第2章 エルディーニ聖国篇 11
…………………………コイツと意思疎通は無理だ。
とりあえず、現状ではザマァどころじゃない程、実力に差があるって事だけは確定だ。
まあ、『過去でもあり』って自分で言ったんだから、ロリババアって表現は間違いじゃないって事で良いよね?
「生命が惜しく無いなら、そう思っても大丈夫ですわよ」
今までの殺気だけではなく、【神滅の剣】って呼んでた剣を鞘から抜きながら女神様が凄む。
蛇に睨まれた蛙状態の僕に向かい、ダラリと剣を下げた姿勢で歩み寄って来るが、身体が萎縮して全く動けない。
『無駄が全く無い姿勢と、無駄な力みの無い剣筋』
斬られた瞬間の僕の感想は予想も出来ないものだった。
っていうか、斬られた瞬間までその動きが把握出来なかった。
「えっ!?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ルナ達の悲鳴を最後に、僕の意識は闇に包まれる。
気絶とは全く違う感覚…………
これは本当に死んだかな!?
「いい加減、目を覚ましなさいな」
頭に衝撃を受けた僕は意識を取り戻す。
「…………生きてるのか?」
思わずそう呟いてしまったのはつい先程死を実感したからなのだが、僕を見下ろすロリババアの視線は冷たい。
その背後には先程までとは違い青空が広がっている。
「カイト、カイトォ……」
「生きてる、良かったぁ」
「大袈裟ですわね、神剣で絡まった因果の糸を断ち切られただけで気絶するなんて精神面から鍛え直す必要がありますわねぇ」
状況からして、気を失った僕の頭を蹴飛ばして起こしやがったな、このクソロリババア!!
「因果の糸を断ち切った?」
「その通りですわ。それが何を意味するかは理解出来ますか?」
「僕の運命ってヤツが無くなったって事か?」
「概ね間違いではありませんわね(あのままでは一年と保たず精神崩壊するハメになってた事は伝える必要はありませんか)」
何か含みを感じる答えをしながら腕を組み僕を見下ろすクソロリババアを睨みながら起き上がるが、身体に不調は感じない。
それどころか、身体を縛り付けてた鎖から開放されたような感覚すら覚えるくらい身体が軽い。
「大丈夫?、カイト」
「無理してない?」
心配そうな表情で僕に寄り添って来るルナとラナを安心させる為に微笑みかけながら立ち上がった僕に対し、ロリバ……クラウディア様が冷ややかな目を向けながら宣言する。
「さあ、ハンターギルドに戻ってパーティー登録をしてからダンジョンに潜りますわよ。のんびりしている間はありませんわ」
周囲を見回すと見覚えのある風景、僕達は聖都近郊の草原に戻って来ているらしい。
それはともかく、ダンジョンに?
「ここのダンジョンには私にしか干渉出来ない空間が用意されていますの。そこで私直々に貴方達を鍛え直して差し上げますわ。光栄に思いなさいな」
偉そうに上から目線で喋る存在は、女神様本人なのか……それともポンコツトカゲなのか判断がつかない。
何方にせよ、僕達とは隔絶したステータスの持ち主ではあるんだけど……あの空間でのポンコツぶりを見ているとトカゲの方に威厳を感じる事が屈辱的に思えてしまう。
「【古代竜】をトカゲ扱いとは傲慢極まりないですが、今の私はグラノスにリンクさせた本人ですわよ」
だ・か・ら・あ、人の心の中を覗いてんじゃねえ!!
「僕達を鍛え直すって、その対価は何?」
色々と突っ込みたいところだけど、神なんて存在に人間の常識を期待するだけ無駄と割り切った僕は自分の疑問に集中する事にした。
「対価なんて期待される程の実力があるとでも? 人間基準でそこそこの能力を獲たからといって、思い上がりが過ぎますわよ」
…………人間なんだよ、僕達は!!
人間基準で自分を量って当然だろうが!!
「貴方の存在は、本来なら私の眷属としての役割が与えられる筈でしたの。そんな存在が現在のようなザコザコでは私も恥ずかしくなりますのよ? せめて、私の眷属に相応しい実力を持てるまでは鍛え直す必要がありますの」
悪かったな、ザコザコで!!
神から見れば人間なんてザコザコでも当然だろうが!!
「ソレハソレハ、アリガタイオハナシデスネ…………」
「内心を読まれてるのを知った上で棒読みの感謝、その傲慢さだけは評価に値しますわね」
惘れた視線で見下してんじゃねえよ…………
とはいえ、ヴォルク達にザマァする事を考えると、僕達の能力アップはありがたい話ではあるんだよね。
僕の魔法が人間世界での基準で規格外だとしても、僕の動きが制限されてしまえばルナ達が危険な目にあう事も有り得る。
そう、マギクスの時のように…………
あんな思いは二度としたくないから今回は慎重に入念な計画を練ろうと思っていたけど、それにしたって限界はある。
数の暴力を策だけで凌駕出来るのは作り話の中だけだ。
現実ってのはそんなに甘くないって事を思い知らされた後で、再び夢を見れる程楽天的にはなれない僕には『実際にザマァする事は不可能ではないのか?』って不安が常に付き纏っていた。
そこに人間基準を遥かに凌駕する能力の持ち主から『鍛え直してやる』って話は渡りに船ってヤツだ。
この話を蹴るなんて選択肢はない…………
「ルナ、ラナ、僕はこの話を受けようと思う。君達はどうする?」
これだけのステータス差を考えると、これからの鍛錬が普通じゃないって事は明らかだ。
僕だけなら問題ないけど、ルナ達を勝手に巻き込む話ではないと思い二人に確認をするが、
「え? まさか私達を置いて行く気なわけ?」
「カイト?」
ジト目になった二人から圧力を感じる答えが返って来た。
「いや、違うって?! 今回の話は自分が人外の化け物になるまで鍛え上げられるって話だよ。とんでもない目に会わされる事が確定してるんだから、二人の意思を確認しないとって…………」
「『一人で背負い込まないで』って何回も言ってるよね?」
「ふ〜ん、私達って信頼されてないんだ」
剥れた表情になるルナとラナ…………
「二人を信頼してないとかじゃなくて…………、そうだよね、二人がそう感じるのは当然か。逆の立場だったら僕も同じ事を言うもんな。ごめん、前言は撤回するよ、僕と一緒に来てくれるよね?」
言い訳にしかならないけど、僕は二人が心配だっただけだ。
でも、それは僕の感覚でしかない。
もしも逆の立場だったら、二人に置いて行かれるなんて許容出来る筈がないと思った僕は前言を撤回して二人に問いかけ直した。
「うん!」
「今回は許してあげるけど、次に同じ事を言ったら……」
素直に上機嫌な返事を返してくれるラナと、視線を逸して少し剥れた事を言うツンデレキャラを見せるルナ。
そうだよね、二人は僕の目的を知った上で一緒に居てくれてるんだ、今更、『危険だし心配だから離れてろ』なんて言ったら失礼ってもんだ。
二人からしても、自分達の同族をも壊滅状態に追い込んだ奴等に対する復讐って面がある。
『復讐は何も生まない』なんて綺麗事を言うお花畑も世の中にはいるけど、それは当事者ではない想像力不足な奴の言う事だ。
前世で『熊を殺すな、熊の生息圏に踏み入る人間の方が悪いんだから』なんて寝言を言ってる自称環境保全家が居たけど、自分が熊に襲われている最中に同じ事を言ってみろとしか思えなかった。
それと同じで想像力不足ってのは、被害者と加害者の関係性すら色眼鏡で判断させるもんだ。
当事者である僕は、復讐する事でしか再スタートが出来ないって事を誰よりも知っている。
僕が我慢すれば済むなんて寝言を聞き入れるつもりはない。
そんな事をしても、加害者側は自分の行動が間違ってないと思い、更に被害者を増やすだけでしかないからだ。
だから、僕はルナ達の復讐を止めるつもりはないし、僕の復讐を邪魔する奴は全て敵と見做す。
このポンコツチッパイ女神様は僕の復讐を『神罰の適用内』としている現在は敵ではないし、僕を鍛え直して復讐の為の能力を与えるって言っているんだから、味方とまではいかなくてもそれに近い存在と考えるべきだろう。
「人間の内心にまで干渉するつもりはないですが、仮に私の事をそのように呼べば細切れになるって事だけは覚えておきなさい」
…………はい、申し訳ございませんでしたあ!!
だから、その殺気は引っ込めてくださいm(_ _)m
「カイト……」
「さっきから、何を二人でしか分からないやり取りをしてるのよ!」
ほら、一々僕の内心に突っ込みを入れるからルナ達が不審に思ってるでしょ。
だから、僕の内心を読まないでくれると助かります。
「(´Д`)ハァ…、お二人が心配するようなお色気のある話ではありません事よ。こんなカスを好きだなんて物好きですわね」
「なっ、なあ!?」
「うん、好きだよ?」
ポンコ……クラウディア様の発言に動揺するルナと、当然の事のように答えるラナ。
ってか、この反応を見るに、ルナ達にはこの凄まじい殺気が全く感じられてない?
僕限定で殺気を発するなんて事が出来るのか?
「このくらいは、貴方が言う『人間基準』でも出来る事ですわよ? どれだけ甘やかされて来たのかしら」
クラウディア様のため息交じりの発言に、僕はこれからの修行がとんでもない事になる予感しか感じられなかった。
いつもお読み頂きありがとうございますm(_ _)m




