チート能力はヤンキーと……
眩しい光に包まれた水門は目をしばたたく。
ようやく周囲が見えてきたとき、目の前にいたのは金髪に黒いTシャツ、金のネックレス。
だぼっとしたカーキ色のパンツをはいたイケメンヤンキーか、ヒップホップダンサーかわからないものだった。
だが、そのゾッとするような目の鋭さで誰だかわかる。
「ああ……、矢頭くん?」
「待てっ。
これ、俺、どうなってるっ!?」
と言いながら、矢頭は自らの髪を引っ張ってみている。
「ヤンキーになってる」
「ヤンキー、チートな能力かっ!?」
「矢頭くん、高校デビューだね」
俺はもう二年だっ。
その二年ももう秋だっ、と矢頭は叫ぶ。
「いつもよりイケてるよ」
「いつもの俺はイケてないのかっ」
「いやなんか、できすぎた秀才って引くんだよね。
顔が整いすぎてるのも、白い肌に黒髪が映えてるのも綺麗すぎてなんか怖かったから。
今の方が抜け感があっていいよ」
「……お前らの言う、その抜け感ってなんだっ?」
さあ? 雑誌の編集者か、そもそも、お前のそのファッションはどうなんだ? と問いたくなるファッション評論家にでも訊いてくれ、と水門は思っていた。
「ところで、お前のチート能力はなんなんだ」
一緒に光に包まれたろ? と問われた水門はいつの間にか、手に紙袋を抱えていることに気がついた。
矢頭と二人、覗いてみる。
「金塊だよ、矢頭くんっ」
「ある意味、最強のチートだな……」
紙袋の中には数本の金の延べ棒が入っていた。
どうりで重いと思った、と思ったそのとき、その重さに耐えかねたのか、紙袋の底が抜けた。
「ああっ、私のチート能力がっ」
ごろんごろんと金の延べ棒が二個、山を転がり落ちていった。
「おむすびころりんかっ。
簡単に身から外れるようなチート能力を手に入れるなっ」
と矢頭がダッシュして、取ってきてくれる。
「すごいっ。
さすがは最強のヤンキー」
ありがとう、と延べ棒を受け取りながら水門が言うと、
「……ヤンキーって足速いイメージあるか?
コンビニの前でダラッとたむろってるイメージじゃないか?」
などと言っていた矢頭だったが、なにかに気づいたように顔を上げる。
「どうしたの?」
「……鳥居が消えてる」
「あれ?
願い事、全部叶えちゃったからかな?」
夕焼けのような怪しい赤い光に包まれた山の中。
鳥居は消え、ゾンビと水門たちだけが取り残されていた。