第3章 オーネスト王国激震篇 11
「さっきの話で少し気になったんだけど、神格を得るって事に……普通の人間の精神が耐えられるものなのか?」
「ん~?」
「カイト、どういう事?」
僕が気になった疑問、人間の精神は永遠の時間なんてものに耐えられないって話を聞いた事がある。
自分の親しい者達が人生を全うしていく中、自分だけは変わらず居続けるって状況は精神を蝕んでいくって理論だ。
元々、普通の人間よりも永い寿命を持つエルフであるルナ達は僕の話の意図が分からず不思議そうな顔をしているが、僕の根幹は地球の人間の感覚である以上、せいぜい百年前後が人間の寿命って感覚である。
実際に『不老不死』の人間なんて存在していなかったんだから、全ては想像と予想の話でしかないんだろうけど、永遠の寿命は人間の精神を蝕むって理論は普通に理解出来る話でもある。
この残念女神様が以前に話していた事が本当なら、この残念女神様は人間として過ごした時期もあるが元来【神】って存在だった筈だ。
普通の人間である僕が神格を得るのとは意味合いが違う……
ある意味サイコパスに近い感覚の持ち主って言うか、普通の人間とは違う精神性の持ち主であった存在と普通の人間である僕では……前提となる条件が違うんじゃないのか?
「…………」
僕の言葉に対し、眼の前で食後のお茶を飲んでいたクラウディア様は返事を返す事なく、酷薄な笑みを浮かべる。
『人間が神格を得るのを待っている』みたいな事を言ってたが、それは『我が子の成長を見守る』っていう意味ではなく、『そうなった時に人間がどうなるか』って意味合いか?
モルモット的な感覚で見守ってる!?
前世でもサイコパスはサイコパスなりに『愛』って感覚を持ってたみたいだし、この残念女神様の言う『愛』を鵜呑みにして考えるのはマズいんじゃないか!?
前世の宗教では色々な型で『神の愛』が語られてたが、それは宗教を政治的に利用している人間にとって都合の良い型で創られた話だと思っている。
死後の世界と同じで、神って存在を証明出来る物は何も無い中で教義だけは明確になるなんてバカげた話だと僕は考えてるんだけど、それを口にした事はなかった。
でも、この世界では神が実在する。
そして、その神って存在が眼の前にいるんだ。
これだけ超常な能力を見せつけられては、例え寸胴であろうが、陥没した胸を持っていようが……神って存在である事を否定する要素はない。
例えタブーな疑問だとしても…………研究者の端くれである僕が疑問を口にしない訳がない。
「確かに、貴方が言うように私達と貴方では前提条件が異なりますわね。私達は人間として過ごした事のある神であって、純粋に人間が神へと昇華した訳ではありませんから」
酷薄な笑みはそのままでクラウディア様が話し始める。
「「「………………」」」
その雰囲気に咽まれたルナ達も、僕同様に言葉を発する事が出来ないまま次の言葉を待つ。
「しかし、それは三次元を生きる者の感覚であって、数十次元に渡り存在する神という存在に当て嵌めて良い感覚ではありませんわ」
「不敬って言いたいのか?」
「貴方が考えているよりも、人間が持つ感情であり精神性というものは崇高なものですのよ?」
「はぁっ!?」
「だからこそ、私達は人間としての生を全うした時期があるのです。そして、その時に得た感情こそが『あの世界』を救う原動力となった。貴方は、人間が持つ感情であり精神性というものは世界そのものに影響を与える程に大きなものである事を知る必要が有りますわね」
「…………」
「あの世界で私が得た『愛』という感情こそがあの世界を救う根源の力となった事、そして…………あの者達の持っていた歪み切った『愛』という感情が世界を破滅に向かわせていた現実。一人の人間が持つ感情は世界に影響を与える程に大きなものでもあるのです」
「それが力を持った人間の感情って意味なら当たり前じゃないのか? 権力を持った独裁者の感情が世界に影響を与えたなんて事例は前世の世界でも普通に有った話でしかないんだけど?」
「そもそも、貴方が言う『科学』では電気信号でしかない筈の脳内処理で個性や感情が各人毎に異なる事をどう説明しますの? 記憶を残す事までは電気信号でも説明出来ない事をではありませんが、それを元に考える事、感じる事は個人で異なる。そう、人間が持つ感情というものを電気信号だけで証明出来ますか?」
「経験が違う。個人毎で記憶している経験が違うんだから、そこから出る答えが違うのは当然だろ? そもそも、電気信号の強弱についても個人差が出るのは遺伝子が違うんだから当然の事だし」
「なら、遺伝子的に同一である一卵性双生児に違いが出る理由は? 少なくとも、同じ環境で育ち、同じ遺伝子を持つ存在に個性が生まれる理由は?」
「同じ環境でも、全く同じ経験をしている訳じゃない。見てる物も違うし寝て起きるタイミングも違う。それが個性って型で差を付けてるだけだろ」
「その個性ですわ。それを形成するのは他者に対する劣等感であったり優越感であったりしますが、そういった感情の素になるのは何ですの?」
「自分よりも優遇されている人間が居れば羨むのは普通だろ? それが優越感や劣等感を生むってだけだ。って言うか、僕は心理学的な議論をしたい訳じゃないんだけど?」
「では最後に、赤ん坊に十分な栄養と環境を与えても『愛情』だけは全く与えない環境で育てると……衰弱して死んでしまうという研究結果については知ってますか?」
「……聞いた事はある」
「貴方の言う科学で理論的に説明出来る話ですの?」
「何が言いたいんだよ!?」
「神の愛を語る以前に、貴方の思う愛が破綻しているという事ですわね。愛を語るなら、本物の愛を知ってからにしなさいな」
…………結局、人間の精神が神格に耐えられるのかって話から逸れた感じは否めないけど、その実験対象にされてるって考えてた事がお気に召さなかったのか?
この女神様ってツンデレ……いや、ヤンデレ?
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