消えた猿渡
廊下の真ん中に突っ立っている松岡の許に駆け寄り、水門は訊いた。
「猿渡くんは?」
「そ、それが突然消えて……」
なにっ? と矢頭が訊き返す。
「俺、ずっとここにいたのにっ。
あいつ、いつの間にか消えてたんだっ。
俺がぼんやりしてる間にっ」
「いくらぼんやりしてたとしても。
人がいきなり消えるわけがないだろ。
例え、ここが異世界でもだ。
誰かがなにかしたか。
本人が自ら消えたかだ」
猿渡の言葉に、うーん、と水門は唸ったあとで、
「でもさ。
誰かが『召喚』使ったら消えるかもよ」
と言う。
「召喚……?
一体、誰が」
「あっ、そうだっ」
と水門は手を叩いた。
「コマンド!」
水門はあの画面を呼び出した。
「召喚っ」
どさりと猿渡が廊下に降ってくる。
誰かが猿渡を召喚したのなら、こちらも召喚し返せばいいと気づいたのだ。
「猿渡っ」
みんなが彼に駆け寄る。
「なにがあったんだ、猿渡っ」
抱き起こそうとする矢頭に猿渡は目を薄く開け、切れ切れに言った。
「……あいつ、が」
「あいつってどいつだっ?」
「カエルですかねっ?」
「あいつがいた……」
「うさぎじゃないのっ?」
「ゾンビじゃないっ?」
黙れお前らっ、といちいち口を挟む松岡と水門を矢頭が叱る。
「あいつって誰だ、猿渡っ」
矢頭は猿渡を揺すった。
「しっかりしろっ。
俺たちが仇を討ってやるっ」
矢頭は猿渡をガクガクと揺すった。
「誰にやられたっ、猿渡っ」
猿渡は朦朧とした顔つきのまま、ゆっくりと手を上げ、一箇所を指さした。
みんながその指の先を追う。
そこには水門がいた。
「えっ? 私っ?」
「楓子じゃなくてかっ」
同じ顔だからか、すぐさまそう問う矢頭に、
いや、あんた、なに楓子を呼び捨てにしてんだ……と水門は思っていた。
だが、そのままその指を猿渡は矢頭に向ける。
矢頭は自分の後ろを見た。
誰もいない。
猿渡は矢頭を指している。
矢頭はさっきと反対側から自分の後ろを振り向いてみていた。
「お前かっ」
と松岡に言う。
「いやいや、矢頭くん。
松岡くん、立っている位置違うよ」
水門はそう苦笑いして言った。
「……そうだ。
そもそも猿渡が指さしたのはお前だったな」
あ、全部私に押しつけた、と思った水門に猿渡が言う。
「紅井が……」
私がっ? と水門は怯えながらも身を乗り出した。
「いきなり俺を召喚したから、空中に放り出されて廊下の床に叩きつけられた……」
申し訳ございませんっ、と水門はその場で土下座する。
「そのあと、頭を強打して意識朦朧としている俺をアニキが、仇を討ってやるっ、と言いながら、激しく揺すったので、意識が宇宙の果てまで飛んでいきそうになった……」
申し訳ございません、と矢頭もその場で土下座した。
あー、ひどい目にあった、と起き上がった猿渡が言う。
「いや、でも、俺は見たんだ……。
この城にはあいつがいる。
すべての元凶である、あいつが――」
ついにラスボスがっ!?
と水門と矢頭は顔を見合わせる。




