第3章 オーネスト王国激震篇 14
「ふうっ、やっと着いた」
マイアール帝国から来ればオーネスト王国の入り口と言えるリーファンス。
オーネスト王国でも辺境とされるリーファンスの周辺には魔物が跋扈しており、その街を囲む壁は大都市並に堅牢な印象を受ける。
そして、国境付近の街らしく出入りする人間に対する審査もそれなりに厳しいのだろう、列の進みはマイアール帝国の帝都程ではないが時間が掛かっている。
マディクスは首から下げているハンター証に手をやりながら、ぼんやりとそんな事を考えながら順番待ちをしていた。
軍の諜報員ではあるが、表向きはA級ハンターパーティーの一員として活動している兄マディスがリーファンスにいると知ったマディクスは、先ず兄を頼って来たと見える型でマイアール帝国を離れる事を選んだ。
突然降って湧いた前世の記憶は日に日に克明となり、自身がマイアール帝国と相容れる事が難しいと判断した為だ。
軍所属の諜報員である兄は、目的の情報を得さえすれば直ぐに帰国するのは間違い無い。
その時、自分は残って武者修行を続けるという名目で離れれば不自然に思われる事も無くマイアール帝国から距離を置ける。
その後、マイアール帝国に対し復讐を選ぶか……、もしくは今世の家族を選び無難に過ごすか……、何連にしても都合が良いのは間違い無い選択なのだから。
前世の主君の仇という思い、今世では自身が人間種として育って来たが故に生じる感覚的な違和感。
前世の主君が生きていてくれれば迷う事は無かっただろう。
今世の自分が生まれる前に滅んだ国、未だ忠誠心が残っているが故の苦しみ、どちらにせよ……マイアール帝国の為に尽くすという選択肢だけは有り得ない事だけは確定している。
なら、復讐を選ぶにしろ、安寧を選ぶにせよ、マイアール帝国以外の国の発展に寄与するのが当然の帰結というものである。
かつて、人間種からは『魔の森』と呼ばれた『エルフの森』を越えオーネスト王国に辿り着くまで、悩み、苦しみながら出したマディクスなりの結論であった。
この森が人間種から『魔の森』と呼ばれていたのは、魔帝国の領土の一部と認識されていたという事もあるが、とにかく魔獣が多く潜むというのも理由の一つだ。
魔獣は魔力濃度の高い場所を好み、濃度が濃くなればなる程、強力な魔獣へと進化する可能性が高い。
つまり、この森は通常よりも濃度の濃い魔力が漂う場所であると同時に、人間種からは脅威と見做される魔獣が多く生息する場所でもある。
とはいえ、前世の記憶を持つマディクスからすれば、現状の肉体が前世と比べ物にならない程の脆弱な物だとしても、脅威と感じる程の魔獣は存在しない安全地帯と言っても過言ではない。
そもそも、人間種の魔法技術は魔族に遠く及ばない。
しかも、マディクスの記憶にある魔法は、麒麟児と目された皇太子アルベルトが改変を重ねた当時最高峰の魔法である。
【身体強化】一つとっても、人間種が使う【身体強化】とは強化倍率が違う上に、効率性も比較にならないのだから、現状の肉体でも人間種のA級ハンター以上の力を発揮出来るのだ。
だからといって慢心する事は有り得ない。
かつて、魔族の中でも最強と目されていたマギクスと互角に戦ったヴォルクのような存在もいる。
上には上がいる……、ヴォルク自身も年齢により衰えたという話を聞かないどころか、更に研鑽を重ねていると言われているのだから。
「とりあえず、この街で…………最低でも前世並の力を取り戻す事が第一だな」
まだまだ続きそうな入街審査の待ち時間にゲンナリしながら、マディクスは独り言ちた。
「ゲホッゲホッ」
「カイトぉ、大丈夫?」
「あぁ、もう。お粥が飛び散ってるじゃない」
ルナ達が作ってくれたお粥を食べながら噎せ込んでしまった僕は、テーブル上に米粒を撒き散らしてしまった。
二人は僕の両隣に座ってたから被害を受ける事は無かったが、甲斐甲斐しく世話をしてもらって申し訳ない気持ちになる。
「ごっ、ごめん。…………ところで、あの残念女神様は何処に出掛けるか言ってた?」
「ん? 誰か到着したって話はしてたけど?」
「世話をしてる私達よりも、クラウディア様の方が気になる?」
ルナ達がお粥を作り始めた頃、特に何も言わず玄関から出て行った残念女神様が一向に帰って来ないので二人に訪ねたところ、変な誤解をされた気がする。
いや、態々僕を病気にするような災厄神の動向が気にならない筈がないだろ!?
次は何を企んでやがるのか………………
「お待ちしてましたわ、マディクスさん」
「何方様でしょう? 初めてお会いしますよね?」
「ええ、初めましてですわね。入街する前に少しお話しませんこと…………マディクス、いえマギクスさん?」
入街審査の列の中、エルディーニ聖国でのカイト達とのやり取りを焼き直したようなやり取りが為されていた。
不思議な事に、瞬時に緊張感と殺気を纏ったマディクスの事を気にする人間は一人として存在しない状況で………………
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