第2章 エルディーニ聖国篇 13
「そもそも、生物は遺伝子組換えを世代交代の中で自然に行い進化していくものですが、特例として極稀に変異種と呼ばれる存在が生まれる事がありますの。『先天性白皮症』のような事例ある意味では特例に含まれますが、時に種の枠を超えた存在を生み出す事例もあるという事ですわ。ヴォルク=ベンズという存在がそれに当りますの」
「人間って種の枠を超えてるってのは、どういう意味で?」
剣の鍛錬だけではなく知識を含めて僕達を強化すると宣うクラウディア様による座学の時間、僕はクラウディア様が発した言葉の真意について質問をしていた。
ヴォルクのヤローが突然変異種の化け物みたいに『神』って存在が認定しているって事は、あのクズヤローがラノベやゲームでいうところの『勇者』という扱いであるかのように思えたからだ。
もしも、あのヤローが『勇者』だとすれば、『魔王』って役割の僕からすれば天敵以外の何者でも無いって事になる。
そうなると、ステータス外の補正的な相性の悪さも考慮しなければならないからだ。
「彼の者は『瞬間最大魔力』に限界が無いという身体的特徴を持っておりますの。とはいえ、それは無限の力という意味ではありませんわよ。身体的にただの人間である以上、一定以上の魔力を身体に宿す事は自殺行為でしかありませんし、肉体が耐え切れませんわ」
淡々と語られる言葉からは、ヴォルクって存在の理不尽さと同時に人間種であるが故の限界を感じるが…………
「つまり、肉体外に魔力を持ってくれば……、別の意味になる?」
「その通りですわ。例えば【魔法剣】のように肉体外部に魔力を集める等の抜け穴が存在するという推測は正解ですの。ただ、魔力の密度と総量次第では剣が崩壊してしまいますが」
魔力の密度と総量に耐えられる器が必要って事は、一定量の魔力による身体強化以上には肉体が耐えられない、魔法剣についても同様で、一定以上の威力を超えれば剣が保たないって事か。
なら、過去の魔力を含めて僕の魔力総量があのクズを上回っているんだから問題無いんじゃね?
そんな僕の感想に対し、クラウディア様は冷めた視線を向ける。
「『遺伝子的バグ』だけならそうでしたわね」
意味深なクラウディア様の発言に、ルナが質問する。
「それ以外にヴォルクって男には優位性があるって意味ですか?」
それは当然の疑問だろう。
ここまでの話から判断すれば、ヴォルクは可能性こそあれど人間の枠組みを超える事が出来ないって事になるんだから。
「彼の者には【魔王】に関する因果の糸が複雑に絡み付いていておりますの。ここで云う【魔王】とは、カイトさん個人を指すものではなく、私の眷属としての存在そのものという意味となります」
「つまり、カイト自身に絡んでた因果の糸とは関係無く…………カイトの存在そのものに影響を受けるって意味ですか?」
「そうですわね、全く関係無いとは言えませんが、カイトさんが私の眷属として覚醒する程に影響が濃くなるという認識で間違いありませんわ」
「でも、人間種である事は変わらない以上、その限界値が私達を超える事は無いんじゃ…………」
ルナが言う通り、先程の説明通りならヴォルクが人間種である以上、肉体的な限界は存在する筈だ。
なのに、クラウディア様はそれを明確に否定こそしないが、含みのある表現で否定するような返事を返して来る。
それがルナ達の疑問を更に深めているが、前世でオタクと呼ばれていた僕には何となく理解出来る。
「本来なら、限界値である数値以上にあのクズが力を出すとなると、因果律があのクズを限界突破させるって事だよね?」
「確証はありませんが、その可能性は高いと思われますわ」
【魔王】の天敵と因果律に定められているのなら、ゲームでいう『種族特効』の様な能力補正が入る可能性があるって事か。
それは、僕限定ではあるが、ヴォルクのクソヤローが人間種って枠を超えた力を発揮する可能性……、それも、突発的に能力補正を受ける事前予想の難しい可能性の話だ。
「何なの、そのインチキな話は!?」
「種族の限界が無いって!?」
ルナ達の驚きは当然だろう。
僕だって、前世でラノベやゲームの知識があるから納得顔でいられるが、今世だけの知識と常識しかなければとても納得出来ない理不尽な存在なんだから。
「つまり、最悪の場合ヴォルクと一緒にいるってだけで周りの人間すら強化される可能性を考えないとって話ですよね?」
「その通りですわ」
因果律っていう『運命を導く糸』が絡む以上、ヴォルクの力になり得る存在の全てが僕に牙を剥く可能性が高い。
なら、やる事は一つだ。
「ヴォルクのいない所で戦力の各個撃破、その状況造りが最優先、ヴォルクがラスボスってつもりで動こうか」
もしくは、日本人なら忌避する原子力による瞬殺しか無いかな?
「それをさせない為に、私が直々に貴方達を鍛えているって事を分かっているのでしょう?」
ほんの少しではあるが、殺気に近い視線を僕に向けて来るクラウディア様。
「例えば…………ですが、放射能だけをを完全にカット出来る障壁を開発出来れば許して貰えますかね?」
「それが、どれだけ悍ましい結果になるかを理解した上で聞いて来る貴方は正にクズですわね…………」
僕の頭の中で考えている事を寸分違わず読める女神様に、僕の考えを隠す事は出来ない。
その女神様が『クズ』と表現した僕の考えは、僕自身でも怖気の走るものでしかない。
しかし、因果律による強化を受ける側を弱体化させ、更に恐怖心で覆うって点では申し分ないものでもある。
「被爆がもたらす肉体の崩壊が、どれほど悽惨で悲惨なものかは貴方は前世で知っているのでしょう?」
クラウディア様の言う通り、被爆による影響に関しては日本人なら最低限の知識を持っているだろう。
被爆の度合いによっては即死する程ではあるが、僕の考えている魔法は人間の体内に放射性物質を埋め込む事により、時間を掛けて肉体的崩壊を促すというものだ。
核兵器を再現した魔法では、本当に無差別な殺人にしかならないが、この方法なら復讐対象に限定した殲滅が可能になる。
じわじわと拷問するような復讐をしていくには、対象となる人間の数があまりに多すぎる為、時間的、効率的な観点からすれば申し分ない結果を得る方法だと思うが…………
元日本人の僕としては忌避する魔法である事に変わりはない。
復讐の為に何をしても良いのかって葛藤が無いとは言わないが、世界を構成する因果律なんて不条理が相手である以上、手段を選んで目的を達する事が出来るとも思えない。
脳筋の集まりではあったが、素朴で優しかった同胞達の最後を思えば復讐を諦めるなんて選択肢は無いんだから。
「周囲に対する対策が万全であるという事が最低限の条件ですわ。その条件が守れないなら私が貴方を消します」
自身が決めた世界の理を穢されても人間種に最低限の配慮をみせるクラウディア様は、本当に女神様として世界の全てを愛しているんだろう。
しかし、言質はとった。
「僕も、関係無い一般人まで被爆させるつもりはありませんから、感情だけでこんな魔法は使いませんよ」
正直、【超電磁砲・改】なんて比較対象にならないくらい高難度な魔法だけど、いつか完成させてみせる。
かつて、ヴォルクと共に僕とマギクスを殺したレイナルドあたりを最初の被験体にしようと考えながら、僕は口角を上げた。
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