お前を悪の女王とする!
「うーん。
召喚すると言っても、今、戦闘状態じゃないし。
そもそもどんな服だったか思い出せないし」
そう言い、悩む水門は、
「待て。
妹と争うほど気に入ってた服なんだろうが」
と矢頭に言われ、
「いや~、お互い、相手がいいわねって言ったからよく見えたって言うか。
手に入れちゃったら、もう記憶ないんですよね~」
と本音をもらす。
ぼそぼそと男たちが話しているのが聞こえてきた。
「こいつ、きっと男も手に入れたら、それで満足してポイする奴に違いない」
偏見だ……と思いながらも、
「と、ともかく行ってみましょうっ」
と水門は急かす。
いや、姫の機嫌が直りそうな物もないまま手ぶらでか、という顔を猿渡たちはしていた。
「まあ、服がなくても関所を通れる方法はあるけどな」
そう言った矢頭を、え? と水門は振り返る。
「お前には、最強チートのこの顔があるじゃないか」
癖なのか。
チャッと音がしそうな感じに、今はない伊達メガネを押し上げるような仕草をしながら、矢頭は言った。
「無理ですよ~、私が楓子になりきるだなんて~」
「カエルが騙せりゃいいんだろうが、大丈夫だ」
と言う矢頭に背を押されるようにして、水門は関所へと向かう。
だが、いや~と猿渡は眉をひそめた。
「でも、アニキ、カエルカエルって言いますけど。
この世界のカエル、カエルじゃなくて、人間ですよ。
知能高いんじゃないですか?」
委員長より、ヤンキーの方がもっともなことを言っている、と水門は思ったが。
金髪になってちょっと軽い感じにはなったが、相変わらず凄みのある美貌で矢頭はニヤリと笑って見せた。
「大丈夫だ。
こいつを悪の女王にする秘策があるんだよ」
いや、楓子、ちょっと強欲なお姫様で、悪の女王とかじゃないと思うんですけどね。
城にいるのが、楓子ならですが……と思いながらも、水門はそのなにか企んでそうな矢頭の笑みに固まった。
大抵の場合、ヤンキーより小細工のきく優等生の方がタチ悪いよな~と思いながら。




