閑話 ルナ視点
まだ、お父さんが元気だった頃、幼かった私とラナに聞かせてくれた話は、私達が人間種を本当の意味で好きになれない理由でもあった。
「魔帝国と呼ばれるよりも遥かな昔から、私達……人間からは亜人種と呼ばれる存在は、魔人種の王を中心として繁栄していたんだよ」
神の血を引くと云われてた魔人種の王、魔帝国皇帝の血筋は、私達の誇りであると共に希望でもあったそうだ。
創造神様がこの世界を創造した時、様々な生命を生み出し、最後に自身の写し身として人間種を生み出したが、その精神性は想定以上に幼過ぎた。
その精神性の至らなさから、世界を破滅に導く事が無いよう、創造神様は眷属の一柱を地上に降ろし、人間種の暴走を止める為の役割を与える事にした。
神格を持った眷属ではあったが、地上に神の権能を置く事を憂えた創造神様は、眷属の神格を剥奪した上で地上に降臨させ、その血筋を遺す事を命じた。
やがて、地上に血を遺し天寿を全うした眷属は、創造神様から再び神格を与えられ天に帰ったそうだ。
その遺された血筋こそが魔人種の王の血筋であり、彼等は代々その役目を継承してきたが、その外観を嫌う人間種から『魔族』と呼ばれ、人間種の天敵として扱われる事になった。
世界における魔人種の本来の役割を知っていた筈の人間種は、自身を超える権限を与えられた魔人種の存在が許せなかったのだろう、宗教的な観点から魔人種の存在を改悪していき、やがて本来の魔人種の役割を知る者はいなくなったという。
人間種同士の覇権争いにより興る戦争は、本来の役割を記した書物をも焼き、争いを征した者の増長は逗まる事を知らなかった。
人間種の増長が世界の破滅を呼ぶとまでは判断しなかった魔人種の王は、彼等の戦いに関与する事なく、人間種から『魔の森』と呼ばれた森を境に、人間種から迫害され亜人種と蔑まれた同胞達を匿う事に全てを費やして来た。
「人間種は私達よりも遥かに短い寿命故に、欲に溺れ易く、短絡的な思考に陥てしまうんだよ。でもそれは彼等の全てが『悪』という訳ではないんだ。彼等の中にも善性を持つ者もいるだろう。その証拠に『世界の崩壊を止める者は、人間種の身体に魔人種の魂を宿した者である』と言い伝えられているからね」
「魔人種の魂を?」
「宗教的な言い回しだと思うけどね。だから僕は『魔人種の心を本当の意味で理解出来る人間種』が現れるんだと解釈している」
「でっでも、その人間種が魔帝国を滅ぼして、その血筋を絶やしてしまったんじゃないの!?」
幼い私が激情に駆られたように声をあげると、お父さんは悲しそうな表情を見せながら言った。
「ルナ、それにラナも、これだけは分かって欲しい。僕もマイアール帝国が我々にした事は許せない。でも、それは人間種の全てって訳じゃないんだ。僕達エルフ種は、全ての亜人種の中で最も永く魔人種の王に従かえて来た種族なんだ。魔人種の王が担っていた役割を継承するのは僕達の役目なんだよ。それは、人間種の全てを憎む事じゃない」
「でも、……でも!」
お父さんが言ってる事は『理解出来るけど、理解したくない』事だ。
「前に話した事があっただろう。次代の皇帝であったアルベルト皇太子殿下、彼に嫁ぎ皇后として魔人種の役目を果たす存在は、エルフ種族長の血筋の中から選ばれる筈だった。そして、年齢的に考えれば、それはルナかラナになる可能性が高かったんだよ。そして、皇后の果たすべき役割は、皇帝陛下の意を誰よりも理解し、支える事なんだから……」
そう、マイアール帝国は……人間種は、私の夫になってたかもしれない皇太子を殺めた存在なんだよ!
そんな存在を赦せって言うの!?
「ルナ……、僕の話を聞いて思い入れるのは分かるけど、あくまで可能性が高かったってだけで、ルナ達よりも早く産まれた娘が居れば、皇后にはその娘が選ばれていた可能性もあったんだ。そこまでルナが想い悩むなんて、僕は余計な事を話してしまったかな」
「違う! そうじゃなくて……」
「??」
まだ幼いラナには、未来の夫なんて想像出来ないんだろう。
感情を爆発させる私の事を、不思議そうに見ている。
「ルナ達に、皇太子殿下の話をし過ぎたかなぁ」
苦笑いをしているお父さんだけど、アルベルト皇太子殿下との思い出を話してくれた時のお父さんは本当に楽しそうだったんだよ。
● 魔法の天才
● 年齢にそぐわない知識
● 破天荒な行動
● 身分を感じさせない言動
● 普段は見せない秘めた責任感
まるで物語の主人公のような話ばかりだったけど、私は会った事も無い、出逢う事も出来無い、話の中だけの皇太子殿下に恋をした。
その皇太子殿下を奪った人間種を『嫌うな』なんて、納得出来る筈ないじゃない!
人間種なんて嫌い! 大っ嫌い!!
でも、お父さん達がいなくなっても素直で優しく成長したラナは、山中で傷を負い、動けなくなっていた人間種の猟師を放って置く事が出来なかった。
「妹が『どうしても放って置けない』って言うから助けたけど、私は貴方達人間種の事を好きじゃない。今後、私達に関わらないなら治療してあげるけどどうする?」
血の臭いを嗅ぎつけた魔物に襲われる事を恐れていた猟師は、私の出した条件に何度も頷き、治癒魔法で治療した後には何度も『ありがとう、本当にありがとう』と礼を言いながら去って行った。
あんな……弱くて素直な人間種もいるんだな
って、私らしくない事を思ってたけど、数ヶ月後に私達姉妹の価値観は一変する事になった。
生まれて初めて感じる強大な魔力の波動。
その原因を確かめる為に、警戒しながら山中を進んだ私達の目に入って来た光景は、『地獄』が現世に現れたのではないかと疑うような状況だった。
血溜まりの中、人間種だったであろう肉片を前に、私達の存在を察知して笑いかける少年。
歳の頃は、私と同じくらい?
「君達を狙って来た盗賊は殲滅したよ。話しがしたいから、姿をみせて貰えないかな? 僕はカイト、リーファンスのハンターだ」
何?
この惨状はコイツがやったの?
なんて考えながら警戒する私達に、この少年はとんでもない事を平然と口にした。
「『ハンターギルドに依頼された盗賊の討伐』って理由よりも、『魔帝国皇太子アルベルトが、元国民を保護した』って言った方が安心して貰えるかな?」
「人間がっ、人間が軽々しくアルベルト様の名を口にするな!」
「アルベルト様!? ふざけるな!!」
アルベルト様の名を騙る人間種に、思わず激昂する私と同様に、普段は大人しく穏やかななラナまでが怒声をあげてしまったくらい、不敬で愚かしい発言だと思わずにはいられなかった。
「落ち着いて話を聞いて貰えないかな、【術式破壊】」
感情を爆発させた私達姉妹が矢に纏わせた風魔法を未知の魔法で無力化した少年は、少し困ったような苦笑いをしながら、私達に語り掛けて来た。
お父さんが話してくれたアルベルト様の魔法?
ううん、そんな事ある筈無い!!
そう思い、疑いを解かずにいる私達に対し、
「【術式破壊】以外の魔法については聞いてないかな? 僕にしか使えない魔法って結構な数があったから、それを再現してみせる以外に、僕が僕であるって証明方法が思いつかないんだよねぇ」
なんて言って来る。
「貴方が本当にアルベルト様だっていうなら、土魔法で造った弾丸を、弓矢よりも速く飛ばせる筈よ!」
私はあえて魔法名を口にせず、アルベルト様だけの固有魔法【超電磁砲・改】を使うよう促したんだけど、
「う〜ん、コレかな? 【超電磁砲・改】」
――――ヒュッ、ズガアァァァァァァァァァァァァッ!!
「ひっ、……アルベルト様は初級魔法ですら、上級魔法と同じいりょ――」
「【炎弾】、【光弾】」
――――ドガアァァァッバアァァァンッ!!
「どうかな? 信じて貰えた?」
限られた者しか知らなかった筈の【超電磁砲・改】っていう『ちょっとイタい』ネーミングセンスの魔法名、それを当然のように口にした上、更に私の発言に被せるように発動させる桁違いな魔法。
それも、当然のように無詠唱で魔法を発動させてるし……
もしかして…………
本当に?
本当にアルベルト様!?
あぁ、神様なんて信じてなかったけど……
私からアルベルト様を奪った人間種同様に『私の敵』って思ってたけど……
ごめんなさい!
そして、ありがとうございます!!
どうして、魔人種のアルベルト様が人間種の姿になってるのか分からないけど、そんな事はどうでもいい!
あのアルベルト様が、私の初恋のアルベルト様が目の前に……
お父さん……
今なら、お父さんが言ってた『人間種の全てを憎んではいけない』って言いつけを護る事が出来るよ!
アルベルト様の姿を嫌う事なんて出来る筈ないんだから!
『あのお姉ちゃんがデレてる……』って、ラナがボソボソと呟いてるけど、私はデレてなんかないわよ!
あんたこそ、頬を赤くしながら何言ってんのよ!
後で冷静に考えると、この時の私はどうかしてたと思う。
少なくとも、盗賊とはいえ、人間が数人肉片に変えられてた現場の空気じゃなかったわよね…………
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