第1章 ステータスの差
「久しぶりに顔を出してくれたと思ったら、何ですかコレはあぁぁっ!!」
『何ですか?』って言われても、ハンターギルドの常時依頼に対する報告をしてるだけなんだけど?
「常時依頼だから、不意に遭遇した結果の討伐は問題無いんじゃなかった? レニーさん?」
「魔物の討伐、盗賊団の討伐……、確かに『常時依頼』ではありますけど、ありますけどっ、新人三人のパーティーが数日間で達成するレベルじゃないでしょぉぉぉぉっ!!」
【鑑定】の検証が終わり、数日ぶりにリーファンスの街に帰還した僕達は、先ずハンターギルドに顔を出し、討伐した魔物や盗賊(実験の為、一部は生きてます)の報告と買い取りをお願いしたんだけど、情緒不安定なレニーさんが受け付けで叫び始めてしまった。
「コレ凄いね!!」
「おお〜!!」
そんな空気を気にする事無く、ルナとラナは僕の後ろで三日ほど試行錯誤を繰り返し使えるようになった【鑑定】を周囲のハンター達に掛けながら感激の声をあげている。
二人共、もう少し周囲の状況を気にした方が良いんじゃないかな?
「レニー♡、貴方は何度教えたら、受け付けで変な声をあげる事が無くなるのかしらねぇ♡」
「せっ、先輩!? コレは…………ウエエェェン!!」
額の青筋を隠す事無く、しかし、笑顔で猫なで声で話し掛けながらアイシャさんが、ゴゴゴゴッって擬音を背負った雰囲気を纏ってレニーさんと僕達に近付いて来る。
はい、強制連行ですよね…………
「お前等、頼むから常識ってもんを覚えてくれ」
何故、僕達はゴリラから常識ってものを説かれてるんだよ?
「常識的だから、近隣に害のある魔物を討伐したり、盗賊団を討伐してるんだけど……何かおかしいですか?」
「…………」
僕の問い掛けに対し、ソファーの向かい側で無言で眉間を揉むゴリラと、その後ろに立ち苦笑いをしてるアイシャさんを見てると、何か釈然としない感情になるなぁ。
「アイテムボックスがあるとはいえ、種類、数が常識外れな素材の持ち込み、その上に盗賊団なんて常識の範囲外だろうがっ!!」
『ルナとラナが魔法の扱いに馴れる前に駄目にした素材は省いてるんだけど』って本音は言わない方が良いかな?
「こんな常識外れな状況ですから、私は悪く無いと思います」
僕達が座っているソファーの後ろに立つレニーさんが、小声で『悪いのは自分じゃなく、コイツ等です』って言いたげに抗議しているけど、それは逆効果じゃないかな?
「レニー、貴方が言いたい事は分かるわ。でも、これだけの戦力をギルドが手放す事が無いように『専属担当』を付けてるの。貴方が受け付けで騒いで変に目立ったせいで、この三人に対する情報漏洩、危機管理に問題を起こす訳にはいかないのよ」
「うっ、そっ、それは…………」
うん、レニーさんには申し訳無いが、アイシャさんの仰る通り、ギルドの職員にはハンターの個人情報に対する守秘義務があるんだから仕方無い。
「でも、審判に対する扱いは考えた方が良いかもしれませんね?」
レニーさんに指導しながらも、ゴリ……ギルド長に向かい、僕達の扱いに対する考慮の必要性をアイシャさんが提言する。
「う〜ん、持ち込み素材の量には関しては、レニーに馴れて貰うしかないが、報告内容については個室で対応した方が良さそうだな」
「個室と言っても、応接室から奇声が響いて来るだけになりそうですので、此処で対応をお願いしますね」
「はあ!? 俺が対応するのか!?」
「レニーの指導を含めて、ヨ・ロ・シ・クお願いしますね、ギルド長♡」
前世でもよくある話だったけど、トップが欠点だらけだと、サブリーダーの方が実権を握ってしまうんだよなぁ。
そして、その方が上手く組織を回して行けるから、トップも権限を振り回さなくなってしまう(笑)
それが理解出来る事、更に変なプライドに拘らないあたり、リチャードってギルド長は有能なのかもしれない。
ゴリラの分際で生意気な…………
『【鑑定】』
●リチャード=バーンズ
●人間 Lv 121
●HP 735
MP 281
戦闘力 586
体力 641
素早さ 328
防御 612
●大剣術Lv8・盾術Lv7・武術Lv8・魔法Lv7・指揮Lv5
おお!?
ゴリラってバカにしてたけど、リチャードさんってかなり優秀なステータス持ってるな!!
僕達のステータスとは雲泥の差だ……
何気に『指揮Lv5』ってのがあるから、アイシャさんがレニーさんの指導を含めて話を振ったのか。
引退したばかりのハンターをギルド長に据えたのは、この能力を踏まえての判断だったんだな。
僕がヴォルク達を相手に負けた理由も、こうやって数値化されたステータスを見れば納得だ。
魔法の特殊性でゴリ押ししただけじゃ覆せない差があったんだな。
このステータスを持つリチャードさんよりも強かったマギクスと同等の身体能力、更に魔法耐性を持った装備を身に纏ったヴォルク達が相手だったんだ……
チートがどうのって自惚れが消し飛ぶ現実を理解出来ただけでも、【鑑定】を創造したのは良い判断だったと思う。
「何を呆けた表情で、こっちを見てんだ?」
「えっ、ギルド長って『ただの脳筋』じゃなかったんだって驚いてました」
「!!っ、どういう意味だ! このガキ!!」
しまった!
咄嗟に漏れた本音にゴリラが激昂してしまった!
「いや、ハンターあがりって聞いてたけど、『指揮能力』、『指導能力』共に優秀なんだって驚かされたんです。よく考えれば、『超優秀』だったから引退後に即ギルド長に抜擢されている訳ですから、至極当然の事に気付いていなかった自分の底の浅さに茫然としていました(笑)」
「おっ、おう。……分かってるじゃねえか」
チョロいな、このゴリラ(笑)
後、ゴリラの後ろでため息を吐いているアイシャさん、気付かれると面倒くさいからヤメて下さいね。
『人間風情が、『アルベルト様』に不敬な事を……』
『お姉ちゃん、『カイト』だよ!』
小声で怒っているルナと、それを宥めているラナも、静かにしようね。
「まぁ、そう云う事でだ! お前等の依頼報告はレニーを連れて此処に来てからって事にする。俺がいない時はアイシャが代行するから『必ず』此処に来いよ」
「分かりま――」
「うえぇぇっ」
おい、レニーさん!
僕の返事に被せるように、レニーさんが変な声をあげた。
この後の展開は容易に想像出来るから、巻き込まれないように、サッサと帰らせて貰おう。
「では、これで失礼しますね」
そう言って席を立つ僕達に着いて来ようとするレニーさんに、アイシャさんが笑顔で声を掛ける。
「レニー、貴方は残りなさい。少しお話があります」
「ヒッ!? せっ先輩、笑顔が怖いですよ!?」
自業自得だろ。
閉めたドアの向こうから聞こえるレニーさんの悲鳴を無視しながら、僕達は森の兎亭に帰る事にした。
久々にベッドで寝る事が出来るな。
「見捨てるなんて酷いですよ、カイトさん……」
森の兎亭の食堂で晩御飯を食べてる僕達に、恨みがましい目を向けながら、レニーさんが愚痴を言う。
「いや、ただの自業自得でしょ。それに、今のレニーさんは食堂の給仕なんですから、そんな顔をしてたらダメじゃないですか?」
「そもそもの原因はカイトさん達じゃないですか! なのに、私だけが怒られるって納得出来ません!!」
……何を言ってるんだ、このポンコツは?
「怒られてたのは『返事じゃなく、変な声をあげた』って事じゃないんですか? それは僕達には関係無い話ですよね」
「うぐっ」
「それに、そんな事を言ってたら、此処でも怒られますよ?」
レニーさんのポンコツぶりに馴れてるのか、常連客は苦笑いをしながらこっちを見てるけど、そうじゃないお客さんは驚いた顔で見てるからね?
女将さんも苦笑いしてるけど、ジュリーちゃんが怒った顔で睨んでいるよ。
子供に説教される成人女性って、将来結婚出来るのか?
まあ、世の中にはもの好きな男もいるだろうし、僕が心配する事じゃないか(笑)
「そっそれよりも、カイトさん達の今度の予定はどうなんですか?」
おっ、場を誤魔化す為に、いきなり話題を変えて来たな。
「今回の素材売却でしばらくの生活費も確保出来たし、ルナとラナの勉強を中心に適当に……って感じ?」
「どうして『疑問形』なんですか!?」
「うわっ、スパルタの予感」
「愛の鞭は優しい方が良いよねぇ」
僕の返事に再び大声をあげるレニーさんと、ゲンナリした表情で小声で話すラナとルナ。
心配しなくても、座学じゃなくて『魔力制御』を中心にする予定だから、『感覚派』の二人には向いてると思うよ。
「ルナとラナには『魔力制御』の修行をして貰うつもりなんだ。同じ魔力量でも精密な制御を出来るかどうかで、魔法の効果は劇的に変わるからね。それと、レニーさん……後ろ」
「えっ?」
ゴゴゴゴッって擬音を背負ったジュリーちゃんが、レニーさんの後ろで腕組みをしていますよ(笑)
「レニーお姉ちゃん、お話があります」
「ジュ、ジュリーちゃん!?」
僕が初めてこの宿屋に来た時には、『歳相応』って感じの無邪気さを感じさせてくれていたジュリーちゃんだけど、幼いながらも宿屋の看板娘って自覚があるのか、レニーさんよりも大人びて見えるなぁ(遠い目)
ポンコツ……
貴方に幸ある事を祈ってますよ…………
お読み頂きありがとうございますm(_ _)m




