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序章 ロード=ベンズ5


『クチャクチャ……ゴリッ…バキッ…クッチャ、クチャ……』


 森から野営地に帰還した俺達の目の前には、俄に信じられない地獄が待ち受けていた。

 

 帰還途中に悲鳴を耳にした俺達は、【身体強化】を使い森を駆け抜けてきた。

 その為、身体の彼方此方に出来た傷から出血しているが、そんな事は気にしてられない程の死臭に怖気が走る。

 つい先まで一緒にいた仲間達が、顔すら判別出来ない状態…いや、五体満足な奴なんていないって状態で、ワイバーンに喰われているのだから。


 翼竜(ワイバーン)……

 竜種の中では最下層の存在とされているが……

 そもそも、竜種という存在自体が規格外である為、ワイバーンとの遭遇は天災といっても過言ではない。


 竜種の特徴でもある『硬い鱗』、『膨大な魔力による強力な魔法』、何よりも『竜の咆哮(ブレス)』……

 竜種の討伐など人類史に於いても数回しか無く、討伐に参加した者達は【竜滅の英雄(ドラゴンキラー)】と呼ばれ、歴史に名を残す程の快挙とされている。


 そんな化け物が、俺達の目の前で……

 

「あ………あぁ……あの鎧はスコット…」


「あそ……こ………に転が…ってるのは……誰の足なんだ」


 級友達……いや、級友達だったモノを喰らってやがる。


『ふっ、二人共……声を…出すな』


 森の端の木に隠れた状態で、俺はヴァンとランドが錯乱しない様に声をかける。

 不幸中の幸いとでもいうか、食事に夢中なワイバーンは、俺達の存在に気付いていない。

 あの化け物を相手に、俺達に出来る事は何一つ無い。


「ウッ!……ウワァァァァッ!?」


 突然、正気を失い森の奥に向けて走り出したヴァンの叫び声が静かだった地獄に響き渡る。


「ヴァンッ……えっ!!」


 ヴァンを追い掛けようとした俺を、ランドが突き倒して走り出した。


 ま……まさか、俺をオトリにしやがったのか!?


「チッ!」


 あのアホ共のせいで、ワイバーンの意識がコチラに向けられやがった。

 二人から出遅れた俺が一番マズイ状態だが、奴等と違う方向に逃げれば、餌の多い方を優先するかもしれねぇ。

 ってか、それ以外に俺が助かる道は無い!!


『グオァァァァァァァァァァァァッッ!!』


 雄叫びを挙げたワイバーンが風を纏う。

 ワイバーンは翼で飛ぶと勘違いされてるが、アレは船の舵みたいな物で、実際は風魔法で飛ぶ。


「ッ!」


 俺の人生で一番と言っても良い速さで【身体強化】を発動した俺は、二人が逃げた森の東側ではなく、北側に向けて走り出した。

 東側なら、森を出る迄の距離が近くて済むが、北側は森の最深部に向いた方向だ。

 とはいえ、そんな贅沢を言ってる状況じゃねえ!






























 そんな、甘い考えを持ってた時もありました……






 

 風魔法を纏ったワイバーンは飛び立つまでも無く、真空波の斬撃を此方に飛ばして来ただけだった。

 冷静に考えると、食事中のワイバーンからすれば、邪魔者を排除するだけで事足りるって訳だ。

 絶対的強者である竜種にとって、餌の確保など簡単なモノでしかないんだろう。

 食事を中断してまで、更なる食糧を確保する意味なんて無かったって事だ。


「……いっ……………痛えっ…」


 ワイバーンの風魔法の直撃は避ける事が出来たが、その衝撃波にふっ飛ばされた俺は全身打撲と数カ所は骨折、もしくは骨に罅が入っていると思われる。

 そんな状態でも、少しでもあのクソ竜(ワイバーン)から離れないと……今度こそ、殺されるだろうと考え歩み続ける。


―――――あのクソ共が!


―――――人を犠牲にして、自分達だけ助かろうってのか?


―――――生きて帰ったら、死ぬ程後悔させてやる!!


 今、満身創痍と言っても過言ではない俺を衝き動かすのは、ヴァンとランドの二人への恨みだ。

 落ちてた木の枝を杖にした状態で、激痛の中、緩慢な歩みで進む真っ暗な森の中で、自我を保つには怒りしか思い付かない。

 元々、『親父達の名』という呪いに絶望し、『死んだ方が楽になれるんじゃねえ?』なんて考えてた筈が、いざ死を前にすると、生き残る為に行動している自分にも腹が立つ。


―――――あそこで、ワイバーンに喰われてたら、こんな痛い思いもしなくて済んだんじゃないか?


―――――あんな風に喰われてしまうのは嫌だ!


―――――じゃあ、どうすれば良かったんだよ!!


―――――アレ………何だ?


 朦朧とした意識の中で自己嫌悪に陥る俺の目に、洞窟の様な穴蔵が映った。


―――――あそこなら、隠れて休めるか?


 体力的な限界も近かった。

 

 万全な状態なら、安全確保って意味では最悪な判断だって思う筈が、安全確認をする事も無く、俺は洞窟の中に入り意識を手放した。

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