なるほど、ここは京都じゃなくて異世界だっ
無事に山を下りた水門は街を見回し言った。
「普通に京都の街中だね。
さっきまでいた土産物屋の前と変わらないよ」
京都らしい古い街並みでお店なんかもある。
お茶やお香の香りが漂って来そうな雰囲気だった。
水門は、
「……やっぱり異世界に来たと思ったのは勘違いだったかな」
と呟いたが。
「お前……、俺が召喚されたり、茶筒を召喚したり」
「カラフルな池の周りに山程スライムがいたり」
「俺の気に入ってる子が土産物屋で何処ぞのヤンキーにナンパされて嬉しそうにしてる世界なんて、異世界に決まってるだろっ。
この状況で、ここが異世界ではないとか言うお前の意見の方が非現実的だっ」
と立て続けに矢頭、松岡、猿渡が叫んだ。
……ひとつ、不正解な叫びが混じっている気もしたのだが。
ちょっぴり可哀想だったので流してあげることにした。
そのナンパ男、塁かもしれないな、と思いながら。
水門の横で、矢頭がその街並みを見ながら、
「いや……」
と呟いた。
「他にも、此処が異世界だと証明できるものがあるな」
「なに?」
と水門が訊くと、
「京都なのに、大量の観光客や修学旅行客がいない」
と矢頭は言う。
なるほど、確かにっ、と全員が納得した。
「このまま流されてって、目的地につけないんじゃないかと思うほどの人波がないねっ」
ともかく、此処が何処なのか誰かに訊いてみよう、ということになった。
「すみません」
と水門は迷うことなく、近くにあった店に入り、声をかける。
「男らしいな、悪役令嬢。
知らない場所に来たら、もうちょっとビビんねえか?」
おのれはビビっているのか、猿渡が後ろでそんなことを言っている。
「あの、ここは何処なんでしょうか?」
店の人に話しかけたものの、答えがあるかはわからなかった。
うさぎだったからだ。
鳥獣戯画から抜け出したようなうさぎが、絣の前掛けをして、そこに立っていた。
スライムとうさぎ……どっちがマシだったかな、と思いながら、水門はうさぎの返答を待ったが。
うさぎは何故か水門を見て驚き、近くにあった菓子や茶筒をたくさん水門に持たせて、土下座せんばかりにペコペコする。
そのまま背を押され、外に出された。
「紅井……」
「カツアゲしてきたのか」
「違いますよっ。
なんだかわからないけど、くれたんですよっ」
ここが何処か訊いただけなのに、と水門は戸を閉められてしまった店を振り返りながら言った。
気がつけば、何故か他の店舗の戸も閉まっている。
「……一体、なにが」




