第1章 強者の驕り
――――――竜の咆哮グスタフ視点
『将来有望な若手の発掘及び勧誘』
マイアール帝国最強を自負する部隊ではあるが、帝国軍という組織内における立場は最強と呼ぶには程遠い。
『五英雄』筆頭のヴォルク隊長は、平民から騎士爵を受けた成り上がりとして軍上層部から不当に扱われているのが現実だ。
その武勇伝に対し、『平民向けのプロパガンダ』なんて陰口を叩く騎士も少なくはない。
そんな扱いの中、上から与えられる人員に期待出来る筈も無く、部隊の戦力を維持する為に下された任務を熟す為に選んだ方法がハンターの勧誘たった。
他国ならマイアール帝国軍部の腐敗を知る術がある筈も無く、魔族を根絶やしにした人間種の『英雄が率いる部隊』に入隊という魅力的な言葉で勧誘し易い上に、実力至上主義のハンターなら部隊が求める能力に適した人材を発掘し易いだろうと考え、隣国の地方都市リーファンスでハンター活動をしていた。
帝国軍一厳しい訓練から解放された俺達だが、それで鈍ってしまうような温い日々を送って来た訳ではない。
それは順調に上がっているハンターランクが証明している。
俺達の年齢でCランクは星の数ほどいるハンターの中でも稀であり、帝国独立騎士団の実力をも証明しているって事だ。
しかし、最近俺達よりも話題に上る事が多い新人パーティーがこのリーファンスハンターギルドに現れた。
元Aランクハンターであるギルド長のお気に入りだとか、見た目に騙されそうになるが中身は化け物なガキだとか、不穏当な噂から妬みとしか思えない噂まで暇がない。
どうにも要領を得ない噂ばかりだが、見込みがありそうなガキなら『俺達の独立騎士団に勧誘してやってもいいかな』と思いギルドで張っていたが、中々姿を現さねえ。
「なぁ、本当にそんな新人がいるのか?」
「『審判』なんて名乗ってるくらいだ。それなりに自信はあるんだろうが、俺達から見て使い物になれば良いんだけどな」
「まあ、訓練次第で使い物にはなるだろうから、俺達レベルなんて期待はしないでやった方が優しいってもんだ(笑)」
「おっ、訓練中に一番泣き言を言ってた奴が偉そうに(笑)」
俺が引き連れているのはマイアール帝国独立騎士団の予備兵になったばかりの新人達だが、帝国最強部隊の予備兵は他の騎士団なら中堅くらいの実力と言われている。
俺達の部隊は他の騎士団と違って『身分による忖度』なんて存在しないから、実力が無いのに名声欲しさに入隊した者は当然のように淘汰され、本当に厳しい訓練に耐えられる人材のみが残っている。
だから、コイツ等もプライドは高いが、それなりの実力も併せ持っているのは間違い無い…………予備兵レベルではあるが。
「お前等と同レベルなら即決だが、所詮は弱小国家の地方都市のハンターだ。ちゃんと見極めてやらねえとな」
世界最強の騎士団に勧誘してやるつもりなのに、俺達をこれだけ待たせるガキに苛立ちを覚えていると、ギルドの玄関口からエルフを引き連れたガキが入って来た。
『おい、エルフを連れてるって事はアイツか?』
『まだガキじゃねえか。それなりに鍛えてはいるように見えるが』
『色ボケたガキか…………』
『イビリ……鍛え甲斐があるな(笑)』
見た目だけで判断すれば、コイツ等の言ってる通りだろう。
帝国高等騎士学園の生徒と変わりない年齢のガキが、眉目秀麗なエルフの少女を侍らせている事に違和感を感じるが……
噂は所詮噂か?
俺達が毛嫌いするタイプ、何処かの貴族のガキがハンターごっこをしているのをギルドが『御接待』しているだけかもしれねえな。
『まあいい。いつも通りにギルド長が『御接待』するだろうから、俺達が話し掛けんのはその後だ』
『リーダー、何処までヤッていいんですか?』
『予定通り訓練場に連れて行くとして、あのエルフはどうします?』
『エルフとは一回ヤッてみたかったんだよな(笑)』
『コレも役得ってヤツか?(笑)』
目的のガキが姿を見せたので俺は部下達に指示を出すが、どうにも緊張感の無い答えが返って来る。
『貴族の持ち物に手を出したって事になると面倒くさいからな。ヤツが貴族って身分を隠している間だけの試験だ、あのガキを試す以外の行動は許さん』
お前等が予備兵止まりなのはその辺だよ!
任務中に欲望を隠せないバカを正規の団員にする訳ねえだろうが!
不満そうな表情を隠さず了承の返事をする四人に内心でため息を吐きながら、ギルド長室に入って行くガキを観察する。
剣士っぽい装備と肉体、佇まいは年齢相応のガキって感じか……
ただ、聞いた話じゃ【魔法使い】を名乗ってるって事だったが、装備を見る限りはそう見えねえ。
あのギルド長が気に入ってる理由がイマイチ分かんねえな。
やっぱり、貴族のガキに対する接待って線が濃厚か?
まぁ、ソレならソレで構わねぇけどな(笑)
マイアール帝国ではない他国であろうと『お貴族様』に一泡吹かせるって事は痛快な事に変わりはねえ(笑)
「お前等か、最近ギルド長に目を掛けられてるからって調子に乗ってる新人パーティーってのは」
やっとロビーに出て来たガキに声を掛けるが、
「『調子に乗ってる』って言うのは意味分かりませんけど、僕達に何か用ですか?」
返って来た返事は生意気さを隠さないものだった。
「何を余裕かましてんだよ! エルフを引き連れてるから自分も特別な存在だとでも勘違いしてんのか!?」
「あぁ、つまり……貴方達が男だけでパーティーを組んでるのに、新人の僕が『眉目秀麗』なエルフを仲間にしてるのが気に食わないって事で間違い無いですか?」
このガキを挑発して訓練場に連れ込む予定だったが、逆に俺達を挑発さえして来る始末だ。
更に…………、
「そうね、パーティーとしてCランクになったばかりの貴方達が調子に乗らないように『釘を刺さないといけない』って思ってたのよ。丁度良かったわ。カイト君に現実を教えて貰って来なさい」
リーファンスハンターギルドの女帝、アイシャさんまでが俺達を挑発して来やがる。
とはいえ、予定通りに訓練場に連れ込む事には成功したが、ここでギルド長がトドメを刺して来やがった。
「アホか! それで竜の咆哮が潰されて良い訳がないだろうが!!」
「『潰される』って、カイト君が一人で相手するみたいだし、それなりの勝負になるんじゃないの?」
「だからヤバいって言ってんだ! アイシャ、お前は優秀だが、それはハンターじゃなくギルド職員としてだ。ハンターに最も必要なのは『危機察知能力』なんだよ。カイトを前にして危機察知も出来ないヒヨッコ共がまともに相手出来る訳無いだろうが!!」
これまでの行為を黙認して来たアイシャさんに対し、俺達が危険だとヒヨッコ扱いして来るギルド長。
これには流石の俺もキレてしまった。
「貴様等! 黙って大人しくしていればつけあがりやがって!!」
「俺達はマイアール帝国最強の部隊、あの英雄ヴォルク隊長が率いる独立部隊の出身だぞ!!」
「帝国最強って事は、この世界で最強だ。その俺達に貴様等は舐めた口をきいてんじゃねえ!!」
俺だけじゃなく、部下達もプライドを刺激されて叫んでしまった。
まぁ、俺達が帝国独立騎士団って事がバレた処で大した問題ではないが、この任務は誰かに引継ぐ事にはなるだろう。
ハンターギルドの規約として問題無いってだけで、ハンターの勧誘を目的としたパーティーが歓迎される訳は無いからな。
とはいえ、帝国独立騎士団の名を名乗った以上、期待の若手だろうが地方の新人ハンターパーティーに虚仮にされたままじゃ終わる訳にはいかなくなった。
最低でも部隊に連れ帰る、それが無理なら『不幸な事故』で消えて貰う必要がある。
例え、他国の貴族の子息だろうが、世界最強の騎士団『マイアール帝国騎士団独立部隊』に喧嘩を売った責任は取ってもらわねえとな。
好都合な事に、コイツ等は郊外の討伐依頼で優劣を着けるように提案して来やがった。
「僕等は余裕ですね。一定期間内でオーガの討伐数でも競いますか?」
「上等だ! なら、明日から一週間で、オーガの討伐数が多い方が勝ちだ。オーガに遭遇した数が運なんて言うなよ? 特定の魔物を探索するのもハンターなら当然の実力だからな」
討伐依頼中にオーガに殺されたって事に出来る環境を、自ら容認して来た辺りにボンボンの甘さが透けて見える。
これで、脅して入隊させるにしろ、始末してしまうにしろ、俺達が糾弾されない環境が出来上がった事に気付いてもいねえ。
ヴォルク隊長がいつも言っている『最後に立ってる奴が勝者だ、正々堂々なんて言っても勝てなきゃ言い訳でしかねえ』って方針を教育してやるよ。
卑怯なんて負けた奴の言い訳にしかならない。
勝って権利を主張出来ないなら戦うな。
戦う以上、仲間を護る為に泥でも平気で啜れ。
貴族連中には、ヴォルク隊長の方針について眉をひそめる輩もいるが、現実を生きている俺達には真理でしかない。
権利を保証されて生きてるお貴族様と違って、俺達は生きて行く為に勝つ必要があるんだ。
生温い感傷で飯が食って行けるかってんだ!
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