ラスボスがいるのだろうか。いや、なんの……?
こわごわホテルの中を水門たちは覗いた。
だが、先ほどまでと同じでロビーには人があふれ、華やかだった。
先ほど鍵を開けてくれたスタッフが目の前を通り、水門は笑顔でGuten Tagと挨拶する。
その変わりようを見ていた矢頭が呆れたように言った。
「今までビクビクしてたくせに、二重人格か」
「だって、楓子がこのホテルでビクビクしてたら変じゃない」
そのまま四人はギシギシ音を立てるエレベーターに乗り、楓子の部屋まで行った。
だが、何度ノックしても返事はない。
「おかしいな~。
まだ関所の方で城に戻ってきてないのかな?
じゃあ、なんでこの城、ここに飛んで来てるの?」
水門は周囲を見回した。
またあのスタッフの人がいたら、開けてもらおうかと思ったのだ。
だが、察した矢頭に止められる。
「ちょっとの間に、何度も鍵なくすのおかしいだろ。
お前ならともかく、ここに泊まってるの、楓子だろうが」
それとも姉妹で似たようなもんか、と矢頭が言ったとき、松岡が言ってきた。
「あの、楓子ちゃん探して行ってみませんか?
上の階まで」
「なんでだ?」
胡散臭げに訊く矢頭に松岡が、へへ、と笑って言った。
「いやすみません。
上の階の方が立派な部屋かなって。
フロアと扉だけでも見てみたいじゃないですか」
こんなところ来る機会、たぶんもうないし、と言う。
「まあ確かに。
ドイツの城の方から来てくれることなんて、もうないだろうからな」
溜息をついた矢頭だったが。
楓子がいなくて話を聞ける人間がいないこともあり、とりあえず、松岡に付き合ってやることにしたようだった。
舎弟なんていらないとか言ってたけど、舎弟思いのいい人だな。
そんなことを思いながら、水門はまた、みんなとエレベーターに乗り込んだ。
「普通のホテルだと最上階って、大抵、スカイラウンジとかだが、ここはどうなんだ?」
エレベーターの中で水門は矢頭にそう訊かれた。
「ここは確か普通に部屋ですよ」
チン、と可愛らしい音がして、エレベーターが開く。
「何度も持ち主が変わって改装してるらしいんですが。
この最上階が最初の城主の部屋だったととか」
ふうん、と言いながら、矢頭は赤い絨毯の敷かれた廊下を歩いてみている。
ところどころ壁にかけられている鹿のオブジェのツノが攻撃的な感じだ。
「玉座の間って書いてありますね」
水門は三つしかない部屋の真ん中の部屋にかけられているプレートを見る。
「ラスボスがいそうだな」
「王様じゃないんですか?」
ラスボスがいたとしても、勝手に開けてはいかんよな~と扉を見て、水門は廊下の端まで歩いてみた。
だが――
「うわああああああっ」
と背後から悲鳴が聞こえてきた。
振り返ると、猿渡が消えていた。




