これこそ、最強のチートだよっ
「へえー、これは便利だねえ」
知らなかった、と言いながら、水門がコマンドの画面を出すのを矢頭は眺めていた。
歩く道道、今、楓子に聞いたことを試してみていたのだ。
「矢頭くんのコマンドはいろいろあるね」
「……ヤンキーというチート能力を得たからだろうよ」
楓子が言っていた通り、コマンドはすべてヤンキー仕様だった。
「そういえば、私、『金』ってコマンドがあるよ」
と画面を覗き込みながら、水門は言う。
「生々しいコマンドだな……」
水門がそこを押すと、金の延べ棒が降ってきた。
「そうか。
これ、私のチート能力だもんね」
最強のチートだよっ、と言う水門に、
「いや、今、なんにも使いようがないチートだと思うが……」
と言い、矢頭は周囲を見回す。
家も寺もなく、ただ延々と道が続いていた。
右も左もただの野原だ。
その野原の遥か向こうに山がそびえているのが霞んで見える。
「こんな障害物のないところを歩いていたら、敵から丸見えだな」
と矢頭が言うと、
「敵ってどんなの?」
と水門が訊いてくる。
周りが草原なせいか、矢頭の頭に浮かんだのはライオンだった。
「……『男は敷居を跨げば七人の敵があり』と言うだろ。
なんかどっかになにかがいるだろ」
と曖昧なことを言って誤魔化そうとした。
「男子三人いるから、二十一人何処かにひそんでるね」
水門の言葉に、いや、何処にっ!? と猿渡たちが怯えてキョロキョロとする。
「ところで、俺たちも使えるかな。
コマンド」
と猿渡たちがやってみていた。
『召喚』の文字を見て、
「これ使えば、人も召喚できんじゃね?」
と猿渡が言う。
「いや、人増やしてどうする。
俺たちも帰れないかもしれないのに」
「でもさ。
世界中の人間、こっちに呼んだら、こっちがリアルになるっしょっ、アニキッ」
……言われてみればそうかもだが、気楽だな、と思い、猿渡たちを眺めていると、
「ねえねえ」
と水門が身を乗り出し、呼びかけてきた。
「さっきチラッと出してみてくれた矢頭くんのコマンド見せてよ」
矢頭は、ぎくりとする。
「矢頭くんが変な位置に立ってたから、下の方のコマンド見えなくて」
「下のコマンドってことは、強力なコマンドってことすかね? アニキッ」
と松岡が言ってくる。
……強力ではない。
そして、見えなくていい、と矢頭は思っていた。
戦闘時の計画にあれは組み込む必要はない。
もしかしたら、一部のヤンキーには必要不可欠なものなのかもしれないが、自分が使うことは一生ない代物だからだ。
「ほら、タラタラしてないで行くぞ」
いや何処へ? という顔を水門たちがする。
確かに目的地はない。
「まあ、とりあえず、道なりに歩いてみようか」
と水門が笑って言った。
「……まあ、道なりにしか行けないからな」
他の道が何処にもない。
「あっ、ねえ、『タラタラする』っていうのも、ヤンキーっぽいけど、コマンドにないの?」
「お前のコマンドにはないのか。
『悪役令嬢になる』とか、『暴走族の姫になる』とか」
ないねー、などとしょうもない話をしながら、四人で何処までも歩いていった。




