倒れたままのヤンキーたちを見る。
腹に怪しい手裏剣を受けた浜田がすぐに意識を取り戻したのは、矢頭が舎弟には手加減したからなのだろう。
「困りましたね。
こいつら、矢頭さんが訊いても、素直に答えそうにありませんしね~」
浜田がそう心配そうにそう言う。
「水門が訊けばいいんじゃね?
可愛いし。
にこっと笑ってヤンキーどもに訊いたら、イチコロだよ。
こいつの得体の知れなさも腹黒さも顔に出てないし」
と塁は言ったが、矢頭は即座に、
「駄目だ」
と言う。
「なんでだよ?」
と言う塁の問いに矢頭は答えなかった。
「いい。
やはり俺が訊こう。
なんかいい方法はないかな。
……そうだ」
矢頭は何故か水門に背を向けた。
「なにするの?」
と水門が覗き込もうとしたが、しっし、と払われる。
「植木、そいつを抑えとけ」
ラジャ、と塁は水門を羽交い締めにして抑える。
水門に背を向けた矢頭はコマンドを呼び出し、スクロールさせていた。
「よしっ、これだっ」
コマンドを入れ替えたらしい矢頭は、召喚のすぐ下をそれにして、コマンド画面を小さくしていた。
コマンドの上の方しか見えなくなる。
この人、なんのコマンドを見せたくないんだろうな。
いつも素早くコマンド終わらせるけど……と思っている間に、矢頭は倒れているヤンキーその一のところに行った。
最初に現れたチェーンじゃらじゃらで髪の逆立ったヤンキーだ。
「召喚、木刀っ」
矢頭は木刀を出し、一度肩に担いでみせる。
おう、サムライ! と外国の人たちが写真にその姿を収めていた。
矢頭は彼らに叩き出されないよう、彼らが喜びそうなパフォーマンスを見せているようだった。
おい、と矢頭は気を失っているヤンキーの顎を木刀でつつく。
「……ヤローに木刀で顎クイ」
と水門の横で塁が苦笑いしている。
ヤンキーが目を覚ました。
「てめっ、矢頭っ」
ヤンキーが起きあがろうとしたとき、矢頭がコマンドを使った。
「コマンド!
『てめー、どこ中だっ?』」
「俺は二中で頭張ってた蜂山だっ」
そこからヤンキーが語りはじめる。
「俺の通う商業高校の修学旅行は毎年、京都だっ。
俺も京都に来て、風情のある寺の後ろを歩いていたら、鳥居が現れて……」
どこ中かの紹介にはじまり、ここへ来るまでの経緯を自動的に教えてくれる。
矢頭は窓際で倒れているヤンキーも起こした。
「コマンド、『てめー、どこ中だっ?』」
「俺は二中で頭張ってた赤西だっ。
今は地元の農業高校に通っている。
うちは修学旅行、毎年、京都だから、俺も京都に来て、風情のある寺の後ろを歩いていたら、鳥居が現れ……」
「……あの、二中の頭だった人が二人もいるんだけど」
「そこは今は突っ込んでやるな……」
と水門は猿渡に言われた。
そのとき、もうひとり、今度はヤンキーっぽくない、ジャケットの制服をきちんと着た生徒が飛び込んできた。
「あっ、矢頭っ、赤西っ、蜂山っ」
矢頭はもう手裏剣は食らわさずに、木刀をその顔に向け、言った。
「コマンド、『てめー、どこ中だっ?』」
「俺は付属中で裏番張ってた皆川だっ」
「新しいバージョンが来ましたよ」
「今は地元有数の進学校に通っている。
矢頭の野郎、俺よりちょっと成績がいいからって越境して名門高校に行きやがってっ」
「相当な個人的な恨みですよ……」
「ところで、うちは修学旅行、毎年、京都だから、俺も京都に来て、風情のある寺の後ろを歩いていたら、鳥居が現れ……」
「もう京都への修学旅行は見合わせた方がいいんじゃないかな」
どうしてみんな京都に集まるんだ……と水門は呟いた。
「来年は北海道にでも行くよう要望を出したらどうだ」
ま、俺たちはもう行かないが、と矢頭が横で腕組み、呟いていた。




