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第2章 エルディーニ聖国篇 16


「いくら他国とは言っても、最到達階層を超えた階層で回収した素材は流石に売却すると目立ち過ぎだし、この階層で稼ごうか」


 ハンターギルド内では僕達のハンターとしての情報が共有される以上、此処がエルディーニ聖国であっても目立ち過ぎては、今後の復讐に支障が出る恐れがある。

 新人パーティーが単独で到達階層記録更新なんて話題にならない訳が無く、僕達の名も特徴も世界中に共有されるのは間違い無いからだ。

 僕の容姿、特徴についてヴォルクが知れば、必ず息子のロード君との共通点に気付いてしまう。

 そうなると、リーファンスで情報隠蔽の為に始末した【竜の咆哮(ドラゴンロア)】のグスタフ達の犠牲も無駄になってしまう。

 まぁ、あんなクズ共の犠牲が無駄になったとこらで、僕の心が痛むなんて事は無いんだけど(笑)

 ただ、時間はもう少し欲しいってだけで、ヴォルクのクソヤローにもロード君の犠牲と絶望を教えてやるって予定は変わらないし(笑)


 核融合と臨界、放射性物質の生成、放射性を対象外に対し完璧にカットする方法…………

 とにかく、ヴォルクのクソヤロー達が体内から壊れていく恐怖を味わいながら生き地獄に落ちるように準備しないといけない魔法が多すぎるんだよなぁ。


「カイト、妄想タイムは終わった? で、この階層で何を討伐するの?」


 妄想タイム?


「ちょっと考え事をしてたけど、妄想タイムって何!?」


「あっ、妄想タイムじゃなくて『賢者タイム』だったんだよね?」


 ルナの表現に突っ込みを入れてたら、ラナから爆弾発言が飛び出して来たー!!

 絶対、意味を分かってないだろ!?


「ラナ、『賢者タイム』は今後使用禁止ね!!」


「ええ? 考え事をしている時は『賢者タイム』って言うんじゃないの? 前にトラストさんとバーナードさんがカイトを見ながら言ってたよ?」


 あのオヤジ達は、年端のいかない少女の前で何を言ってるんだよ!!

 デリカシーが無いどころか、場合によってはセクハラ発言だぞ、セ・ク・ハ・ラ!!


「ねぇ、カイト、…………その反応からすると、『賢者タイム』ってソッチの意味なの?」


「…………」


 僕の慌てた反応と表情から察したルナが確認をして来るが、僕は黙って頷く事しか出来なかった。

 だって仕方が無いじゃん!

 まさか、無垢なラナに『賢者タイム』に入る過程を詳しく教えるなんて出来る筈が無いじゃんかよ!!


「ラナ、その言葉は『オヤジ用語』だから使わないようにね。バーナードさん達は確かに良い人だったけど、年齢的には……ね?」


「『オヤジ用語』? …………分かった、もう使わないね」


 釈然としない表情ではあるが、オヤジ臭い表現と言われた事でラナは『賢者タイム』って言葉を使わないと言ってくれた。

 ルナ、本当にナイスアシストだったぞ!!


 …………次に【暁】に行った時は、クランマスターに厳重抗議してやるから覚えてろよ!!



「話を戻して、この階層ではゴールドシープって魔物を狩るっていうか、眠らせて毛を刈るつもりです。ゴールドシープは大人しい部類の魔物なんだけど、共生している魔物がやっかいだからね」


「ゴールドシープ?」


「金色の羊? それに共生してる魔物って?」


 この二十二階層での目的をルナ達に説明していく。


 この階層はなだらかな岡の続く草原になっているが、そこに棲む魔物は草食系の大人しい魔物が多い。

 中でも、ゴールドシープという羊型の魔物の毛は高級毛糸の素材として人気が高い。

 とはいえ、二十二階層まで潜れるハンターが少ない上に、共生している魔物プレイリードッグの厄介さから、素材としての流通量が少なく高値で取り引きされている。

 プレイリードッグは牧羊犬のようにゴールドシープの群れを先導する魔物で、ゴールドシープを捕食する為に襲って来る魔物を逆に捕食する魔物である。

 一見するとゴールドシープを護っているように見えるが、ゴールドシープを生き餌として食用の魔物を誘っている鬼畜なんだよ。

 このプレイリードッグを討伐している間に肝心のゴールドシープ達が逃げてしまう為、厄介な存在と認知されている。

 強さで言えばウルフ系上位種並の強さであり、討伐するだけならCランクパーティーでも可能だけど、ゴールドシープを逃がす前にプレイリードッグの群れを討伐するには、最低でもBランク程度の実力が必要と言われてる。


 まぁ、現在(いま)の僕達なら何の問題も無いレベルだね(笑)


 そういった事をルナ達に説明していく。

 そうこうしている間に、視界にゴールドシープの群れが入って来た。



 前世で牧羊犬の知識がある僕からすれば、ドーベルマンに似た容姿のプレイリードッグが牧羊犬モドキの行動をしている事に違和感があるが、そういった偏見の無いルナ達はプレイリードッグの容姿に違和感を持っていないみたいだ。


「じゃあ、予定通りルナ達はゴールドシープに【睡眠(スリープ)】を、僕は犬退治で!」


「うん、ラナやるよ!」


「「【睡眠(スリープ)】」」


 ルナ達がゴールドシープに【睡眠(スリープ)】を掛けると同時に、僕は剣を片手にプレイリードッグ達に突っ込んだ。

 まるで剣舞のように剣を使うクラウディア様の動きを意識して、流れるように無駄無く一撃でプレイリードッグを仕留める事が今回の目的だ。

 無駄な動きを際限まで排除したクラウディア様の剣技は、ゆっくりとした動きに見えるが実際には最速の剣速で相手に迫る。

 前世のギタリストで『スローハンド』って呼ばれてたアーティストが居たけど、それと同じなのかな?

 あまりに速い動きで残像が見える事からそう呼ばれてたって思ってたけど、それだけじゃ無いんだよなぁ。

 とにかく、動きに無駄が全く無い。

 その効率を極めた動きで残像が残る速度だからこそ、動きそのものがゆっくりとした動きに見えるんだ。

 一手先、二手先じゃ無い、戦闘終了までの動きを予定調和で熟すような精密さが必要としたされる剣技、あの剣技を身に着ける事が僕の現在の目標だ。


「チッ!」


 頭の中で組み立てた動きと現実の動きの剥離…………

 思い通りに動いてくれない僕の身体機能に対し、思わず舌打ちをしてしまう。

 並列思考で俯瞰的観点から魔法で見る自身の動きは、理想としている動きに全く追いついていない。

 まあ、並列思考で俯瞰的観点を持ちながら戦うって事すら、最近になってやっと出来るようになった事なんだけど、目の前の目標が高過ぎて自分が不甲斐無く感じてしまう。


『あら? 私の美しさを少しは理解しているみたいですわね。でも、凡夫である貴方が私の動きを再現するのは大変ですわよ(笑)』


 …………集中してんだよ!

 一々、茶々入れて来んじゃねえよ!!


『どんな戦場でも平常心を保つ事が出来るようにという気遣いを理解出来ないとは…………、まだまだですわね』


 だぁかぁらぁ、一々挑発して来るのは止めて貰えませんかねぇ?


『そこは、右脚の動きが半歩大き過ぎますわ。その半歩が次の一步を遅らせていくのは理解してますの?』


 …………なるほど。


 俯瞰的観点から見えて無かった時には曖昧に感じていた指摘も、俯瞰的に見る事でより理解が出来る。


「こうか?」


 クラウディア様から指摘された歩幅を意識しながらプレイリードッグの首を刎ねる。

 確かに、動きが滑らかになった気がする。


『調子に乗るのは十年早いですわよ』


 この女神様は、人間だった頃の本職が魔法使いだったって言ってたけど、本当か?

 剣技って点でも【剣聖】って呼ばれるレベルにしか思えないんだけど?


『才能の違い…………ではありませんわよ? 努力の質と量の違いですわ』


 そうだよね。


 『天才は、努力を続ける事が出来る才能』って言ってた人がいるけど、努力の方向性を間違えず、最善方法で努力を続ける為の方法を探す事が努力の第一歩だ。

 間違ってたり、効率の悪い努力なんて『無駄な努力』でしかないってのが現実だ。

 この残念ポンコツ女神様は、それを見極める能力が僕よりも数段上だったって事にでしかない。

 でも、人間ってのは学習する生き物なんだよ。


 その『質』も『量』も未だに敵わないけど、いつかアンタにも一矢報いてやるよ!!

いつもお読み頂きありがとうございますm(_ _)m

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