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第1章 覚悟と現実


 アイテムボックスの容量は、魔法の使用者の潜在魔力に比例すると言われている。

 つまり、容量には限界があるって事だ。

 本来ならね(笑)


「【異世界収納(アイテムボックス)】」


 僕のアイテムボックスは、厳密に言えばアイテムボックスの魔法とは異なる。

 空間魔法で異空間を形成するアイテムボックスの魔法を改編した【異世界収納(アイテムボックス)】は、異世界チートの定番魔法【転移】を再現しようとした時の副産物みたいな物だ。


 異空間を形成する本来のアイテムボックスと違い、次元の穴(ゲート)を形成し、並行世界らしき存在に物資を収納する魔法であり、生物は収納する事が出来ない。

 並行世界らしき存在って表現は、対象の次元が既に崩壊したのか?、構築前なのか?、は分からないけど、何も無い(時間さえ存在しない)空間だからだ。


 偶然、そんな世界を引き当てたって事実に作為的なモノを感じない訳では無いが、考えても分からない事よりも、実益を優先して使っているのが現状だ。

 普通のアイテムボックスは異空間の形成だけでは無く、その維持にも魔力が消費されるが、僕の【異世界収納(アイテムボックス)】なら、次元の穴(ゲート)を開く魔力のみで使用出来る上に、容量は無限、時間停止と上位互換どころでは無い効能が付いてくるんだから、使用しない選択肢は無い。

 

 肝心の【転移】が再現出来ていないのが残念だけどね(笑)


「家ごと収納って!?」


「この人おかしいです、化け物ですよ、お姉ちゃぁぁん!!」 


 僕と共に行くと決めたルナとラナの荷物整理の為、二人の家を訪れた僕は、家を丸ごと収納した。

 盗賊に二人の存在を教えた村をどうするか……

 それは、二人の判断を優先するとして、盗賊は討伐依頼の対象だから討伐しておくつもりだ。

 そういった理由で、時間も無いし、二人と両親の想い出が残る家を放置するのも憚られた為、家ごと収納したって訳なんだけど、二人はまたもドン引いている。


「アルベルトが『神童』って呼ばれてた理由を理解して貰えたようで何よりだね(笑)」


「魔帝国の人って、頭おかしいです!!」


「『神童』じゃなくて『化け物』の間違いですよ!!」


 君達の両親も『魔帝国の人』だったんだけど?

 両親をdisってる自覚はあるのか?


 頭を抱える二人に苦笑いしながら、内心で突っ込みを入れた。



 ルナとラナの両親は、厳しい逃亡生活と、馴れない土地での生活の構築による疲労から体調を崩し、一年前に先ずは父親が、それに気落ちした母親が続けざまに亡くなったそうだ。

 僕が君達の生活を、カーディナスを護れなかったから、辛い思いをさせてしまったね……ごめんなさい。

 戦後に、誇り高いエルフの血筋を残す為に生まれた娘二人を遺して逝った無念を考えると、謝罪の気持ちしか生まれて来ない。


「魔帝国皇太子アルベルトが……僕、カイトが、貴方達の大事な娘さん二人を護る事をお約束させて頂きます」


 ルナとラナに案内された二人の両親の墓前で、僕は誓いを立て、


「お父さん、お母さん、私達……カイトと行くね」


「お姉ちゃんも私も、幸せになるよ。心配しないでね」


 ルナとラナの二人も両親に出発の挨拶をした。




「さて、君達を売った村に案内して貰えるかな?」


 ルナとラナの両親に挨拶を終えた僕は、早速残った盗賊の始末をつける為に、村への案内を頼んだんだけど……どうして怯えた眼で僕を見て来るのかな?


「村ごと殲滅するつもりなの?」


「慈悲の心は大事ですよ」


 …………………orz


「二人共、僕を快楽殺人者か何かだと思ってない?」


「脳筋の復讐者?」


「自覚の無い天災?」


「リーファンスでハンター登録した僕が、人間全てを憎んでいる訳無いだろ! それに、僕は常識人だ、脳筋じゃない!!」


 とんでもない、根も葉もない誤解をしている二人に、僕は憤慨して叫んでしまった。


「まぁ、自覚が無いのは仕方無いから、私が貴方の歯止めになってあげるわ」


「私もお姉ちゃんと一緒に止めてあげるね」


 ………………………………………orz


 言葉が通じないのは、二人が世間知らずだからと諦めるか……


「とにかく、案内を頼むよ」


「「任せて!」」


 この先の不安を押し殺しながら、二人の案内に従い、盗賊が占拠しているであろう村を目指し出発した。







「ん〜、盗賊は四人。見張りの二人と、あの家でお楽しみ中の二人だけみたいだね」


 【探索魔法(レーダー)】を使い、村の外から盗賊の様子を探った結果、残りは四人、内下っ端が二人という事が分かった。

 問題は、家の中の二人が行っている行為が、ルナとラナへの教育上宜しく無い行為の真っ最中って事なんだよなぁ。


「お楽しみって?」


「宴会でもしてるの?」


 家族四人だけで育って来た二人には、こんなテンプレな状況すら想像出来ない事なんだろうな。

 二人の年齢、育って来た環境から考えると、両親がそういった教育をする前に亡くなったと考えられるし……


「盗賊は生かしておいても害しか無い。奴等が生きてるだけで、不幸な目に遇う人々の数は増えて行く。二人共、僕と一緒にハンターとして生きて行くなら、此処であの見張りを討伐する覚悟を決めて貰えるかな?」


 箱入り状態で素直に育った二人には辛い現実を突き付けなければならない。

 それが出来なければ、次に奴等の犠牲者となるのはルナとラナだという可能性が高くなる。

 あの家で行われている鬼畜な所業、この世界の現実の一部を知って貰う必要があるんだ。

 僕個人の満足感を満たす為に、二人を世間知らずのままにしておくと、必ず後悔する事になる。

 そう考えた僕は、二人に対し非情な決断を促した……が、


「ん、害獣は駆除!」


「この距離なら余裕!」


 Σ(゜∀゜ノ)ノ えっ!?

 二人は躊躇無く、風魔法を纏わせた矢で、見張り二人の頭をあっさりと貫いた。


「どうして驚いてるのよ?」


「魔獣を狩るよりも簡単だよ?」


 僕が驚いた理由を『弓の腕に驚いた』と誤解した二人が、不満そうな表情で問い詰めて来る。


「いや、二人に人間を殺す覚悟を持って貰うつもりだったんだけど……そうだよね、魔獣を狩ってたって事は、弱肉強食の心構えが出来てて当然だった。ホントにごめん」


 僕は、護ってくれてた両親が逝った後も、二人で生き抜いて来たルナ、ラナの姉妹を過小評価していた事を自覚して頭を下げた。


「それって、私達の事を心配してくれてたって事?」


「カイトさんって過保護ですね(笑)」


 なんて余裕をみせた二人だったが、家の中に踏み込むと表情を一変させた。



「【夢幻拘束(ファントムバインド)】」


 踏み込む先の状況が分かっていた僕は、踏み込むと同時に精神魔法を使い、盗賊と被害者の両方を昏倒させた。

 盗賊は当然として、凌辱されていた被害者も一度眠らせた方が良いと判断した為である。

 汚らしい男達の体液に塗れ、可能な限り抵抗した証に、全身の至るところを殴られ蹴られた痕跡が見受けられる。

 この状況でパニックになると、自ら命を絶つ可能性が無きにしも非ずといったところだからだ。


「お、……お姉ちゃん」


「ラナ!」


 ルナとラナの二人も、男女の営みについて最低限の知識は持っているだろう。

 しかし、彼女達が知ってた世界でのソレは、両親の様に『愛し合う二人の神聖で美しい行為』という認識だったに違いない。

 凌辱の限りを尽くされ、人間の尊厳を踏み躙られた被害者の姿を目の当たりにすれば、ショックを受けるのが当然だ。


「二人共、これが戦いの、戦争時の現実なんだ。僕が敵を殺す行為に躊躇しない理由を分かって貰えたかい?」


「「………………」」


 ショックで抱き合い固まっていた二人は、時間を置いて無言で頷いた。


「僕が君達を護るって言ったのは、こういった悲惨な現実から、命を賭けてでも護るって意味だ。君達の両親に誓って、僕は君達をこんな目に遇わせない。ただ、君達にも、他の誰かがこんな目に遇わない様に、誰かを護る覚悟を持っていて欲しい」


 無差別殺人でも快楽殺人でも無い。

 大事な人を護る為に、敵となる存在は躊躇無く殺すっていう、僕の覚悟の本当の意味を知って欲しい。

 現代日本と違って、法や警察が護ってくれる訳じゃないこの世界で、大事な人を護るって事は、自らの手を汚す事を躊躇う余裕なんて無いんだから。


「私達が……護る?」


「誰かを……」


 僕と一緒に来るって事は、マイアール帝国と戦い、奴隷にされた魔帝国国民達を解放する戦いに身を置くって事でもある。

 此処でその覚悟を持てないなら、両親の遺した家に帰り、ひっそりと暮らした方が良い。

 いづれ、僕がマイアール帝国を打倒し、魔帝国を復興させるその時まで……


「カイトが、……カイトが誰かを護る為に辛い思いをするのなら、私が側で支えてあげる!」


「こんなの…………こんなの一人じゃ悲し過ぎるよ!」


 意を決した様に、ルナとラナが声を挙げる。


 っていうか、何で二人共、僕の心配をしてるんだ? 

 自分達がショックを受けてただろ?

 今、問われてるのは、二人の覚悟だろ?


 僕は、過去に自身が犯した過ちのせいで、不遇な扱いを受ける事になった人々の為に、僕の甘さのせいで悲しい思いをしたマギクス達の為に…………

 僕は、僕はヴォルク達に復讐して、元凶となったマイアール帝国を潰して……

 そう、義務があるんだ、みんなの無念を晴らす義務が……



 ……

 …………

 ………………なのに、

 ……………………どうして、

 ……………………………どうして僕は泣いてるんだよ!


「大丈夫……アルベルト様は……カイトは一人じゃない」


「お姉ちゃんと私は……ずっと一緒にいるから」



 十七年間、ずっと一人だった。

 これからも、一人で戦うつもりだった。

 そう、覚悟して十七年間待ったんじゃないか……

 でも、ルナとラナの優しい言葉に、僕は涙を止める事が出来ずに嗚咽をあげていた。

 お読み頂きありがとうございますm(_ _)m


 少し更新が遅れてしまいました。

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