第3章 オーネスト王国激震篇 9
あれから【黎明】のメンバーは、当たり障りない常時討伐依頼を熟しながら特にコレといった行動を見せないでいる。
普通のハンターパーティーを装いリーファンスのハンター達の信頼を得る事を優先しているように見える。
ハンターギルドの上層部から『マイアール帝国の諜報員』と疑われていても一般のハンター達はそんな事実は知らないし、実力派の誠実なハンターパーティーとして受け入れている若手も多い。
ベテランハンターの中には都会から辺境と呼べるリーファンスへ来た理由が分からず警戒している人間もいるみたいだけど、若手ハンター達は彼等の言う『武者修行』的な理由がカッコいいって単純に信じている人間が多いみたいだ。
実際、彼等は何年かに一度、色々な地域へと『武者修行』って名目で移籍しながらハンターとして着実に級と実力を上げているって事だし、それなりの説得力もあるのだろう。
そして、彼等に憧れる若手ハンター達に惜しみ無く指導する事で信頼を得ながら、若手ハンター達を連れて酒場でそれとなく情報収集を続けているってのが現状だ。
焦って話を直接聞き出したりはせず、若手ハンター達の話す内容の中から気になる部分をやんわりと深堀りしていく話術からも、彼等【黎明】が諜報員としても優秀な事はよく分かる。
僕達【幻想審判】に直接接近して来ないって事が、彼等の慎重さを裏付けているしね。
【竜の咆哮】のバカ達とは諜報員としても段違いだ。
【黎明】が僕達に接近して来るのは、【竜の咆哮】の失踪に僕達が直接関係しているとの確信を得てからになるだろう。
でもそんな証拠は残していないし、彼等の遺体は全て僕の【異空間収納】の中だから確信を得るのもいつの事になる事やら(笑)
「本当に鮮明に聞こえるよねぇ」
「カイト、コレを私達に使ったりしてないでしょうね?」
魔物の体内で魔力を濃縮され精製される魔石の魔力を動力源とした集音機モドキと、それと対になる拡声機モドキ。
魔帝国で発案はされていたが実装するには技術的に到らなかった技術、僕はこっそりと実用化してたんだけど本当に役に立つよなぁ。
僕自身が帝位を相続した時に必要になるかもしれないと、側近のマギクスにも明かさず開発して【異空間収納】に隠していた一品だけど、ここでお披露目する事になるなんて未来は分からないもんだね。
この端末を若手ハンター達の荷物に忍ばせる為の技術については【異空間収納】の空間接続技術の応用なので、ベテランのスリよりも気付かれる心配は無いだろう(笑)
魔石も魔力の供給だけが目的の物だから、ゴブリンの魔石程度の小さな物で大丈夫だし、ソレに極小さな刻印を刻み魔法を付与した物なので、本当によく調べなければ魔石の傷程度にしか思われないだろう。
その上、諜報員である【黎明】のメンバーに万が一でも気付かれないように、直接奴等に仕込むのではなく、彼等に接する若手ハンター達に仕込んでいる徹底ぶりだ。
『流石の変態性ですわねぇ。ストーカーの気質も持っているなんて救いようがありませんわ』
…………ルナ達の反応と言い、この残念女神様の念話と言い、僕を何だと思ってんだ!?
「こいつ等、諜報員って存在が情報収集の重要性をこれ以上なく語ってるだろ!? 魔帝国皇太子だった僕が情報収集の重要性を軽視してる訳無いし、その為の手段くらいは当たり前に用意してるって!! それに、ルナ達相手に仕込んでるなら、こうやって種明かしする訳無いし!!」
「それは……そうだけど」
「私達を疑ってないならそれでいいわよ」
「技術自体に罪はありませんわ。問題となるのは、それを使う人間の倫理と目的ですわね」
「それだと僕が倫理的に問題あるように聞こえるんだけど!?」
ルナ達も組織のトップに立つ者が情報を重視するって事は理解してるし、僕がそういう立場だったって事は知っている。
だから、自分達もその対象かどうかって部分に拘っていたみたいだけど、この残念女神様は絶対に解った上で誂ってるよね?
『【神格】を持つ者の人格次第では、世界が破滅する事も容易に有り得る訳ですから、私が貴方にそれを求めるのは当然でしょう?』
だからぁ、何でソコは念話なんだよ!?
「技術は使う人間次第なんて、研究者であり技術者だった僕は嫌って程知ってるよ。その技術の発展の大半が戦争を目的としていたって現実もね。前世で当たり前だったネットですら軍事技術から生み出された物だったくらいだし」
地球での技術革新は大抵が戦時に起こっていた。
フライパンが焦げ付かないようにするテフロン加工ですら、ジェット機のエンジンの焦げ付き防止の為に生まれた技術だ。
第一次世界大戦で毒ガスを精製する為に生み出された技術が、戦後に人工肥料を生み出す技術として復興に貢献したって事でノーベル賞を取ったって現実もある。
技術そのものは平和利用にも殺戮にも応用出来るものでしかない。
要は、その技術を使う人間の倫理感が結果を決めるって事だ。
だから僕は、前世の知識を応用した魔法や技術を秘匿しているし、この世界に広めるつもりもない。
技術の大元は発想だ。
その発想を現実化する為に技術は発展していく。
この世界に必要な発想はこの世界の人間がするべきであり、それを破った結果がマイアール帝国の暴走だろう。
初代皇帝が後先考えないバカだったせいで、この世界に歪みが生み出されたって僕は思っている。
僕はそんなバカな真似はしない。
僕が復讐するのは歪みきったこの世界であり、その元凶となっているマイアール帝国上層部だ。
そこを見誤ってたら、僕も奴等と同じ只の殺戮者でしかない。
『変態のくせに立派な事を考えてますわね』
うるせぇよ、このクソ女神!!
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