第2章 エルディーニ聖国篇 3
「いやぁ~、貴方達を護衛に雇えて幸運でした! この出会いのきっかけをくれた【暁】にも感謝しないといけませんね!」
焼き鳥を片手に上機嫌で話し掛けて来てるのは、この商隊を纏める大商会『グリーズ商会』の番頭の一人であるレンさんだ。
「コチラが無理を言って加えて頂いた依頼を遂行しているだけですから、そんなに評価してくれる必要は無いですよ」
「何を仰るんですか! 私共の商売は優秀な護衛無しでは成り立ちません。グリフォンをあんなにあっさりと討伐されるハンターとの出会いがどれほどの価値を持つと思われますか!!」
僕の持っていた番頭のイメージだと『小狡い交渉を熟す事が得意』な古狸的なおっさんだったんだけど、目の前にいるのは二十代半ばで見た目は爽やかなイケメンである……
そのイケメンが興奮醒めやらぬ状態で僕達に躙り寄って来る状況に若干引いてしまうのは、僕がイケメンに対し前世を含めて苦手意識を持っているからだろうか?
ウェ~イ系と言っても過言ではない見た目と明るさに対し、前世の僕はボッチのオタクなんだから苦手でも仕方無い得意思うんだ……
「エルフの御二方も素晴らしい。その美しさだけではなく私共の常識を遥かに越えた魔法を操り、最低でも馬の犠牲を覚悟しなければならなかったグリフォンをあれ程容易く仕留められるとは!」
「えっ、ああ……うん」
「ん?……ラナ、それ私の肝串よ!!」
肝心のルナとラナはイケメンから絶賛されているのに興味無いといった態度で焼き鳥に夢中である……
美形が当たり前なエルフから見れば、レンさんはイケメンって部類に入らないのか?
「すみません、二人ともまだまだ子供で……食欲優先って思って頂けると(苦笑)」
「ああ、いえ。この反応だけでも『審判』の皆さんにとって、グリフォンが脅威にすらなって無い事が良く分かりますから大丈夫です」
とりあえず保護者として謝った僕に、レンさんは気にしてませんと穏やかな表情で返してくれた。
商人として、今回のグリフォンの肉を商隊の人達にタダで振る舞っている僕達に妙な表情を見せる筈も無いだろうけど、商人だからこそタダって意味に気付いてくれてると思う。
早い話『僕達を勧誘するな』といった意味を兼ねて、ハンターである僕達が素材をタダで振る舞うという『普通なら有り得ない』大盤振る舞いをした事に気付いてくれてるって事だ。
普通のハンターなら、解体して持てるだけの素材以外を買い取って貰う為の交渉を持ち掛ける所で、アイテムボックス持ちの僕が素材を持ち帰らずタダで振る舞うなんて異常な行為でしかない。
何か貸しを作りに来てると思うのが当然であり、ルナとラナの反応を見れば『深く関わるな』という意味に辿り着くだろう。
「皆さんは片道という契約でしたが、今後はエルディーニ聖国で活動されるという事でしょうか?」
商隊の護衛依頼を受けるハンターは、大きく分けて二種類いる。
●商隊を運営する商会と繋がりを持ち、専属契約を狙っている。
●自分達が拠点移動する際の小遣い稼ぎ。
「リーファンスが拠点って前提ですが、見識を広める為の一環として他国で少し研鑽したいって思ったんですよ」
僕達は『竜の咆哮』の一件でヴォルクがどのような反応を見せるか、それを安全な場所から眺める為にリーファンスから一時的に離れるって結論を出した。
安全マージンを選択したけど、逃げたんじゃないよ!!
エルディーニ聖国は国土の広さではマイアール帝国と比較する対象にすらならない程度の国だけど、この世界で最大の宗教『エルディーニ聖教』の総本山的な存在であり、その発言力はマイアール帝国に優るとも劣らないと評される国だ。
マイアール帝国と敵対する以上、同等の力を持つ存在に対する理解は必要だと判断しただけだ。
「そうですか…………、では今後もリーファンスで依頼を受けて頂ける可能性は残されているのですね。安心しました」
若くして大商会の番頭に抜擢されているだけあって、レンさんは焦って契約を持ち掛けて来るよりも、チャンスを伺いながら慎重に話を進める事を選択したみたいだね。
「世界に数箇所しか確認されてない『ダンジョン』にも興味が有りますし、期間は未定ですけどね」
そう、エルディーニ聖国にはダンジョンが存在する。
ダンジョンとは『魔素が濃縮されて出来上がった物』、『神が創り給うた試練の場』等、様々な説が存在する物であり、その成り立ちや存在意義については謎とされる地下世界である。
地下世界と評される理由は前世のラノベとほぼ同じ理由で、空間的な歪みにより『階層毎に環境の違う世界が拡がる』摩訶不思議な洞窟だからだ。
洞窟内なのに有り得ない広さは当然、空も太陽も昼夜さえも存在するなんて浪漫の塊じゃないか!!
階層が深くなれば魔物も上位種が出て来るってところも、前世のRPGを彷彿させる定番中の定番で、正に『異世界ヒャッハー』の為に存在すると言っても過言ではない。
まあ、正直な話をすれば、ルナとラナと共に鍛錬する上で周りに情報が漏れ辛い環境に期待出来そうってのもある。
僕の魔法はこの世界では規格外なので、あのままリーファンスで鍛錬を続けているとヴォルクの耳に話環境届いてしまう可能性が高かったんだよね。
マイアール帝国から更に離れた国、しかもダンジョン内なら色々試せそうって事でエルディーニ聖国を選んだのが最大の理由だけど、もう一つ大事な事がある。
エルディーニ聖教は教義として異人種間の差別を禁じているってのが大きい。
ルナとラナみたいに人間種以外の存在でも悪目立ちする事なく気ままに過ごせる環境に期待出来そうな事、それは魔族って括りに入れられて魔帝国で生活していた生き残りが存在するかもしれない場所……
そんな都合の良い話があるとは思えないけど、少しでも可能性がある以上、元皇太子としては無視出来ない場所でもあるんだ。
教義が上辺だけの綺麗事ではない事に期待したいな…………
とにかく、暫くはリーファンスを離れる僕達の勧誘を諦めたレンさんと他愛のない話を少しして、僕達は夜警の任に就いた。
「お疲れさん、交代の時間だ」
商隊の護衛には当然ながら野営時の警護も含まれる。
しかし、護衛するハンターも人間だから寝ずの番なんて不可能なので、このように交代制で時間を分けて担当する事になる。
若いルナとラナを気遣ってくれた『緋色の剣』は、夜警の中では比較的楽になる一番手を僕達に割り振ってくれている。
睡眠が一番中途半端になる深夜にはベテランの自分達を当て、新人ハンターである僕達に気を遣ってくれる辺り、本当に評判通りに良いハンターだと思う。
「ありがとうございます。特に何事も無かったのでスープを作っておきましたから、宜しかったらどうぞ」
「おお、いつもありがとな!」
夜番時には、晩飯の残り物を使ってスープを作るのが僕達の日課になっている。
それは、夜番時が平穏である証拠でもあるんだけど、気を遣ってくれる先輩ハンターに対する感謝の気持ちの現れでもある。
「今日は材料が材料だけにガッツリなので、食べ過ぎて眠くならないように気を付けて下さい(笑)」
「グリフォンの肉と野菜の端切れか、確かに豪勢だな(笑)」
このバーナードさんって人は本当に模範的なハンターだと思う。
他のハンター達はルナとラナの魔法について掘り下げた話をしようと話を振って来るが、それを咎めて自身は何も聴いてこない辺りにハンターとしての質の高さが覗える。
ハンター自身の生命線となる部分は不可侵って不文律はあるが、自分達が見た事の無い魔法を目の前で使われれば興味に負けても不思議ではない。
その秘訣を自身のものに出来れば、ハンターとして更に上位をも目指せるって事は限り無く魅力的な話なのだから。
僕達の勧誘を狙っているクラン【暁】が、僕達に同行するメンバーとして選んだだけの価値がバーナードさんにはあると思う。
僕以外の人間種に対して基本ツンなルナですら、一言も文句を言わずにスープを作っているくらいだ。
お読み頂きありがとうございますm(_ _)m




