序章 ロード=ベンズ7
―――――魔族だったと言っても、僕は純粋にこの世界の人間、いや、魔族って訳じゃないから、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ
「『純粋にこの世界の人間じゃない』ってどういう事だ?」
魔族だったって事だけでも警戒感MAXなのに、更に警戒感しか持てないイミフな事をブッ込んで来やがる。
―――――【転生者】って知ってるかい? 確か、人間の世界にも過去に存在した筈だよね
「俺達の国、マイアール帝国の初代皇帝がそうだったって話は聞いた事あるが、そんなの御伽話だろうが!」
【転生者】……
前世の、それもこの世界とは違う世界の記憶を持って産まれた存在だと言われている。
この世界以外の世界なんて御伽話でしか無いだろうが!?
―――――御伽話ねぇ(笑)じゃあ、君達の帝国の文明が他の国よりも急速に発展した理由は、初代皇帝の知識以外に説明出来るのかい?
マイアール帝国の前身だった国、ユーフィリア王国の下級貴族の庶子に産まれた初代皇帝が、世界最大の帝国を築き上げた話は、多くの物語を生み出す立志伝だ。
長い歴史の中で腐敗した政治により苦しむ民衆の為に立ち上がり、画期的で斬新な知識、改革をもって地方の辺境から王都まで制した『初代皇帝の知識』が何処からって議題は授業にも出てきたが、『その天才性』って話で締め括られるのがデフォだ。
「そりゃ…………具体的に説明出来る話は…」
そう、御伽話が現実なら、パズルのピースが嵌まる様に説明がつく話が多い……
―――――そう、説明なんて出来る筈が無いんだ。僕の見立てでは、その初代皇帝は僕と同じ世界、同じ国、それも同程度の文明世界から【転生】してきた筈だから
「何で、そんな事を断言出来る!?」
―――――あり得ないからだよ。僕達の世界で小学生の頃に習った『ドナドナ』って曲が、君達の国でも全く同じ調律、歌詞で広まっているなんてね(笑)。しかも、『ドナドナされる』なんて言い回しが普通に使われてたのにはビックリしたよ(笑)
確かに『ドナドナ』って曲は、初代皇帝の時代から続く、捕虜連行時に歌われた『捕虜を揶揄』した曲だ。
『ドナドナ』って意味にしたって誰も知らないし……
「『小学生』って何だよ?」
―――――僕達のいた世界は、この世界よりもずっと文明が進んでいたし、少なくとも……僕達が産まれた国はその世界でも指折りに平和な国だった。だから、子供はみんな平等に教育を受ける事が出来てたんだよ。その初期過程って考えてくれれば良いんじゃないかな(笑)。ソレよりも、僕に自己紹介をさせるだけさせて、君は自己紹介をしてくれないのかい?
「お……俺は帝国高等騎士学園三階生…ロード=ベンズだ」
まあ、名前を名乗るくらいは大丈夫だろう……
―――――ふ〜ん、ロード=ベンズ君か。……んっ?
「なっ、何だよ?」
―――――ねぇ、……もしかして、君のお父さんって『ヴォルク』って名前じゃない?
あぁ、またかよ!
こんな前時代の奴にすら、親父の名前でとやかく言われんのか?
いや、コイツは親父達と戦争をしてた世代そのものだ。
親父の名前がバレたのはマズいかもしれねぇ!!
―――――ふ〜ん、その反応は当たりみたいだね。……お父さんが有名だと、君は色々と大変じゃない? 常に比べられたり、どんなに努力をしても認めて貰えなかったり
「おっ、お前に何が分かる!?」
一瞬、危機感を倍増させた俺に問い掛けてくるアルベルトの言葉が予想外過ぎて、俺は動揺してしまった。
―――――分かるさ……………僕には……特にね。だって僕自身がそう扱われて来たんだから
「ッ!?」
コイツ…………『アルベルト』って名前……
戦争終結の決め手になった、親父が斬った魔族の皇太子……
その皇太子の名前が『アルベルト』じゃなかったか?
―――――そんな警戒する必要はないよ、ロード君(笑)
俺の心の中を読んだかの様に、アルベルトが語り始める。
―――――アレはお互いの存在を賭けた戦争だったんだ。そりゃあ、数年くらいは悶々とした気持ちにもなったりしたけど。でも、今更僕に出来る事は何も無いし、何かしたいって思う事も無かったよ(笑)
「…………」
何だ?
何で過去形でモノを言ってるんだ、コイツは?
―――――でも、君のお蔭で……いい復讐を思いついちゃったじゃないか(笑) 君も父親や周りの人間を見返したいと思わないかい?
一瞬、ゾクッとした寒気が背筋を走ったが、その後に続いて出た言葉は俺の興味を刺激した。
―――――僕の持つ【知識】を君が共有すれば、初代皇帝の様に……後世に語り継がれる英雄になる事も可能だと思うんだ。僕は力が全ての魔族に【転生】しちゃったから、この【知識】を活かす機会に恵まれ無かったけど、君となら『現代知識で異世界ヒャッハー』が出来ると思うんだ(笑)
所々、イミフな言葉を挟んではいるが、コイツが言いたい事だけは理解出来た。
―――――この腕輪を嵌めているだけで、僕達は常に一緒に居られる。僕の【知識】も実践出来る身体がなければ意味が無いからね。どうだい?、二人で世界を見返してみないかい?
コイツが言ってる事が本当なら、確かにWin-Winの関係だろう。
俺は、親父達に関係無く、俺の存在を世界に認めさせる事が出来る、アルベルトはせっかく持って産まれた【知識】を初めて活かす事が出来る上に、親父の名声が霞む様な名声を俺に与えて復讐する事が出来る。
「コレを腕に嵌めれば良いんだな?」
怪我の痛みでマトモな判断が出来なくなっていたのか?
親父への劣等感が俺の判断を狂わせたのか?
俺は、アルベルトに勧められるがまま、腕輪を腕に通してしまった。
ソコで、アルベルトの声が頭の中に直接響く。
―――――ありがとう、そしてサヨウナラ、ロード=ベンズ君(笑) あぁ、僕は嘘は言ってないよ、君の父親と違ってね。魂は僕、身体は君……ね、常に一緒でしょ(笑)
頭の中……というよりも、魂を直接ぶん殴られた衝撃に、一瞬にして意識を奪われた。
そうして俺、ロード=ベンズの魂は、この世界から消滅する事になった……
ここまでお読み頂きありがとうございますm(_ _)m
序章が終わり、クズ主人公がいよいよザマァに向けて動き出しますが、その前にもう少し前日譚にお付き合いください。