第1章 撲殺妖精
元A級ハンターであるギルド長を【鑑定】した結果、僕のステータスは魔力以外『ザコ相当』って事が判明した。
まあ、【身体強化】で強化される割合が、僕は魔力によるゴリ押しで比較対象にならないんだけど、それでも素となるステータスが低いって事に変わりはない。
この世界で普通に使われている【身体強化】は、魔力によるコーティングで肉体の強度を上げる事により、普段『無意識領域で抑えられている』肉体本来の能力を解放するって効果を出している。
つまり、普段三割しか使えていない能力を、最大で十割まで引き出せる『火事場の馬鹿力』を引き出す為の魔法だ。
この魔法は、魔力を自身の体内で循環させる方式である為、外界の魔法阻害の影響を受けないというメリットを持つ。
つまり、僕の【術式破壊】では無効化出来ないって意味でもある。
なら、対応策をって話になると、相手以上のステータスを引き出す以外の方法が存在しない以上、自身の基礎ステータスを上げるか、強化割合を上げるの二択となる訳だ。
で、アルベルト時代に【身体強化】を改編した結果、僕の【身体強化】は自身の十割以上の能力を引き出す事に成功している。
魔力によるコーティングだけでなく、魔力に電磁波を纏わせる事により、筋力そのものを数倍に引き上げた結果だ。
更に、脳内にも電磁波による刺激を与える事により、現世のスポーツ選手が持つ『ゾーン』と呼ばれる思考加速を常時発動させて、肉体制御の面でも万全な状態を維持出来ている。
この効果により、ハンター登録の時に、ステータス上ではかなり格上のゴリラも圧倒出来たってのが真相だ。
肉体能力の差をある程度埋める事が出来れば、思考速度の差で相手を圧倒する事はそんなに難しい事ではないからね。
これはある意味『魔法を重視』してきた事の弊害とも言える。
魔法で肉体能力の差を簡単に埋める事が出来たって現実が、僕の肉体能力の成長を留めてしまったとも言えるからだ。
勿論、この肉体はロード君の物だったから、僕自身が鍛錬を怠っていた訳ではないが、前世でマギクスに鍛えられていた『剣術』、『槍術』については、『もっと伸ばせていた』と思う部分がある。
【身体強化】による強化割合の素になる基礎ステータス、『剣術』等のスキルが低ければ、強化したところで伸びしろが限定されてしまう以上、魔法を有用に使える肉体的ステータスをバカにする事は出来ない。
「って事で、魔物をガンガン狩って行きます!!」
「『って事』って何!?」
「お姉ちゃん、カイトが言ってる事がわかんないよ!!」
数日の座学を終え、再び野外で実践訓練に出て来た森の入口で宣言する僕の言葉に、ルナとラナは動揺を隠せずにいる。
この二人は、僕の『優しい訓練』をスパルタ呼ばわりしているからなぁ。
マギクスの脳筋ぶりと比べたら、かなり、かなり(重要なので二回)優しい筈なんだけどねぇ……
「ただ魔物を討伐しても効率が悪いので、それぞれの行動に制限を掛けながら討伐して行くよ。例えば、僕は魔法を使わないって感じで。勿論、生命の危険がある場合は、制限なんて無視する事!」
「「えっええぇぇぇぇっ!!」」
「先ず、ルナは【身体強化】だけ、ラナは【身体強化】無しの攻撃魔法だけって縛りで行こうか」
「それってどんな意味があるの!?」
「『縛り』って、カイトってドS!?」
ルナの質問に関しては分かるんだけど……
ラナ、未成年者が口にする言葉じゃないぞ、それは!!
前世からの人生を含めて『三十○を越えた童○』だから、由緒正しい魔法使いになった僕に対して言う言葉じゃない!!
あれ? 何故か涙が……orz
「とっとにかく、二人もギルド長のステータスを【鑑定】しただろ? 僕達の基礎ステータスがどれだけザコなのかも理解出来た筈だ。それを鍛えて行く為の方針だからね」
「鍛えるなら、制限無しでガンガン行った方が効率良いんじゃない?」
僕の説明にルナが疑問を呈し、ラナは隣で頷いているが、
「【鑑定】で肉体的なステータスを見る事は出来るけど、『経験』から来る強さって部分は見えないからね」
僕はルナとラナが勘違いしている部分について説明する。
身体能力が同等でも、残す実績については大きな差があるスポーツ選手なんて前世では腐る程いた。
それが、身体能力なんて最低条件でしかなく、それを活かす経験と思考こそが結果を左右するって事を証明している。
『運』って言う人もいるけど、僕は努力の方向性を選ぶ努力を怠った、もしくは間違った結果が大半だと思っているからね(笑)
まだ、ルナとラナには前世の記憶について説明出来ていないけど、アルベルトって皇太子が受けた特別な教育と思ってるんだろうな。
いづれ、二人には話す事になるのかな?
アルベルト時代から、この事については口外した事は無いけど、マイアール帝国なんて大国を相手に少人数で挑む以上、困難な道を歩みながら隠し切る事は不可能だろう。
『気持ち悪い』とか『頭おかしい』って思われないと良いなぁ……
「また、カイトが別世界に行ってるけど、言ってる意味は分かったわ」
「色んな状況に対応出来る対応力をって事だよね?」
『別世界に行ってる』とか『また』とか、気になるワードがあったけど、二人が僕の意図を理解してくれたのは分かった。
「僕が教えた【身体強化】を使い熟せるようになれば、二人の『魔力制御』も劇的に上がる筈だ。とにかく、みんなで強くなるぞ」
「「おお!!」」
『みんなで強くなる』って言葉に反応した二人が、右手を挙げて気合いの入った声を出す。
やる気になってくれて何よりだね(笑)
『やる気』って思ってたけど『殺る気』だったの?
縛りプレイと思えない程、順調に魔物を討伐していくルナとラナを見ながら、前世のエルフのイメージが崩壊していく……
「今度は私が【身体強化】で前衛だよ、お姉ちゃん♡」
「ええっ、もう一回……ダメ?」
「ダメ! お姉ちゃんだけじゃなく私も強くなるんだから!!」
出逢った時には弓を使ってた『後衛タイプ』の二人が、肉体言語で魔物と楽しそうに語り合ってる現状に違和感しか無いんだけど……
オークを殴り倒したルナに、次は自分だと楽しそうに話し掛けてるラナを見ながら、僕は遠い目をしている。
『感覚派』の二人が実戦でコツを掴んでくれる事に期待はしていたけど、想定以上過ぎてドン引きだよ。
「二人共、僕の鍛錬も兼ねてるんだけど……」
「ダメ! 私達が現在のカイトに追い付くのが先なんだから!!」
「足手まといになんてならないんだから!!」
二人の気持ちは嬉しいんだけど、
「いや、何で二人共『素手』で戦ってるのさ!?」
「えっ? 【身体強化】の特訓だし?」
「だよね!!」
この勘違いは何処から来たんでしょうか?
いや、効率良くコツを掴んでいるんだから勘違いじゃないのか?
いやいやいや、このままではエルフのイメージが崩壊してしまう。
可憐な見た目の少女二人が、肉体言語の遣い手なんて勘弁してよ!
華奢な身体の二人が魔物を撲殺しながら、良い笑顔をしている光景ってヤバ過ぎるんだよ!!
「だって、何時でも武器のある万全な状況って訳じゃないでしょ。カイトが心配しなくて済むようになるのが最優先なんだから」
「私達はカイトに護られる存在になりたい訳じゃないんだから」
……嬉しい事を言ってくれてるんだけど。
保護者として、二人の将来が心配なんだよ!!
将来、結婚した相手と肉体言語で愛を語るつもりなのか!?
厳密には違うけど、お父さんは君達の将来が心配だよ……
「でっ、この数の素材売却か。……………………それは良いんだが、何でどれも撲殺されてんだ? そりゃあ、素材としては傷が少なくてありがたいけどな」
「こんな異常な人達を相手にしてるんですよ! 私が悪いって言われてるのは正当な評価じゃないって分かってくれましたか!?」
依頼達成報告に来たハンターギルドの解体場で、呆れた顔を隠さず疑問を口にするゴリラと、それに食って掛かるレニーさん。
言われてた通りに、レニーさんを通してギルド長に報告、その後、素材の量を勘案して解体場に直行した結果、この状況である。
普通のハンターなら、オークをそのまま運ぶ事なんて不可能なので、その場で解体、金になり運び易い素材を部位毎に取り分けてギルドに持ち込むが、僕はアイテムボックスを使える為、オークだろうが竜種だろうが丸ごと持ち込める為に、素材を無駄にするなんて事はない。
大きさの例えであって、本当に竜種を持ち込んだ事なんてないんだけどね(笑)
「レニー、オークはただ人間を襲うってだけじゃねえ。一応、女であるお前には分かってるだろう」
「一応ってなんですか!?」
二人の漫才はさて置き、オークは人間種の女性を苗床として扱うという、忌避されている習性を持つ。
勿論、普段はオーク同士で繁殖するが、人間種を苗床とした場合、より強力な個体が産まれ易い為、本能的に襲って来る。
その為、オークは見つければ即討伐、自分達での討伐が不可能なら即ギルドに報告という決まりがある魔物だ。
今回は、人間よりも上位種とされるエルフの少女二人がいた事で、本能的に刺激されたオークが逃げる事無く、群れの全てを殲滅する事が出来たって寸法だ。
「奴等の巣穴は見つけられたか?」
「はい、幸い犠牲者はいませんでした」
オークの討伐は討伐だけで終わりではない。
前述の通り、犠牲者がいる可能性がある為、可能な限りの巣穴の捜索が義務付けられている。
義務付けられているとは言っても、あくまで『可能な限り』であって、ハンターの生命が最優先である。
その為、普段からギルドからの依頼という型で巣穴の捜索が常時依頼として出されているので、今回の僕達の報告が重視されている訳だ。
「一応って、美人で可憐な私に対してみんな失礼ですよぉっ!?」
重視されてるよね?
それに、レニーさん……
美貌で有名なエルフ種の、ルナとラナを前にしての勇気ある発言、ある意味で尊敬しちゃうよ(笑)
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