第2章 エルディーニ聖国篇 18
「こっ、殺す気満々じゃねえか! この寸胴女神!!」
「あら、まだ憎まれ口を叩く余裕がありますのね(笑)」
再開された鍛錬の初っ端から、魔力で形成された炎の槍が数百本が僕に殺到する。
普通に剣で打ち消そうとすると、剣が触れた瞬間に爆散、誘爆、こんなのどうやって防げってんだよ!!
「あら、御自分の事を研究者なんて言っておきながら、自身で考える事すら出来ない愚か者にはヒントが必要みたいですわね(笑)」
「だぁかぁらあ、僕は普通の化学や物理が研究対象なんだよ! こんな物理法則を無視した現象をどうしろってんだ!!」
「いつまで前世を引き摺って生きていくつもりですの? それとも、過去に縋らなければ生きていられない程度の虫ケラだと自身で認めるという事でしょうか?」
「いつか絶対にブチ殺してやるからな! 病気になっても安心して寝てられるなんて思うなよ!! テメーが弱った瞬間に最高の笑顔でブチ殺してやる!」
「それは楽しみですわね(笑)」
殺気満々な攻撃に加え、僕の人格否定すらしてくる寸胴残念女神様に対しブチ切れた僕の言葉に笑顔を返して来やがる。
それが、出来もしない事を必死で吠える負け犬のように扱われたような気になり更に苛立ちが募る。
…………………………ああ、そうだよ!!
負け犬の遠吠えだよ、チクショー!!
仮にも【神】なんだから病気になんてならないだろうし、弱った瞬間なんて一生見る事は無いって分かってるよ!!
んな事を考えてる場合か!?
更に追加された炎の槍が僕を取り囲んでいる現状、そんな余計な事を考えてる時間は無い!
こんな馬鹿な事と同時に打開策を並列思考で考えてるが、そんなヨユーこいてる場合じゃない。
並列思考の全てを打開策に回さなければ、この女神様は情け容赦無く僕を黒焦げにしてくるぞ、一切の躊躇も無く。
さっきは咄嗟に障壁を展開して爆炎を防いだが、この残念女神様は同じ手が通用する程甘い性格じゃない。
次は障壁を無効化するように攻撃して来るのは当然、最悪の場合は神の権能で障壁を無効化しかねない。
正解と言える対応をしない限り、軽い罰ゲーム感覚で僕を瞬殺、再生の繰り返し地獄に放り込むのは目に見えている。
「それではヒントを差し上げますわ。物理的な高温はどのような状態かを考えなさい」
並列思考、思考の加速、全てで検証しろ!
直ぐに発射されるぞ、時間は数秒も無い!!
「【絶対零度】!!」
分子の運動エネルギーの上昇が温度を上げるって事だろ?
なら、分子の運動エネルギーをゼロにするのが正解って事だ。
物理現象で絶対零度を再現しようとすれば、大掛かりな機械と時間が必要だが、そこは【魔法】ってインチキ法則でなんとかする。
僕を中心に運動エネルギーゼロの空間を形成するイメージ……
分子どころか原子に至るまで、全ての動きが止まる空間で僕の身体を包み込む。
僕の魔法の発動と同時に放たれた炎の槍が爆発と誘爆により僕を中心同時にした空間を灼熱地獄に変える。
地面のが石ですら融解する程の高温が僕を包み込むが、寸前で間に合った【絶対零度】の効果が僕を護る。
僕の身体から数センチ程度の空間にしか拡げる事が出来なかった魔法だけど、その数センチが爆炎の熱を完全に遮断してくれた。
…………広範囲に拡げる必要もないな。
全ての運動エネルギーを完全にゼロにする空間なんだから、僕の身体を包み込めれば物理的には完全防御が完成したのと同義だし。
欠点は、その冷気が周囲の空気に含まれる水分を結露、氷結させて視界を遮るって点かな?
防御魔法として普段使いするにはかなり改良する必要があるけど、コレもかなり有効な魔法の一つになる気がする。
物理完全防御魔法のヒントを得た僕は、思わずニンマリとしてしまうが仕方が無いよね。
追い詰められて咄嗟に創った魔法だけど、自分のネーミングセンスにも大満足だ。
「とりあえず合格ですが、そのナルシストな部分と、いい歳をして中二病が治らないキモい性格は減点対象ですわね」
「キモいとか言ってんじゃねえ!!」
「ヒントを与えたとはいえ、咄嗟に新たな魔法を創造出来た点は褒めて差し上げますわ」
「無視か? おいっ!?」
視界が塞がれている現状、魔力探知で女神様に向かって抗議するが徹底的に無視して来やがる。
と、次の瞬間、
「おっ、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
「あら、【逃げ脚】だけは変わらず立派ですわね(笑)」
魔力探知で察知していた逆方向、つまり僕の背後から殺気を感じた僕は形振り構わず前方にダッシュした。
魔力探知の結果と逆方向に何で!?
「単純なデコイですわよ? 普段から視界だけに頼り過ぎているから簡単に引っ掛かるんですわ(笑)」
デコイ!?
って事は、魔力で自身を偽装した存在を作り出した上で、自身は魔力を隠蔽した状態で移動したって事か?
「そろそろ視界も回復する頃では? よくご覧なさい」
その言葉を発する女神様は、意識していなければ存在を察知出来ない程気配が薄く、逆にデコイ?の方が魔力の偽装だけではなく存在感を感じさせる状態で突っ立っている。
…………っていうか、デコイの方美化し過ぎじゃね?
「何か仰いましたか?」
「イッ、イエトクニナニモ」
ボンッ・キュッ・ボンッって(笑)
やっぱり、自分で『美しい』なんて言ってながらもコンプレックスを感じてたんだな、この寸胴残念女神様も(笑)
ここは、何もツッコまないのが優しさってやつだな……
「不敬罪ですわよ」
次の瞬間、僕の身体は女神様の斬撃を受け縦に両断された。
こうなる予感はしていたけど、【絶対零度】を解除させる為に視界を回復させやがったのか?
【絶対零度】の効果は運動エネルギーの消滅、物理現象の完全停滞だから斬撃も防げた筈だ。
「試してみますか?」
ギャグ漫画のように両手で割れた身体をくっつけてる僕に、更なる追撃を放って来る残虐女神。
「アッ、【絶対零度】」
咄嗟に再現した魔法だけど、しくじった感覚はなかった筈だ。
しかし、女神様の斬撃を防ぐ事は無く、僕の身体はもう一度両断されてしまった。
【不殺】付与の効果で死なないってだけで、『死ぬ程痛い』って現実に変わりはないんだよ!!
ポンポンと人の身体を斬ってんじゃねえ!!
ってか、運動エネルギーの消滅は!?
どうやって斬撃を届かせやがったんだ!?
コレも【神】の権能ってヤツか!?
「馬鹿なのか、間が抜けているだけなのか………。貴方が魔法で運動エネルギーを消滅させるなら、私は運動エネルギーを発生させる付与を与えた斬撃を繰り出せば良いってだけの理屈に気付いてませんの?」
「そっ、そんな事が普通の人間に出来るか! 有り得ない結果を予測しろって無茶振りすんなぁ!!」
運動エネルギーを消滅させるっていう、僕の魔法自体がこの世界の人間には再現不可能な魔法なんだよ!
それを初見で簡単に対消滅させるなんて芸当を熟して来る存在なんてアンタ以外にいる訳無いだろ!!
「因果律の改変なんていう不条理を行う相手に、そんな甘えた態度で挑むつもりですの? ヴォルクがラスボスなんて考えてたら簡単に消されますわよ」
普段の笑顔が消え、真顔になった女神様が淡々と告げる。
そうだよ、因果律を改変した存在…………
ソイツからすれば、ヴォルクやマイアール帝国ですら駒でしかなく、この世界の摂理をブチ壊しに来てるんだ。
魔帝国の滅亡なんて、ソイツからすれば目的達成の為の過程でしかないんだろう。
僕の復讐はマイアール帝国に関わるクズ共で終わる話じゃなくなってるんだ。
この女神様ですら察知出来ない存在…………
そんな化け物相手に『有り得ない』なんて考えは危険だよな。
……………【神】の権能とやらで【神格】を僕に付与してくんない?
あのグラノスって古代竜は生まれた瞬間から【神格】を持ってたんだから出来るんでしょ?
時間的な節約にもなるし、何よりも因果律の改変なんてトンデモな事をしてくる相手に正攻法で挑む必要がある?
「負け犬らしい発想ですわね。楽に手に入る能力で本当に対抗出来るとお考えですか?」
言ってみただけだよ、チクショー!!
――――――――――グラノス
「なんかディスられてる気がする…………」
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