閑話 常識人の苦悩
―――――――――――バーナード視点
ある日、クランハウスで装備の手入れをしていた俺はクランマスターであるシシリアから『話があるのでパーティーメンバーを連れてマスター室にきてくれ』と呼び出しを受けた。
三十歳にして、世界で数人しかいない無詠唱魔法の使い手であり、リーファンス……いや、オーネスト王国随一の魔法使いであるシシリアが立ち上げたクラン【暁】には、オーネスト王国を代表する魔法使いであるシシリアの名声を貶める事を許さない厳しい規則と序列が存在する。
つまり、絶対的存在からの呼び出しって事だ。
「呼び出してしまってごめんなさいね。大事な話なので他には聞こえない環境で話したかったのよ」
「ほう、【明星】がそこまで気を使うような話か」
【明星】ってのはオーネスト王国の国王陛下から下賜されたシシリアの二つ名であり、その事実がシシリアのハンターって職種を超えた王国での立場を表している。
とはいえ、シシリア自身がそれに増長するような事は無く、駆け出しの頃から面倒を見ていた俺に対する態度を変えたりはしない。
Bランクハンターである俺なんて塵芥って立場になっても偉そうにしないシシリアだからこそ、俺達『緋色の剣』は後輩であるシシリアが立ち上げたクランに参加しているんだけどな。
そんな関係の俺達を呼び出すって事は、かなり繊細な事情の案件なんだろう。
「最近ギルドで話題になってる【幻想審判】ってパーティーの事は知ってる?」
「ああ、何か胡散臭い噂ばかりだが聞いた事はあるな」
「そう……実際に目にした事は無いのね。ギルドマスターから内密に話があってね、その【幻想審判】をエルディーニ聖国への護衛依頼に加えて欲しいそうなの」
「えっ? 護衛依頼に他所者を? ギルドマスターが?」
パーティーを代表して話す俺とシシリアの会話にトラストが口を挟んで来る。
まあ、気持ちは分からんでもないがな…………
ウチのギルドマスターは脳筋気質ではあるが、元Aランクハンターのリチャードさんだぞ?
そんな素人みたいな事を本気で言ってんのか?
シシリアもそんな馬鹿な話を受けたってどうなってんだよ?
「護衛依頼は連携こそが肝だ。いきなりパッと出の新人パーティーを加えろなんてギルドマスターは正気か?」
ウチで専属契約をしている護衛依頼は複数の商会を束ねた商隊の護衛であり、その規模から複数のパーティーでの護衛になる。
最低でも二パーティーは必要な規模の商隊護衛であり、大きな商隊の時は五パーティーで連携して護衛するくらいだ。
普段から同じクランで気心の知れた仲だからこそ緊密な連携が可能であって、名前しか知らないパーティー……それも新人パーティーと連携なんて無茶苦茶な話でしかない。
「普通にそう思うわよね(苦笑)。 でも、これはギルドマスターだけじゃ無く、クランマスターとして私から『緋色の剣』…………ううん、バーナードさんへの依頼だと思ってください」
「…………詳しい話を聞いてからだな」
例え、リーファンスのハンターギルド長からの話であっても、この【暁】に対し強制力を発揮する事は出来ない。
それだけの権力を【暁】は有しているし、何よりシシリア自身がクランの人員の安全を最優先にする性格だ。
そのシシリアがこんな無茶苦茶な話を振って来るなんて、興味を持つななんて不可能だろう。
『話をするよりも、実際に会ってみて』って言うシシリアに従い顔合わせした【幻想審判】だったが、なんだよあの化け物は!?
新人パーティー?
エルフがいる?
そんな小さな事はどうでも良い!!
あのカイトって小僧は何者だ!?
「理解って貰えたかしら(苦笑)、そういう事なのよ。あの力を野放しには出来ないの。だから、可能ならこの依頼中に彼等を【暁】に勧誘、無理でも繋がりを深めておいて欲しいっていうのが貴方達に対する依頼よ」
トラスト達は気付いていないみたいだが、俺とシシリアはカイトって小僧から【魔王】の如き禍々しさを感じていた。
表面上は礼儀正しく穏やかな新人だが、間違い無く『深く暗い闇』を飼ってやがる。
それを向ける先が何処かを探れってのが、シシリアの本音だろう。
敢えてそれを口にしないって事は、決して無理をするなってのと、俺に箝口令を敷いたって意味で間違い無いな……
(´Д`)ハァ…………
シシリアは昔から、面倒な話ばかり俺に振って来やがる。
【明星】なんて二つ名で呼ばれようが、『お兄ちゃん』って呼びながら俺の後を着いて来ていた新人時代と変わりないな……
護衛が始まってからも、カイトって小僧は表面上の礼儀正しさは変わりない。
素の性格なのか、少し天然っぽい雰囲気でのんびりとした空気を纏わせながらも真面目に護衛を熟し、片手間で二人のエルフに魔法や護衛について指導もしている。
最初の危機であったグリフォンの襲撃時にも慌てた様子は見せず、エルフ二人に指示を出して簡単に仕留めさせやがった。
自身で何もしなかったのは指導の一環なんだろうが、護衛依頼中にエラい余裕を見せてくれるじゃねえか!
その後でグリフォンを焼き鳥にした時には中心で働きまくってたが…………あいつ、料理上手いな。
でも、仕留めたグリフォンの肉を惜しげもなく商隊全員に振る舞うって事が社交性の高さだけじゃなく、『あの程度の魔物は希少じゃない』って余裕をさらけ出してしまっている事に気付いているのか?
『目立ちたくないので、護衛依頼中の目立つ討伐は【暁】の皆さんの功績に』なんて言ってた筈なんだが、グリフォンの討伐が目立つ功績に含まれてないって感覚は異常じゃねえか?
グリフォンだぞ、グリフォン!!
【魔王】様からすれば『鶏』と同列なのか!?
Bランクパーティーの俺達じゃ対処不可能な魔物ってのは少ない。
グリフォン相手でも苦戦はするが、最小限の被害で討伐する事は出来ただろう。
しかし、相手が竜種となればお手上げだ。
普段なら逃げの一択、護衛依頼中なら護衛対象を逃がす為に生命賭けで殿を務めるしかない。
竜種を相手に身体強化全開で最大威力の魔法剣で斬りつけたとしても何処まで通じるか……
運が良くても大怪我、普通にパーティーの誰かは犠牲になるって覚悟をしたが、カイト…………【魔王】様が一発の魔法でアッサリと仕留めてくれた。
グリフォンは『鶏』扱いだったが、翼竜に至っては『空飛ぶトカゲ』扱いだぞ!?
竜種をトカゲって何だよ!?
Aランクハンターでも厳しい、Sランクハンター推奨の魔物を魔法一発で仕留める新人?
何よりも、翼竜っていうか、竜種を魔法で仕留めるって事自体が信じられねえ。
竜種の鱗には魔法に対する強い耐性があり、人間の魔法で竜種に傷を付けるのは不可能とさえ言われている。
これはシシリアも認めている魔法使いの常識だ。
『竜種に傷をつける魔法の使い手がいたら【賢者】って呼ばれて伝説の存在になるだろうね』ってシシリア自身が言ってたからな。
それを、『魔法で再現してる物理現象だからですよ』って当たり前のように言ってんじゃねえ!!
その理屈なら、お前以外の魔法使いが使う魔法の炎だろうが氷だろうが物理現象だろうがぁぁぁぁぁぁっ!!
しかもなんだ、その(-ω☆)ニヤリって表情は!?
お前、本気で『目立ちたくない』って思ってんのか!?
世の中をナメてんのか!?
トラスト、テメーも変な嫉妬心でこの【魔王】様に絡んでんじゃねえよっ!!
ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ、もうっ!!
頭がおかしくなりそうだっ!!
とにかく、この【魔王】様の心の闇の矛先が人間に向かないようにって心配は徒労に終わりそうで安心した。
会話の節々から『特定の誰か』に向けられる事はあっても、不特定多数に敵意を向ける性格ではないと判断する事が出来たからな。
その程度の闇なら誰の心にだってあるだろう。
問題なのはその深さと暗さであり、問題無しって判断は、カイト自身が他の人間よりも危険な性格をしているって訳では無いって点から来るものだ。
つまり、カイト自身が【魔王】になれる素養は持っているが、それを望む性格ではないと俺は判断したって事だ。
その垣間見せる闇について助言した際、カイトが【魔王】を目指すなら不都合な事に気付いた俺を殺していたはずだ。
しかし、カイトは助言を聞き入れただけじゃなく、俺に向けて感謝の表情を垣間見せた。
そんな素直な小僧が【魔王】なんて目指す訳がねえって判断した俺は甘ちゃんだろうか?
でもなぁ、エルフ二人の懐き具合を見ても、コイツが心底悪い奴とは思えねえんだよな。
『敵対しなければ無害な存在』、『隠している力の底は見えなかった』ってシシリアに報告するしかねえか。
…………あの『存在感を薄めてみました』っていう魔法についても報告する必要はあるが、魔法オタクのシシリアは余計にカイトに執着する事になるだろう。
竜種を一撃で屠る魔法ってだけでも大概だが、ある意味ではそれよりもヤバい魔法だからなぁ。
『その魔法について教えてっ!』って、シシリア自身がトラストどころじゃねえ面倒な騒動を起こしかねねえぞ。
どうせ、いつも通りに俺が何とかする事になるんだろ?
ああ、俺の胃が壊れる未来しか想像出来ねえ…………
カイトの奴、このままエルディーニ聖国に永住してくんねえかな?
胃が……胃が痛え…………orz
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