第3章 オーネスト王国激震篇 21
「に、兄さん、やっと会えた!」
「うん? お、お前、マディクスじゃないか!? 何でこんなところにいるんだ!?」
リーファンスのハンターギルド、そのロビーで【黎明】の一員マルキスに少し疲れた表情の少年が話し掛けた。
マディクスは兄であるマディスが【黎明】を監視する為にマイアール帝国諜報部がパーティーには内密で送り込んでいる二重諜報員である事を理解している為、迂闊に兄の本名を呼ぶ事は避けた。
「マルキス、この少年は?」
「はい、自分の弟でマディクスといいます。自分に憧れてハンターになりたいと言ってたのでハンター資格は持っていると思いますが、自分も一年振りに会うもので………何故、コイツがリーファンスにいるのかは話を聞いてみない事には…………」
「そうか、私は【黎明】のリーダーのアーノルドだ。よろしくな、弟君」
不意に現れた弟の存在に困惑しながらも、パーティーリーダーであるアーノルドの問い掛けに答えるマルキスは、自分の本名を迂闊に呼ばなかった弟に少しホッとした感情を抱きながら、努めて冷静にアーノルド達に紹介した。
「は、初めまして、自分はマルキスの弟でマディクスといいます。兄がお世話になってます!」
怪訝な表情を一瞬見せたが、直ぐに穏やかに自己紹介してきたアーノルドに、緊張感丸出しといった表情でマディクスが自己紹介と挨拶を返す。
兄がパーティー内で名乗っている名前が自身の聞いていた通りマルキスだった事は確認出来た。
後は、万が一兄の任務中に顔を合わせた時の為に用意していた設定通りに話を進めていくだけだ。
「帝都で高名なA級パーティーに勧誘してもらえた兄さんに憧れて、僕もハンターとして生きて行きたいと思っています。その為に武者修行を兼ねて帝都に出ましたが、帝都のハンターギルドで問い合わせたらコチラに向かったと言われ…………追いかけて来ました。リーファンスは魔物が多く武者修行を目的としたハンターも多いと聞いています。そこで兄を見本にしながらハンター級を上げて行こうと思って必死で追いかけ、やっと会えましたので、嬉しくて声を掛けてしまいました。いきなりで申し訳ありません!」
兄であるマディスは【黎明】では下級貴族の長男ではなく、田舎から立身出世を夢見て出て来た平民のハンターという設定でマルキスという名を名乗っている。
そのため、マディクス自身も成り上がりを目的とした駆け出しハンターという設定で【黎明】と接触した。
理由として、兄の所属する【黎明】に憧れ、その活動を参考にする為にリーファンスまで追いかけて来たと興奮気味に話す。
「ほう、マルキスに憧れているのか。君の兄さんはこのパーティー内ではまだまだと評価されているが、その将来性は抜群だと私は思っているよ。その弟君だ、マディクス君だったかな? 君も期待出来るかもしれないね」
アーノルドは貴族である自身が平民出身のマルキス達よりも上であるという態度ではあるが、平民に対するには非常に丁寧な扱いでマディクスに親しげに声を掛けた。
ハンターとして活動するなら、その出自が貴族であろうと平民であろうと実力主義である事が不文律ではあるが、高位ハンターとなれば一国から爵位を与えられる者も珍しくはない。
高位のハンターともなればその戦力的価値のみならず、自国の名声を高める存在と見なされる為である。
つまり、高位のハンターである上で大国の貴族出身であるアーノルドは貴族然とした態度でいても非難される事はない。
しかし、アーノルドは普段から謙虚さを見せる事を心掛けている。
当然の事ではあるが、明らかに自身よりも高位な存在が自身を丁寧に扱ってくれていると思われている方が、情報収集を生業としているアーノルドからすれば都合が良い展開を期待出来る為だ。
「あ、ありがとうございます!!」
普通の平民であれば素直に感激していたかもしれないが、マディクスは下級とはいえ貴族の末端に連なる者である。
そういったアーノルドの思惑は当然理解しているが、そんな表情は見せずに感激した表情で返事を返す。
「態々、他国まで追いかけて来たくらいだ、積もる話もあるだろう。今日は兄弟で語り合うと良い。私達はお暇させて貰うよ」
「はい、気遣って頂きありがとうございます」
「あ、ありがとうございます!」
そう言ってアーノルドは他のパーティーメンバーを連れてハンターギルドを出て行く。
アーノルドの目を見て返事をするマルキスに対し、パーティーメンバーでもない部外者であるマディクスは深々と頭を下げる。
マディクスの視線が下を見た瞬間、アーノルドはマルキスに対し目配せをした。
マルキスには家族であろうと自身の身分、マイアール帝国の諜報員である事は秘密にしろと厳命している。
そのマルキスの兄弟が任務中に現れた事は二つの可能性をアーノルドに疑わせた。
一つは、本当にマディクスがマルキスに憧れているだけである可能性、もう一つは、マディクスがマルキスの本当の身分、即ちマイアール帝国の諜報員である事を知った上で、自身も雇用して貰える可能性を求めて現れた可能性だ。
マルキスも諜報員である以上、監視する事にはリスクが伴う。
ならば、敢えて泳がせた上で反応を観察する方がリスクが少ないとアーノルドは判断した。
その一環として、マディクスがリーファンスに現れた理由を聞き出せと目配せで指示をしたのである。
正直、平民であるマルキスが今の立場を棄てるような馬鹿な真似はしていないとは思っているが、必要であれば身内すら疑ってかかるのが諜報員の常識なのだ。
任務中であれば尚更警戒しておくにこしたことはないとアーノルドは表情を変える事なく考えていた。
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