第1章 復讐の欠片の終焉
肉体の無い十七年間、僕が考察する魔法は割合として『魂』に紐付けられる物が大きくなっていた。
実際に実験するにも僕の魂か洞窟内にいる虫、もしくは偶に洞窟を住処にしようとする獣くらいしか実験対象が無かったからだ。
おかげで現在では、生前には苦手の部類だった精神魔法もかなり充実している。
僕の前世は化学の研究者だったから、目に見えない精神なんて考察の範疇外だと思いこんでいたんだけど、実際にこの魔法を考察、改編してみると意外と使い勝手が良かったのは目から鱗だったよ(笑)
さて、何が言いたいのかと言うと、僕の目の前には廃人になった五人の遺体が白目を剥いて五体満足な状態で転がっている。
この機会に、僕自身が夢の中で実際の経過時間よりも長い時間を感じた事があるので試してみたかった実験を行った結果だ。
結論として、人間の脳の可能性に驚かされたんだけど、僅かな現実の経過時間に対し、かなりな長時間悪夢を見せ続ける事が出来た。
僕の【夢幻拘束】は世間一般で知られている精神魔法、対象を昏倒させるだけの魔法【催眠】を改編し、対象の夢に直接介入する事を可能にした物である。
普段は相手を昏倒させる為だけに使っているが、それは対象の夢に介入している間、僕自身も無防備な状態になってしまうからだ。
介入出来る対象は一体だけなので一人づつ地獄な夢を見て貰った型だけど、『精神を殺せば人間は死ぬ』って事も検証出来た。
現実世界では何もしていないにも拘わらず、五人全員の心臓は止まっている。
前世のTV番組で見た催眠術ってヤラセだと思ってたけど、全てがそうじゃ無かったって事なのかな?
まあ、灼けた鉄を押し当てられてるって思い込みだけで、割り箸を当てられた箇所が火傷するって検証もされてたみたいだし、人間の脳って不思議な事が多いよね。
流石に、夢の中で味あわせた拷問が身体的に現れてはいないみたいだけど、夢の中でトドメを刺すと同時に彼等の心臓は停止した。
夢の中とはいえ彼等にとっては現実だし、僕自身が感じる感触も現実と差異は無い。
そんな中で淡々と拷問出来た、それどころか高揚しながら拷問出来た事に多少の自己嫌悪感が残るのは、前世の常識から来る背徳感だろうか……
復讐を誓っていながら、実際に他人を殺して後悔に近いこういった気分になる事自体が嫌だ。
こんな事で動揺していたら、僕自身が復讐を完遂する前に壊れてしまう可能性があるって焦りもあるんだろうな。
大丈夫、人間は環境に適応する……
馴れるさ………………
竜の咆哮五人の遺体から装備を剥ぎ、前世の某世界最大の宗教の象徴を模した型で磔にした後で【異世界収納】に放り込んだ僕は、不安気な表情で待っててくれたルナとラナを連れてハンターギルドに顔を出している。
前世の宗教団体の象徴は『人間の原罪を背負った』とされているが、彼等には『ヴォルクの悪徳』を背負って貰おうとの考えだ。
ついでに言えば、ヴォルクと対峙した時にどう演出するか考えた結論として、首や肉片だけを出すよりも磔が多数並んでいる方が見映えするだろうと考えたからかな(笑)
磔にされた当人達は、現実と変わりない苦痛の末に絶望しながら死んでる事に変わりないし……
まあ、それはそれとして、
「ハイオーガだとぉっ、何処にいた!?」
オーガの討伐競争の為に探索していた処、偶然ハイオーガと遭遇して討伐する事になったとギルド長に報告すると、当然ながら警戒心を露わにした表情で絶叫された。
魔物の中には長い年月を生きた個体の中に、進化する個体が現われる事がある。
進化の条件は全て解明されている訳では無いが、その脅威度が跳ね上がるって事だけは当然周知されている。
今回のハイオーガについては肉体的な強度、つまり単純な身体能力だけでなく表皮の硬度が上がり、魔法、物理両面に対し防御力が跳ね上がるって事、通常種のオーガを率いるって事が確認されている。
群れたオーガですら連携をとって来るので危険視されているが、それを更に効率的に率いる上位種がいる事がどれだけ危険かは説明するまでも無いだろう。
つまり、ギルド長が思わず絶叫したのは当然の反応って事だ。
ハイオーガ単体を相手にする事すら並のハンターでは不可能であり、ギルド長のようなAランクハンターがいないパーティーは簡単に全滅させられる程度の脅威度がある事態が報告されたのだから。
そう考えると、マギクスを始めとした魔人種の異常性がよく分かる。
マギクスなんて僕の教えた【身体強化】を試すと言って、素手でハイオーガを圧倒してたからね┐(´д`)┌
ハイオーガ討伐前にその話をルナとラナの二人にした処、凄いジト目で僕の事を見ていた。
ハイオーガ討伐くらいで気負う必要は無いって意味で話したんだけど、それがどれだけ異常かを滾々と語られる事になったんだ(笑)
自分達がオークを素手で撲殺してるのは常識内なのかな?
「おい、聞いてんのか!?」
僕が少し遠い目で現実逃避をしていると、ギルド長がムキになって現実に引き戻して来る。
「ああ、聞いてますよ。討伐したのは森の奥の方だったので正確な位置は説明し辛いですが、ハイオーガ一体とオーガ七体の群れでした。討伐はしましたが、報告だけはした方が良いかなと思って戻って来たんですよ」
「当然だ! それよりもハイオーガは持ち帰ってるんだろうな? 解体場に行くぞ、早く確認させろ!」
本当にハイオーガだったのか、事実確認をした上でギルドの対応を決める必要があるんだろう。
近郊の森で脅威度の高い魔物が確認されたとなると、ギルドとしては警告を発して周知させないといけないし。
まあ、森の最深部で討伐したのは本当だし、事前に危機を排除した僕達は感謝される事はあっても批難される訳無いんだけどね。
「ハイオーガで間違い無いな…………」
元Aランクハンターだけあって、ギルド長はアイテムボックスから出したハイオーガを一目見るなり断言した。
「そうですね。一周り大きな体躯、硬質な皮膚、角の大きさ。以前に解体した個体と特徴が一致します」
「ほえ〜、これがハイオーガか」
「確かに、普通のオーガとは違うな」
周囲に集まっていた解体場の職員達もそれぞれに感想を口にする。
場長一人を除いて初見っぽい発言をしている事からも、ハイオーガの討伐自体が珍しい事が分かる。
「流石のカイトでも、オークと違って撲殺した訳じゃなさそうだな。これは魔法の跡か?……他のオーガは弓と魔法か」
「撲殺って、僕は魔法使い、彼女達も後衛職ですよ?」
ハイオーガの心臓を穿いた傷口が焼けているのを確認しながら、ギルド長が独り言ちる。
高ランクハンターだっただけあって、ギルド長は討伐方法も確認しているが、ギルド長としては当然の事だろう。
たまたま、他の高ランクハンターが倒した魔物を奪ったとか、他の魔物にヤラれた魔物を拾って来たなんて事も考慮されるだろうし。
「最近、お前等が持って帰ってた魔物素材を見てて、それ以外の感想が出て来る職員はいねえよ!」
「イイガカリジャナイデスカネ……」
見に覚えが有り過ぎて、思わず眼を逸してしまう。
でも、撲殺してたのはルナとラナだからな!!
二人のイメージの為に言わないけど…………
「まあいい、アイシャ、直ぐにハンターギルドとして警告を出せ! 俺は領主様の処に報告に行く!」
解体場に来る時のギルド長の表情から何事かを察したアイシャさんが解体場に顔を出すと同時に、珍しくマジ顔のゴリラが指示をした。
その前に、アイシャさんに状況説明をした方が良いんじゃない?
「分かりました。では、ギルド長いってらっしゃい」
僕の心配は空振りだったようで、ハイオーガを一目見ただけで状況把握をしたらしいアイシャさんが迷う事無くギルド長に返事をした。
そして、ここまで空気になっていたレニーさんに指示を飛ばす。
「何をボ~ッとしてるのレニー、先ずはハンター達に警告よ!」
「えっ、えっ!?」
リーファンス近郊に高ランクの魔物は少ない、っていうかほぼいない。
それだけに、こういった事態に馴れていないレニーさんは混乱しているんだろう、何をすれば良いのか分からないみたいだ。
「先ず、ロビーにいるハンター達に口頭で警告、その後で依頼書の掲示板に警告文を掲示、急いで!」
「はっ、ハイ!!」
具体的な指示を受けたレニーさんが慌ててギルド内に戻って行く。
ハンターギルドが個々のハンターに警告出来る筈も無いが、ハンター達は情報を重視する為、一部ではあってもハンターに重要な情報を伝えれば勝手に拡散してくれる。
前世のSNSみたいにはいかないが、この世界では口頭での情報伝達が一番手っ取り早い。
期待通り、優秀な職員であるアイシャさんが危険情報を拡散してくれたので、竜の咆哮が行方不明になった事が明るみになっても、僕達に疑惑の眼が向けられる事は無いだろう。
危険な魔物の情報を報告、更には討伐までした僕達が彼等を襲う必然性は無いからだ。
そんな事をするよりも、彼等がハイオーガに襲われるのを待ってれば良いだけなのだから(笑)
「それで、カイト君。竜の咆哮が何処にいるかは分からないわよね? 彼等じゃハイオーガなんて相手にしたら全滅よ」
「申し訳ないんですが、僕達もわざわざ揉め事の元凶に近付きたくは無かったから、彼等については何も分かりません」
「そう……よね。貴方達よりも先にハイオーガに出会って無ければ良いんだけど」
本当に優秀だなアイシャさん(笑)
優秀だからこそ、奴等がハイオーガを相手にすれば全滅するって事を分かってくれているし、これで僕達に向く疑惑の目は解消されるってもんだ。
ハンターになる人間は、各国の騎士団に入団出来るほどの実力が無い人間が殆どであり、それは人間性のレベルにも直結している部分がある。
つまり、ハンター同士での揉め事などは珍しくも無く、そういった諍いから殺人に発展する事も一定の割合であるって事だ。
しかし、いくら実力が有ってもそのようなトラブルメーカーが歓迎される訳は無く、そういった疑惑を持たれるだけでハンターとして存在活動における支障は小さくはない。
そんな存在に近付く事で、自分達までトラブルメーカー扱いされる可能性がある以上、疎まれようが阻害する方が良いに決まっているからだ。
って事で、今回、ギルドの有力者であるアイシャさんから疑惑の目を向けられなかったのは、事前準備の賜物とはいえありがたい事なのだ。
それとは別の問題として、音信不通になった部下の行方を探る為に、ヴォルクのクソヤローが更に人員を派遣して来る可能性もある。
このまま、このリーファンスに派遣されるヴォルクの部下を狩り続けて奴の戦力を削いでいくか、情報漏洩の危険を少しでも避ける為にリーファンスから離れるか、ルナとラナの意見も聞きながら決めないといけないな。
第1章 終
お読み頂きありがとうございますm(_ _)m
第1章が終了いたしました。
間幕を挟んで第2章を予定していますが、ストックが心許無い状況ですので、少し期間を頂きますm(_ _)m




