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序章 ロード=ベンズ4


 拠点とやらの設営を終えた俺達は、既に薄暗くなり始めた森の索敵を兼ねた探索に出ていた。


「明日の為に、少しでも周囲の状況を把握しないとねぇ」


「アレじゃあ、事前の下見も期待出来ないから危険度を考えると…………自分達でなんとかしないと」


 後衛として、俺の後ろを歩くランドとヴァンのやり取りを聞き流しながら索敵を続ける。


「口だけじゃなく、周囲の索敵をしてんのか?」


 学園の授業程度なら、ナマハゲ達のポンコツぶりも誤魔化せてたみたいだが、普段から絡まれてる俺からすれば『今更』だ。

 そんな愚痴をこぼしながら索敵出来る程、俺も含めた学園生は経験豊富じゃないだろう。

 俺が最前列で警戒していたところで、いつ前後左右、更に上下から魔物の襲撃があるか分からないんだ。

 このお坊ちゃま達には、自分が本当に生命の危機に曝されるかもしれない状況って自覚が無いんだから、呆れてしまう。

 口では立派な事を言ってるが、本当は危機感を持っていないって丸分かりだ。


「今はロードがシーカーの役割だろ?」


「何だ、見落とした時の言い訳かい?」


 普段から、俺の事を見下してる奴等らしいお返事が返って来やがったよ…………


「ナマハゲの事をどうこう言ってたが、お前等も現状……大差無いって言ってんだよ!」


 シーカーは前面を中心に索敵するが、野生の獣、まして魔物が正直に真っ正面から襲って来るなんて楽観視しすぎだろ。

 獲物を確実に仕留めようとする奴等が、正々堂々なんて精神で襲って来る訳無いって事すら分かんねえのか?


「それにしても、ウサギ一匹出て来ないね」


「野生の感で、僕達の強さを感じて逃げたのかな?」


『寝言は寝て言え!!』


 お気楽お坊ちゃま二人の会話に、心の中で突っ込みを入れたが……確かに周囲に生き物の気配が無さ過ぎる。

 後、ウサギは『一匹』じゃねえ!『一羽』だ!!


「だいぶ暗くなって来たから、そろそろ切り上げないか?」


 ランドの提案ではあるが、表情を観る限り、ヴァンは既に合意している…………っていうか、二人がアイコンタクトででも会話していたんだろうな。

 コイツ等、本気(マジ)で索敵していなかったって事か……


「これ以上、暗くなると索敵どころじゃなくなるしな」


 周囲の警戒を俺一人でしながら、夜の森を索敵なんてヤバ過ぎる。

 理由は兎も角、俺も同意して野営地に帰る事にした。













 ――――野営地



「あ………あ…れ……って……………」


「……ワ…イ………バーン…だよな?」


「ヒッ………ヒイィィィィィィ!?」


「教官、どうしま…………きょっ、教官!?」


「教官が…………いな…い?」


 突然現れたワイバーンの襲撃に、騎士学園の生徒達は大混乱に陥っていた。

 そんな中、比較的冷静さを持った生徒が教官の判断を仰ごうとするが、教官達の姿は何処にも見えない。





「なっ、何故ワイバーンが!?」


「ソレよりも、生徒達を置き去りにして大丈夫なんですか!?」


「クズ共が餌になって、私の様なエリートの役に立てるのだ。寧ろ本望だろうよ。そんな事よりも、貴様等…あのワイバーンをなんとかして来い!!」


 偶々、空を見上げていたお蔭で、誰よりも早くワイバーンの襲撃に気付く事が出来たナマハゲことオルドレッド卿は、生徒達をオトリにして、我先に逃亡していた。

 それに気付いた他の教官達も、生徒達に指示を出す事無く、オルドレッド卿を追いかける様に逃げ出していた。


「しっ、しかし、この後を考えると……」


「オルドレッド主任っ、指示を!?」


 生徒達に構わず我先にと逃げ出したクズ教官らしく、今後の自分達の身の上を心配し、この演習の責任者であるオルドレッド卿に責任を転嫁しようとする者迄いる始末だった。

 この様に発言しておけば、オルドレッド卿の指示だったとでも言い訳出来ると勘違いしている辺り、この教官もマトモな神経を持ち合わせていないと思われる。


 騎士を養成する立場の人間が、世間一般に認識される騎士道精神から外れた行為を行って、言い訳出来ると思っているのは、非常時に於ける精神の混乱からか?

 それとも、オルドレッド卿同様の精神性しか持ち合わせていないのかは分からない。


「ぅ…………ギャアァァァァァッッ!!」


 何方にせよ、彼等が今後の心配をする必要は無いのだが……


「なっ、……何だ、この魔物の数は!?」


「まさ……か……コイツ等も……ワイバーンから逃げてたの…か?」


「わ……私が……何をしたというのだぁぁぁっ!!」


 野生の感という物は馬鹿に出来る物では無い。

 『沈む船からネズミが逃げ出す』といった様に、ワイバーンの接近を感じ取った森の獣、魔物達は、ワイバーンを目視してから逃げ出した者達よりも、遥か前に危険から逃げ出していたのだ。


 そして、普段の餌場から離れ、腹を空かせた魔物達にとって、丁度良い餌が現れればどうなるか?


 【予定外】、【想定外】……

 其れを回避する為に、事前準備を行う事。

 其れを教える立場の人間が、この様な人間だった事こそ、生徒達の不幸だったのかもしれない………

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