第2章 エルディーニ聖国篇 2
「左手から敵襲!!」
僕達よりも前列で護衛の任に就いていた『緋色の剣』の弓術士、カーライルさんの叫びが緊迫した状況を告げる。
余程焦っているのか、その言葉では襲撃してきた存在が人間なのか魔物なのか判らないでしょ。
馬車の列の右側で護衛をしていた僕達からは、襲撃してきた存在が馬車の影に隠されて見えていない。
まあ、僕は索敵魔法でカーライルさんよりも速く魔物の襲撃について察知していたから問題は無いんだけどね。
そして、カーライルさんが焦るのも無理はない。
街道の左手にある森から飛び出して来たのは、Bランク相当の危険度とされているグリフォンだったんだから。
空からの襲撃はそれだけで危険度を跳ね上げる事は説明するまでも無いだろう。
第二次世界大戦初期に航空戦力がどれほどの脅威だったか、前世の世界では常識と言っても過言ではないんだから。
平地で相手をもする魔物なら二次元的な対応で事足りるが、自由に空を飛ぶ魔物の攻撃は三次元だ。
空を飛べない人間種にとって、空から襲撃してくる鳥型の魔物や竜種は勿論、ハーピーと呼ばれる魔族さえ脅威度MAXとなる。
飛行魔法くらい開発しろよ!
勿論、僕は飛べるよ?
人間種の世界に存在しない魔法だから、人目がある処では使えないけどね(笑)
推力としての風魔法と浮力を得る為の重力魔法、本当に魔法って不思議で便利だなぁ。
応用元になる魔法は存在するのに活用出来ない人間種が僕達の国を亡ぼす事が出来たのは転生者であるマイアール帝国初代皇帝の遺産のおかげであって、決っして人間種が優れている訳ではない。
そう考えると、この世界の人間って本当に思考停止してるよな。
まあ、魔法なんていう便利で不可思議なものが存在してたら科学的な思考にシフトする必要が無かったんだろうけど。
そして、存在するものを独自性を持った上でより便利に改編、改造していくって考えも日本人的発想だしこの世界の現状は当然の結果か。
「ルナ、ラナ、グリフォンが相手だけど最適解は?」
つまらない事を考えている状況でもないので、僕はルナとラナに今回の事態に対する対応を聞いてみる。
ハンターとして人間種の街に出て来る前は、人気の無い森の中で自活していた二人だから魔物の相手は馴れているだろうけど、現在は護衛依頼を受けたハンターとして対応する必要がある。
ただ単に魔物の相手をもするのでは無く、護衛対象がいる現状でどう動くべきと考えているかの確認だ。
「とにかく近付いて来れないようにしないといけないから、先ず風魔法で気流を乱して警戒させる?」
「その時に弓か魔法で牽制?」
そんな心配していた事がバカらしくなって来るくらい、護衛対象の事を考えた対応を考えるだけでなく実行に移している二人に感心してしまう。
「流石だね、『緋色の剣』がどう対応するのか確認してから魔法で牽制しようか」
焦って風魔法で気流を乱してしまうと『緋色の剣』の対応の邪魔をしてしまう可能性がある為、ルナとラナには少し対応を遅らせるように指示する。
僕だけなら【超電磁砲・改】の先制攻撃で簡単に討伐出来るんだけど、ルナとラナの成長促進、僕達以外のハンターの手腕の確認等の理由により、僕は低級魔法しか使わないと二人には伝えている。
以前、ヴォルク達と戦った時に【超電磁砲・改】の発動をする時間が無かった反省から、魔法構築速度の上昇は僕の課題の一つとして、現在も魔力操作の緻密化と共に修練を怠ってはいない。
おかげでグリフォン程度の飛行速度が相手なら、探知から接敵までの時間内に【超電磁砲・改】を構築する事など余裕になっている。
魔物の中でもアンデット種、それもゴースト系の魔物が魔法を使えるように、魂だけの状態だったあの十七年間も魔法の修練は可能だったから修練時間だけはそれなりだしね。
っていうか、それしか出来なかったんだけど……orz
下手に高威力の魔法を発動させて洞窟を崩してしまったら、僕の存在は永遠に魂状態で地中って事になってしまう以上、魔力操作の訓練くらいしか出来なかったんだよ。
「もう、また遠い目をしてるけどちゃんと周りを観てるの?」
「この状況でもいつも通りだね、カイトは」
遠い目?
それにラナ、そんな言い方されると僕がいつもボ~ッとしてるみたいじゃないかな?
「ちゃんと脳内だけは【身体強化】して【探索魔法】で探っているから周りの状況は把握してるよ。ボ~ッとしてる訳じゃないからね!」
「「ふ〜ん?」」
二人に対する威厳を保つ為に、思考加速して状況把握している事を伝えた僕に返って来たのは生暖かい目だった。
あれ?
元魔帝国皇太子の威厳はドコに行ったのかな!?
「まぁ、カイトだし今更だよね~」
「お姉ちゃん、ここは広い心で優しくするところじゃないかな?」
少なくとも商隊の人達の顔色が青くなる状況だってのに、呑気な会話をしている僕達が本当に呑気にしている訳ではない。
ルナとラナは思考加速だけではなく【身体強化】で直ぐに動ける体勢は整えた上で魔法を構築しているし、手に握られた弓には既に矢が番えられている。
グリフォンが上空から襲って来るのは当然だけど、野生の魔物ならバカで単純な個体が生き延びている筈もないので、いきなり襲って来るよりも馬車の影を含めた状況を把握して危険度を量る為に一度上空を通過して行くと予想している。
グリフォンは人間種から見て脅威度が高い事は確かだけど、この世界の食物連鎖では中位くらいの位置づけでしかない。
例えば竜種、進化個体を含めた上位種、自分よりも上の存在がいる事を知らない若い個体でない限り、先ずは状況把握してから相手の弱点を突いてくるのが野生ってもんだ。
ゴブリンやオークみたいな魔物と違い、上空から俯瞰的視点で状況把握出来る魔物は本能的にそれを選択出来るってのが厄介さを引き上げているんだよなぁ。
――――バサッ、ゴォォォォォォォォォォォッ
「上空を通過したぞ、次は右手だっ、警戒しろ!!」
『緋色の剣』の魔法使い(確かトラストさんだったかな?)が放った風魔法とカーライルさんの放った矢を回避したグリフォンが羽音を響かせながら馬車上空を通過して行く。
それをリーダーのバーナードさんが反対側で護衛している僕達に大声で報せてくれる。
うん、声色からして冷静さを保っているのは分かるし、他のハンターとも連携を取ろうとしている辺り、評判通りの良いハンターパーティーみたいだね。
戦力にならない商人や馬車の御者達はグリフォンから見て反対側になるように馬車の影を移動しているし、商隊もこのような事態には馴れた対処をみせている。
さて、戦力にならない人間を襲い辛い状態であのグリフォンが狙うのは僕達か?、それとも馬かな?
「馬を狙う可能性が一番高いから、牽制の風魔法でグリフォンの動きを誘導しようか」
考えるまでも無く、グリフォンは抵抗しようとしているハンターよりも脅えを隠せない馬を狙って来るだろう。
なら、馬を護る為に牽制した上で、僕達から何とかしないと食事にありつけないって思わせるのが最適解だろう。
魔力操作で隠蔽している僕の魔力を解放しない限り、『緋色の剣』よりも僕達の方が組みし易いとグリフォンは考える筈だ。
「グリフォン自身も風魔法を使うから、普通の矢は弾かれるのよね」
「なら、アレかな?」
ルナとラナもグリフォンと戦った経験があるのか、冷静さを保った状態で対処法を考えているみた…………
「今晩は焼き鳥パーティーだね、お姉ちゃん!!」
「照り焼きも捨て難いわね」
…………君達には、グリフォンが鶏肉に見えているのかな?
マイアール帝国の初代皇帝が遺した功績の一部に『醤油』、『味噌』といった食文化があるって事は知ってたけど、この状況で『焼き鳥パーティー』なんて言ってるから周りの目が痛いんだけど……
「そうだね(笑)、焼き鳥パーティーの為に頑張ろうか」
でも、この余裕を見せておくのは悪い事ではない。
ハンターって家業は『ナメられたら終わり』っていう、前世の某暴力組織並の不文律がある事だし。
「ラナは風魔法でグリフォンを誘導、ルナが矢で頭を貫いて!」
僕は何をするのかって?
そりゃあ、指示して見てるだけに決まってるじゃないか(笑)
ヒモみたい?
情け無い?
良いんだよ、二人の成長が僕の評判よりも優先なんだから!!
「うん!、【小竜巻】」
先ずラナが小規模な竜巻を風魔法で三つ形成し、旋回して来たグリフォンの進路を妨害して馬から僕達の方向へと誘導する。
「じゃ、イクわよ!!」
そこへルナが、待ってましたと言わんばかりに矢を放つ。
ルナが放った矢は、魔法剣の応用で付与された風魔法を螺旋状に纏わせている。
当然の結果として、
『グギャッ!?』
グリフォンが纏う風魔法の防壁をあっさりと穿いた矢がグリフォンの頭を正面から穿いた。
一瞬で生命を絶たれたグリフォンは馬車の上空を通り過ぎ、その勢いのまま森の木々を薙ぎ倒し落ちて行く。
「はっ、ハアアアアァァァァァァッ!?」
「えっ!?」
「なっ、何が!?」
上空を統べる存在が相手である以上、長期戦を想定していた『緋色の剣』のメンバーだけでなく、商隊の人達も唖然とした表情でグリフォンが薙ぎ倒した木々の方を茫然と見ている。
そんな事は意に介さず、
「さあ、さっさと解体して焼き鳥パーティーだね!」
「焼き鳥、照り焼き、ウフフフㇷㇷㇷㇷㇷㇷㇷ♪」
肉にしか興味の無いルナとラナは上機嫌な表情でいた。
前世のラノベでは草食系とされる事が多かったエルフだけど、この世界のエルフはガッツリ肉食系なんだよねぇ……
まあ、森の中で生活するのに肉食はダメなんて言ってたら、現実に待ってるのは餓死でしかないし当然なんだけど(笑)
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