ほんとうにチートだったのは……
「今のうさぎだろう?
人間が怖いとか?」
「他の店もうさぎなんですかね?
それか、カエルかサル?」
水門は、しんとしている街を見ながら呟いた。
「……なんでカエルかサルだ」
と矢頭が訊いてくる。
いや、鳥獣戯画っぽいビジュアルだったからですよ、と水門が思ったとき、
「うさぎか。
じゃあ、俺が話を訊いてくるよっ」
と松岡が胸を叩いた。
「俺、うさぎ飼ってんだ。
うさぎとなら意思の疎通ができそうな気がする」
すみません、と迷うことなく、松岡はさっきの店の戸を叩いていた。
余程、うさぎとの対話に自信があるらしい。
そっと戸を開け、うさぎがわずかに顔を覗かせた。
松岡が水門を指差し、なにか言う。
「なるほど。
そうなんですかー」
と松岡は言っているが。
「……ねえ、あのうさぎ、しゃべってる?」
その様子を見ながら水門は言った。
「口開いてるようには見えないな。
まあ、しゃべらなくても可愛がってれば意思の疎通はできると言うからな」
「いや、あのうさぎ。
松岡くんが飼ってるのじゃないと思うけど」
でも、すごいね、と水門は言った。
「あんなすぐに異世界の人と話が通じるなんて。
私、結構長くに戦ったのに、ゾンビがなに言ってるのかわからなかったよ」
「……あーあーしか言ってなかったからな」
と矢頭が言い、
「っていうかあれ、異世界人でうさぎじゃないんだろ?
じゃあ、可愛いけど、おっさんかもしれないよな」
と猿渡が言う。
「普通に飼ってるうさぎも、年齢的には、おっさんだったりするよ」
そんな話をしている間に、松岡がうさぎに頭を下げて戻ってきた。
やはり、礼儀正しいヤンキーのようだ。
さすが鳥居や地蔵を見たら拝みはじめるだけのことはある、と水門は思う。
「城の悪いお姫様だそうです、この人」
変に改まった感じに松岡が水門を見ながら言ってきた。
……誰が悪いお姫様だ。
「なんでだ。
こいつは悪役令嬢だぞ」
姫じゃねえ、と猿渡が水門を指差した。
「そっくりなんだってさ。
最近現れた極悪非道なお姫様に。
城から出てくるたび、ここの住民たちを締め上げて、めぼしいものをかっさらってくらしい」
「なんと、それでお前にいろいろ貢ぎ物をくれたんだな。
あの金塊より、その顔の方がチート能力だったわけか」
「いや、生まれつきなんですけどね、顔……」
うーん? と思う水門の横で、
「それにしても、うさぎを締め上げるなんて悪い奴ですよ」
とうさぎ好きの松岡が憤る。
「その城って何処にあるの?」
そう水門が訊くと、松岡が街道の向こうを指差した。
たなびく雲の中に風情ある五重塔があって、ゴーンと鐘が鳴りそうなそこに、何故かいきなり西洋の城があった。
「あの城……」
と水門は目を凝らす。
「泊まったことがあるかも」
泊まったことがある? と男三人が訊き返してきた。




