第2章 エルディーニ聖国篇 4
――――――――『緋色の剣』バーナード視点
「なぁ、勧誘しろって言われてるんじゃないのか?」
俺とカーライル、そしてコイツの三人から始まった『緋色の剣』だったが、最近トラストのヤローはクランマスターであるシシリアに熱を上げてしまい少し調子が狂い勝ちである。
「『行けそうなら、無理強いは厳禁よ』って念押しされたのを忘れたのか? どう視ても『無理強い』になるだろうが」
「そうか? あの坊主…………エルフ二人にだけ戦わせて自分はのんびりしているだけじゃねえか。魔法使いってギルドで名乗ってるみたいだけど、魔法すら使わねえぞ」
リーファンス最強の魔法使いと呼ばれるシシリアと彼……カイトを比較する声があがり始めているせいか、同じ魔法使いとしてシシリアに心酔しているトラストはカイトに対し否定的な視線を向けているように思う。
まあ、それを態度に出してはいないから黙ってはいるが、彼の底知れ無さに気付けないなんてどうかしてんじゃねえかとしか思えない。
シシリアから直接依頼された、護衛任務中に『幻想審判』を可能ならば勧誘、そうでない場合は繋がりを深めるように……という任務、その意味すら理解出来ねえほど冷静さを欠いているんじゃ話にならねえ。
「自分が出るまでもねえって判断だろ。あのカイトって奴は別格だ、魔法に長けた種族のエルフですら師事するほどにな」
「…………どうだかな。噂は噂でしかねえ、俺は自分の目で見ねえとあの小僧の実力を認めるなんて考えられねえよ」
そう、俺達は直接目にしてはいないが、現役を引退したとはいえ、リーファンス最強の名を欲しいままにした現ハンターギルド長のリチャードさんすら手玉に取ったっていうカイトには様々な噂が流れている。
曰く、とんでもない容量のアイテムボックス持ち
曰く、ギルドが目の色を変えるほどの魔物の討伐数
曰く、ギルド長を誂って遊んでいる
俺自身、噂は噂でしかねえって思っていたが、この護衛依頼の準備として『幻想審判』と顔合わせした時に……まるで【魔王】とでも鉢合わせたかのような寒気に全身を貫かれた。
いや、【魔王】なんて物語の中でしか知らねえが、そうとしか表現出来ない底知れ無さをあのカイトって小僧から感じたんだ。
見た目は生意気そうだが穏やかな性格の新人ハンター…………しかし、その奥底にとんでもなく深く暗い闇を飼ってやがるって本能的に感じたんだが、それは俺の感覚的なものでしかねえし、実際に闇を表に出した訳でもねえ。
それでも、俺はハンターとして長年生き残って来た自分の勘を疑うなんて馬鹿な事はしねえ。
この直感はハンターとして生き残るために必須な素養だ。
本来、トラストの奴も感じる筈の直感だが、感情的な視線でカイトを視ているせいか、あの底知れ無さにすら気付けていねえ。
トラスト自ら何か問題を起こすとは思えねえが、不穏な事態にならねえようにしねえとな。
触らぬ神に祟りなしだ…………
――――――――カイト視点
「おい、この気配!」
「しゃ、洒落にならねえぞ!!」
「あっ、慌てるな、とにかく商隊を避難させろ!!」
特に魔物の襲撃も無く、のんびりと進む商隊がいきなり緊張に包まれる。
「カ、カイト、これヤバいやつよ!」
「お姉ちゃん、これって竜種だよね!?」
気配察知するまでも無い濃密な魔力の接近、空飛ぶトカゲが近づいて来た事に気付いた『緋色の剣』が、続けてルナとラナまでが緊張感MAXといった表情に変わる。
「えっ、トカゲが飛んで来てるだけじゃん。そんな大騒ぎするような事じゃ無いよね?」
亜竜とはいえ、竜種に分類される翼竜は決して弱い魔物ではないけど、そんな大慌てするほどの存在でもないんじゃない?
いや、少し賢そうなら飼い馴らして足代わりにするってのも有りっちゃ有りかな(笑)
昔、マギクスと計画はしてたんだけど、マギクスが隠そうともしない強者のオーラに脅えた飛竜が逃げ出して近付く事すら出来なかったんだよね。
僕みたいに魔力を抑えろって言ってたのにマギクスは『殿下の護衛である自分が弱者を演じる訳にはいきません』って頑固一徹だったから泣く泣く諦めたんだけど、今回は飛竜から近付いて来てくれてるってありがたい状況だ。
この機会を逃す手は無い!!
「カッ、カイト!?」
「何で嬉しそうなの!?」
思い掛けない機会の到来に対し、無意識に口元が緩んでいる僕の表情を見たルナとラナは先程とは違った意味で驚愕の表情に変わるが、竜種のペットなんて異世界ヒャッハーの定番を前にした僕の表情が緩むのは仕方の無い事だよ(笑)
「ルナ、ラナ、ペットを飼って良いかな?」
常識人である僕は、家族と呼んでも差し支え無い存在と化しているルナ達に無断でペットを飼うなんて選択肢は無い。
二人に納得して貰った上でテイムしないと不義理ってもんだ。
「なっ、何を言ってるの!?」
「まさか…………(汗)」
感の良い二人は現在の状況と僕の表情から全てを察してくれたみたいだ。
「前から考えてたんだよね。乗りこなす事が出来れば良い足になると思うんだ(笑)」
僕の考えを直ぐに察してくれる二人に気分を良くした僕は更に上機嫌に……、いや、有頂天な表情で二人に語り掛ける。
「餌は魔物を狩ってアイテムボックスにストックしておけば問題無いし、トカゲモドキとはいえ一応竜種だからそれなりに箔は付くよね(笑)」
そう、【竜騎士】なんて中二心が刺激されない訳が無い!!
「カ、カイト? 翼竜なんてテイムしたら目立ってしまうだけじゃない?」
「『まだ目立つ訳にはいかない』って言ってエルディーニ聖国行きを決めたんじゃなかった?」
…………………………orz
冷静に考えればルナとラナが言ってる事は至極当然な判断だろう。
しかし、取らぬ狸の皮算用で盛り上がってた僕の気持ちはその当然を許容出来る余裕が無くなっていた。
「そ、そうだよね……………………」
「そっそんなに残念だったの?」
「でも仕方無いし……」
ガックリと肩を落とした僕の姿にルナとラナが動揺しているが、理系である僕は無駄を省くって事に余念が無い。
「仕方無いね、サッサと仕留めて焼肉の材料になって貰おう!」
「「ええぇ?!」」
無駄な事を悔やむ時間も勿体無い!
サッサと狩って名残りを残さないようにしようと切り替えた僕の豹変ぶりに、ルナとラナは着いてこれないみたいだ(笑)
「じゃあ、『緋色の剣』に話を通して来るね」
ハンターとして、それなりの獲物を勝手に取ってしまう訳にはいかないので、『緋色の剣』が狩りたいと言わないかを確認しないとね。
うん、やっぱり僕って常識人だ(笑)
まだ茫然としているルナ達を置いて、僕は『緋色の剣』に話をしに行こうとしたが、向こうから顔色を変えて走って来るのはバーナードさんだよな?
「おい、カイト! 何をのんびりしてる!! 商隊の人間を避難させろ、殿は俺が引き受ける。荷は諦めて貰うしかねえが生命あっての物種だ。安心しろ、俺が生命に換えても護ってやる!」
悲壮な表情で決死の覚悟みたいにバーナードさんが喚いているが、やっぱり翼竜を横取りされたくないのかな?
少なくとも、Bランクの『緋色の剣』なら翼竜なんて楽勝だろうし…………
「素材、稼ぎは折半でどうですか? 翼竜くらいで険悪な状況にしたくないですし、僕の憂さ晴らしに獲物は譲って貰いたいんですけど」
「ハアッ!? お前、何を言ってんだ? トカゲって……現在迫ってんのは翼竜だぞ! この濃密な魔力を感じねえのか!?」
穏やかに交渉しようとする僕に対し、バーナードさんは驚いた表情、焦った表情、苛ついた表情と百面相を始める。
「だからトカゲモドキですよね? 真竜でもない亜竜種如きで『緋色の剣』の皆さんと禍根を残すような事はしたくないんですよ」
「お、お前…………何を言ってんだ?」
「ちょっと気落ちする事があったから憂さ晴らしをしたいんですよ。トカゲモドキじゃ物足りないけど試してみたい魔法もありますしね」
翼竜が亜竜種に認定されているのは見た目だけが理由ではない。
抗魔法の性質を持ったそれなりの硬さを持つ鱗、劣化版とはいえブレスも吐くし竜種に近い生態を持つ事が最大の理由だ。
魔法をレジストするなんて、僕に喧嘩を売ってるとしか思えないじゃないか(笑)
「知らねえのか? 奴等に魔法は効かねえぞ!」
「効かないんじゃなくて、効き辛いってだけですよ(笑)」
魔法の試し撃ちをしたいと告げた僕にバーナードさんが食って掛かるけど、それは僕の魔法に対する侮辱ってもんだよ。
鱗が魔法をレジストするのなら、【超電磁砲・改】で鱗を穿いて身体の内部で魔法を発動させれば良いだけじゃないか。
「まあ、意見の相違はともかく、初手は譲ってください」
こんなやり取りをしてる間に、翼竜は視認出来る距離まで近付いて来てるし、問答無用で初手は貰おう(笑)
「構築【爆裂】、【超電磁砲・改】発射!」
土魔法で構築した鉄の弾丸の内部に【爆裂】を封入した状態で発射する。
【超電磁砲・改】の威力なら、この世界では硬い部類に分類される翼竜の鱗を穿いてくれるだろう。
フッフッフッ、現代科学の威力を思い知れトカゲモドキ!!
体内で爆発する爆裂弾ってSFアニメみたいでカッコいいしな!
『ギョッ!?』
翼竜が変な鳴き声を出したと思ったら、そのまま【爆裂】を封入した弾丸は奴の胸を貫通していた。
「あれ? 思ったよりも柔らかかったな…………orz」
お読み頂きありがとうございますm(_ _)m




