ラスボスはあなたですっ!
母親に勧められ、幼い頃から矢頭はバイオリンをやっていたらしい。
名門小学校の音楽仲間でカルテットを組み、バイオリニストの母親のコンサートに出演して、その素晴らしい息の合った演奏で評判になった、という良い記憶から、族の名前をカルテットにしたようだった。
「なんでそのままバイオリン続けなかったの?」
そしたら、族の総長にはなってなかったんじゃ、と思いながら水門は訊いたが。
「バイオリンは今でもやっている」
と矢頭は言う。
「そういや、一年ときも、矢頭と同じクラスだったんだが。
音楽の授業で、先生に頼まれて弾いてたな」
そう思い出したように塁が言った。
「バイオリンも習いながら、暴走族の総長もやってたんだ。
いや、最初は暴走族のつもりはなかった。
レッスンが上手く行かないとき、勉強でつまづいたとき、走るとスカッとしたんだ。
気がついたら、仲間が増えていて。
服も仲間たちと買いに行くようになった。
もともとファッションには興味ないし、自分で選ぶのがめんどくさいので、奴ら任せにしたら、こんな感じになった」
と今自分がしているヤンキーファッションを見下ろす。
「仲間の中に、家が美容院の奴がいたんで、みんな付き合いで、そいつの家に髪を切りに行くようになった。
で、なんだかんだで、気がついたら、金髪に染められていたが、周りもみんなそんな色だったので、違和感はなかった」
なんだかんだで、意外に流されっぱなしですね、あなたの人生。
バイオリンを弾く優等生のお坊っちゃまだったのが、知らぬ間に、ヤンキーの世界に放流されていたようだ……。
「バイオリンを弾き、勉強もし、時にみんなでバイクで走り。
部活には入っていない。
そんな中学生活だった」
という話を聞いていたとき、矢頭の舎弟がむくりと起き上がってきた。
倒れながらも話が聞こえていたらしい彼は、
「矢頭さんはいい総長でした。
でも、矢頭さんが全国制覇されて、遠くの高校に行ってしまい、族は解散になってしまったんです」
と語り出す。
「全国制覇?」
と水門が訊き返すと、
「矢頭さん、全国模試で一位とったんですっ」
嬉しそうにその可愛らしい舎弟は言った。
あ~、と水門と塁は頷く。
「それでうちの高校に来たのか~」
「遠くからも来る奴いるから、矢頭が地元出身じゃなくてもなんにも思わなかったよな~。
っていうか、族の総長とか。
お前がラスボスじゃねえかっ」
と何処までもチャラいだけの塁が矢頭に言う。
「……完璧な変装で高校に通っていたのに。
まさか、異世界で真の姿に戻ってしまうとは」
あっちが変装だったのか……と苦笑いした水門は言った。
「そういえば、楓子のいる寄宿舎、日本人もいるから、もしかして、その中に矢頭くんを知ってる子がいたのかもね。
それで、楓子に暴走族の総長だって写真見せたことがあったのかも」
「なんで、そいつが矢頭の写真撮ってて、楓子に見せんだよ」
そう訊く塁に、
「だって矢頭くん、格好いいじゃない」
と水門が言うと、矢頭が予想外に真っ赤になった。
舎弟を助け起こそうとした手までぎこちなくなっている。
「……ラスボスは紅井水門だったな」
何故か猿渡が笑ってそう言った。




