第1章 ポンコツ? ナニソレ? オイシイノ?
ハンターギルドで、この街に来るまでに狩った魔物を買い取って貰い、アイテムボックス内の整理、当座の生活費の確保という目的を達した僕は、しばらく滞在するであろうこの街の拠点にする宿を探して表通りを歩いている。
それなりの現金が手に入ったので、この街一番の高級宿でも問題無いんだけど、異世界定番は安くて待遇の良い宿一択なんだよね(笑)
「いらっしゃい、お兄さん泊まりですか? 食事だけでも大丈夫ですよ?」
『森の兎亭』って平和な感じの名前、宿の前で掃除をしている兄妹らしき子供達。
お約束に従いこの宿にしようかと近づくと、幼い声ながらしっかりした対応で兄らしき少年が声を掛けて来た。
「とりあえず二泊で、その後は都合次第になるんだけどしばらく連泊するかもしれないけど、大丈夫かな?」
「「おかあさ〜ん、お客さん!」」
現在の僕の身体は、正直目つきが悪い(笑)
ロード君はよっぽど捻くれた性格の持ち主だったんだろう。
だから、怖がらせない様に、出来るだけ穏やかな笑顔を心掛けて話し掛けたつもりなんだけど……
どうして、引き攣った顔で両親に助けを求めるかの様に、宿の中に駆け込んで行ったんだよ(泣)
前世でも結婚した事無い僕だけど、子供好きなんだからね?
勿論、好きっていっても犯罪的な意味じゃ無いからね!
「もう、お客様をご案内もしないで」
子供達と入れ替わりで玄関から出て来た女性が、あの子達のお母さんで、この宿の女将さんかな?
文明レベルの低いこの世界では、女性はかなり若いうちに結婚して子供を早めに産む。
出産するのも命懸けの世界だから、体力的に若いうちにって事なんだけど、目の前の女性は前世基準なら、僕にとってドストライクな年齢だ。
まあ、人妻に対してストライクも何も無いんだけど(笑)
ただ、客商売って事を考慮しても、質素ながら清潔感のある女将さん、宿の前を掃除している子供達の身なりを見れば、この宿は当たりって気がする。
これで料理も美味しければ、ココを定宿にしても良いんじゃないだろうか…………
「いらっしゃいませ、お泊りですか?」
「はい、とりあえず二泊ですが大丈夫ですか? 今後の都合次第なんですけど、しばらく滞在させて貰う事も可能でしょうか?」
笑顔で迎えてくれた女将さんに、僕も笑顔で要件を告げる。
「はい、大丈夫ですよ。今後の都合って事は、お客様はハンターですよね? その場合、先払いして頂く事になりますが、月単位でお部屋を用意させて頂きます」
うん、異世界定番の対応キターーー!!
っていうか、ハンターギルドがある大き目の街なんだから、ハンターが常連の宿が有って当然だよね。
地元の人間だけでハンターギルドの運営が出来る筈無いんだから、一時的に滞在するハンターの数は少なくないだろう。
「じゃあ、とりあえずの二泊で」
「では、コチラへどうぞ」
宿の中に案内された僕は、宿帳に名前の記入、ギルドカードの確認と手続きをこなし、説明を受ける。
食事は時間内なら朝晩支給、長期滞在の場合、荷物は置きっぱなしで大丈夫。
その代わり、契約期間を越えた場合は荷物をハンターギルドの人間が処分って話だった。
ギルドカードの確認は、その様な場合に備えたモノらしい。
長期間、帰還しないハンターは死亡扱いとなり、荷物は遺品扱いってところは非常に現実的だ。
この現実的な処置がハンターの死亡率を物語っている。
「じゃあ、トム、ジュリー、お客様をお部屋に案内して」
「「は〜い!」」
女将さんが子供達に、僕の案内を指示するが、
『某猫とネズミのアニメかよ? その名前!!』
覚え易くて助かるけど、心の中で突っ込まずにはいられなかった。
これから連泊するかどうかは食事次第。
そう思える程度に、案内された部屋は質素ながらも綺麗に掃除されていた。
「以外と早く宿も決まったし、晩飯まで何をするかな?」
独り言を呟きながら部屋を出た僕は、再び表通りを歩きながら考えていた。
ロードの鎧はヴォルクに出会うまで、アイテムボックスに死蔵させるつもりだから、動きやすい革の胸当てでも買いに行こうか……
武器は、この剣のままでいいかな?
そう考えた僕は、適当に入った防具屋で革の胸当てと、それに合わせた手甲を買い、その場で装備した。
僕の防御は魔法障壁が要なので、防具に拘るつもりは余り無いんだよね。
どちらかと言えば、ハンターらしい格好をしてないと、悪目立ちするから仕方無くって感じだ。
ヴォルク達が使ってた、付与付きの防具なら拘るかもしれないけど、普通の装備なら機動性重視一択かな。
そんなこんなで時間を潰し、暗くなるまでぶらぶら歩きしてから宿に帰った。
「いらっしゃ……お帰りなさい、直ぐに食事にしますか?」
宿に入ると、お手伝い中のジュリーちゃんが重ねたお皿を抱えながら声を掛けて来てくれた。
まだ六歳くらいなのに、しっかりした対応をしているあたり、この世界では子供でも働かなければ生きていけない現実を思い知らされる。
僕は皇太子って立場だったから、本当に甘やかされてたんだと再認識してしまう現実だな。
「食事でお願いします、ジュリーちゃん」
「じゃあ、ソコのお席でお願いします」
宿の一階はカウンターと調理場以外のスペースを食堂が大部分を占めているが、殆どの席が埋まっている。
やっぱり、この宿は当たりっぽいな。
ジュリーちゃんから薦められた二人用のテーブル席に座り、配膳された食事を頂く。
野菜たっぷりの、辛味をつけたポトフっぽいスープとパン、追加料金を払えばオーク肉のステーキもあるそうだ。
ポトフ風のスープにたっぷりとソーセージが入っているし、この街に着くまでは焼いた肉ばかり食べてたからステーキはいらない(笑)
下拵えがしっかりしているんだろう、前世の料理と比べると旨味が一味足りないけど、臭みの無いスープに辛味のアクセントが食欲を唆る。
これだよ、この身体になってから、初めて人間らしい食事にありついた僕は、夢中でスープを啜った。
「お兄さん、そんなに気に入ってくれたの?」
お手伝い中のトム君が、不思議そうに問い掛けて来るが、
「うん、本当に美味しいよ」
涙目で答える僕に、少し引いていた。
仕方無いだろ、何せ人間らしい食事は僕にとって十七年ぶりなんだから(泣)
そんな時、
「えっ、カイトさん!?」
見覚えの無い少女が、いきなり声を掛けて来た。
…………誰だ?
エプロンを着けているって事は、この宿の従業員か?
「あっ、『初めまして』でしたね。私、ハンターギルドでカイトさんの専属担当に任命されたレニーっていいます。でも、どうしてカイトさんがココに?」
「いや、普通に宿泊してるんだけど。それよりも、どうしてギルドの職員さんがココに居るんですか?」
まさか、身分証明になるハンターギルドのカードを持って無かったから、【存在遮断】を使ってこの街に不法侵入した事がバレた?
それとも、他の理由で監視されてる?
「ここは両親が遺してくれた宿で、私のお兄ちゃん夫婦が経営してるんです。私は最近、ハンターギルドに勤め始めたんですけど、仕事が終わってから手伝ってるんですよ」
まさかの実家?
それに『専属担当』って何?
「あっ、食堂が落ち着いてからお時間とれますか? この時間は落ち着いてお話し出来ませんから」
「はい、大丈夫ですよ」
特に裏の無さそうな笑顔で『後で時間を』と言って来るレニーさんの様子に、一瞬浮かんだ不安が解消された僕は、了承して食事を再開した。
――――コンコン
「カイトさん、レニーです」
部屋に戻りしばらく待っていると、部屋のドアがノックされた。
「どうぞ、鍵は開いてます」
一応、下心が無い事を示す為に、部屋のベッドに僕が座り、机を挟んでドア側に備え付けの椅子を配置しておいた。
部屋に備え付けられている椅子が一脚しか無いんだから、こうしておかないと、下心があるって誤解されるかもしれない。
いや、清廉潔白な人間を装いたいって訳じゃなく、ハニトラ対策なんだけどね(笑)
今日の今日でギルド職員と『偶然』一つ屋根の下なんて、普通に考えて変でしょ!
「入りますね……って、いきなり部屋の模様替えですか!?」
「話が終わったら、元に戻しますよ。一応、若い女性を相手に配慮くらいはしませんとね」
さて、暗にハニトラ拒否の意思を示してみたけど、どんな反応を見せてくれるかな?
「…………私に何かするつもり……ですか?」
「はぁっ、何か出来ない様に机を間に置いてるでしょ!?」
どんな捉え方をしてんだ?
「『専属担当』って、そういった相手じゃありませんから!」
「だ〜か〜らぁ、そういった関係を拒否って意思を型にしてるんだよ!!」
腐ってんのか?
脳ミソ腐ってんのか?
せめて、ボンッキュッボンッになってから言えよ!!
呆れた表情で不機嫌に答える僕を、なんで疑いの目で見てんだよ、この小娘は!!
「はぁ……で、要件は何?」
後頭部を掻きながら、ため息混じりに問い掛けると、まだ、少し警戒感を感じさせながら、椅子に座ったレニーさんが『専属担当』になった件について語り始めた。
「――――と、いった経緯で、私が担当させて頂きます。専属担当が付くって事はギルドの看板ハンターって事ですので、カイトさん、かなり期待されてますよ」
うん、レニーさんの説明じゃ、この子が専属に任命された理由も、何より僕に専属が付くほど期待されている理由も分からない。
っていうか、このレニーさんって子、悪い人間じゃないけど、ちょっと残念な子じゃね?
この街でハンター登録したの、失敗だったかな?
お読み頂きありがとうございますm(_ _)m
ここでストックが僅かとなりましたが、頑張って更新していきたいと思っています。
仕事との関係で、ここまで三日に一度の更新でしたが、不定期に、でもなるだけ早く更新していきたいと思ってます。
今後もお読み頂ければ幸いですm(_ _)m




