第1章 ハンター登録
気配を完璧に隠蔽する、僕のオリジナル魔法【存在遮断】を使えば、国境を越えるなんて簡単な事だ。
って事で、僕はマイアール帝国の東側に隣接した国【オーネスト王国】西部の街リーファンスにいる。
とりあえず、当座の生活費を稼ぐ為に、この国で【冒険者】登録をする予定だからだ。
【ハンター】とは、魔獣の存在に苦しむ人間世界で自衛の為に生まれた存在で、マイアール帝国の建国よりも遥か昔に、ハンターを統轄し、効率的に民衆を護るという目的で【ハンターギルド】という超国家組織が設立された。
設立当初は色々あったみたいだけど現在は、完全に国家権力から独立した機関として、場合によれば国家相手でも戦いを挑める権力を持っているそうだ。
勿論、魔帝国にも【ハンターギルド】は存在していたが、国民総脳筋って表現がピッタリだった魔帝国では、魔獣相手に困る事態が少なく、余り重宝される事の無い残念な組織ってイメージがあった。
本当にヤバい竜種等の魔物が出れば、国軍が動いていたし、ハンターの戦力に頼る必要がなかったからねぇ。
つまり、魔帝国における【ハンターギルド】の存在価値は、魔物素材の買い取りのみだった(笑)
人間種よりも遥かに上の戦闘力を持った種族の多い魔族からすれば、ハンターの戦闘力なんて一般人と変わらない程度のモノだったんだよね。
とはいえ、現在じゃ僕も人間種だ(笑)
目立ち過ぎ無い程度に抑えながら、人間社会で復讐の牙を研いでいく為には、ハンターって立場が最も効率的だ。
ナニよりも、コレこそ【異世界ヒャッハー】の定番だしね。
アルベルトとしてあの時、【異世界ヒャッハー】を後悔したのは事実だけど、ソレを否定して【ザマァ】するのは、何か負けた気がするんだよねぇ。
僕は前世からプライドだけは高い負けず嫌い……つまりは、実力も無いのに妄想で満足するクズだったんだ(笑)
って事で、【ヒャッハー】しながら、あのクソ野郎共に【ザマァ】するって決めたんだよ、何か問題でも?
いかん、興奮してないでサッサと登録しよう。
期待を込めて、一番若いお姉さん受付嬢のカウンターへ……
「いらっしゃいませ。ご用件は?」
「すみません、ハンターの新規登録をお願いしたいんですが」
テンプレのやり取りキターーー!!
まさか、自分がこのテンプレを経験出来るなんて!
魔族の皇太子に【転生】した時点で諦めてたテンプレバンザイ!!
「では、こちらの書類に必要事項をお願いします。筆記は大丈夫でしょうか? 無理でしたら代筆いたしますが」
「いえ、大丈夫です」
前世でラノベを書いてた奴等は、この光景を観たことでもあったのか? ってくらいテンプレ通りだ。
ビックリだよ!
つい、テンションが上がってしまったけど、僕がマイアール帝国に復讐する為には、隣国の戦力を使う事が必須だ。
僕がチート魔法を使ったところで、数の暴力の前では無力だと思い知らされたんだから、同じ轍は踏まない。
僕がチートを魔法に注力してきたのと対称的に、マイアール帝国の初代皇帝は、数の暴力を実現出来る装備にチートを使った可能性が高い。
僕のチートは僕にしか使えないけど、アイツのチートは誰にでも使える無差別兵器といった感じだ。
そんな奴が定番チートの銃や大砲を造って無いなんて考えられない。
ヴォルクやレイナルドの装備、あの軍が使った最終兵器とやら、ソコから導かれる答えは、銃や大砲はあるが量産は不可能、弾数に限りがある前時代の遺産だ。
とはいえ、これも推測の範囲でしかない上に、最低限の戦力予想に過ぎない。
とにかく、情報収集出来る環境を創る事が最優先課題だな。
「…………ホントに大丈夫なんですか?」
思考に耽って固まっていた僕に、本当は読み書き出来ないんじゃないかと、疑いの目で受付嬢が問い掛けて来た。
「あっ、ごっ、ごめんなさい。直ぐ記入します」
我ながらカッコ悪い返事をしてしまい、慌てて記入した。
「……名前はカイトさん、……職種は魔法使いですか?」
記入した入会書を受け取った受付嬢さんは、更に訝しげな目で僕を見てくる。
「何か記入に不備でもありましたか?」
何で、おかしいな?
十七年前に集めた情報では、オーネスト王国も大陸共通言語が公用語だった筈なんだけど……
「いえ、記入欄に問題は無いんですが、…………失礼ですけど、あなたの装備を見ると、魔法使いというよりも剣士に見えるんですが。本当に魔法使いで登録して大丈夫でしょうか?」
ああ、ロードの身体になった僕を見れば、騎士学園で鍛えた剣士にしか見えないよねぇ(笑)
「魔法使いだから後衛で安全に魔法を撃てるなんて、そんな甘い考えのハンターっているんですか?」
とはいえ、大昔のRPGみたいなターン制の戦いをする訳じゃ無いんだから、魔法使いも剣くらい使うでしょ(笑)
「「「「「……………………」」」」」
何で、ギルド中がいきなりシーーーンとしてるんだ(汗)
もしかして、やっちゃいけない方のテンプレ踏んじゃった?
「坊主、エラい自信だな」
冷や汗を流す僕の後ろから、古傷だらけの顔をしたゴッツいゴリラモドキが声を掛けて来ちゃったよ……この展開はイラネー!
「すみません、世間知らずなもので、ご気分を害されたなら謝ります」
「謝る必要は無いぜ、ハンターは実力主義だからな。ただ、俺の目の前でイキッてた新人があっさり死んだら寝覚めが悪いんだよ。俺の安眠の為に、訓練場まで付き合って貰えないか?」
クソッ、どっちのテンプレだ?
純粋に心配してくれてる方か、それともヒャッハーか?
「申し訳無いですが、僕も知らない人に怪我をさせたら寝覚めが悪くなりますから、間を取って、無かった事にしませんか?」
「ちよっ、ちょっと、カイトさん! この人は――――」
「黙ってろ、マデリーン! 強制連行されたくなかったら、大人しく着いてこい」
なんとか説得しようと思ったけど、何故か(笑)慌てる受付嬢さんの発言に被せながら、ゴリラが僕を睨み付けた後、ギルドの右奥に向かい歩き始めた。
ここで着いて行く方が良いのか?
無視して出入口に向かった方が良いのか?
テンプレ的な正解が分からない僕は、とりあえず定番の『着いて行く』を選択した。
「加減はしてやるから安心しろ。先ずは、魔法使いって事だから魔法を見せてみな」
へー、ギルドの訓練場って、軍隊が使う演習場並に施設が充実してるんだなぁ……
魔法に耐性のある素材を使った壁……
布を巻いた木剣や槍、盾も常備してるんだ……
「おい、先手は譲ってやるって言ってんだ。サッサと来い!」
キョロキョロと訓練場を見回す僕に、ゴリラが苛立ちを隠さない声で魔法を使えと促して来る。
「あぁ、魔法ですか? どうぞ、遠慮なく撃ってください」
撃てるならね(笑)
「何処までもナメた口を、なら容赦しねえ!!」
ニヤリと笑う僕に向けて、【炎弾】を詠唱して撃とうとしたゴリラが、魔法を発動出来ずに慌てた様子を見せる。
「【術式破壊】って魔法ですよ。この空間では、僕以外の人間は魔法を使う事が出来ません」
「スペル……そんな魔法は聞いた事無いぞ!? それにお前、いつ詠唱した!? ………なら、次は剣だ」
どうやっても魔法を発動出来ない事態に動揺しながらも、魔法を諦め剣で勝負と言い出すゴリラだけど、
「魔物相手に魔法が通じなかったら、別の方法で勝負しようって魔物に言うんですか? ハンターって(笑)」
そう、一度の失敗で全てを失った僕からすれば、お笑い草だ。
「【炎弾】」
――――ドガアァァァァァァッ!!
ほう、威力を落としたとはいえ、僕の【炎弾】でぶち抜けないなんて、大した強度で訓練場を造っているんだ(笑)
自分の顔を掠める様に放たれた【炎弾】になんとか反応したゴリラは、後ろを振り返り茫然としている。
隙だらけの後頭部でも叩いてやったら面白いかな?
「『弱い者いじめ』は嫌いなんですよ。それに、僕は魔法使いで登録した筈ですよね? もう、終わりで良いですか?」
気分は┐(´д`)┌だけど、ニヒルな強者って雰囲気で、ゴリラに終わりで良いか問い掛ける。
「お、おう。実力は分かった。とりあえずギルドマスター室に来い」
ギルドマスター室?
このゴリラが、このギルドのギルドマスターなのか?
僕の周りには、脳筋が集まる呪いでもあるのか?
「壁も壊してはいないし、お説教じゃ無いですよね?」
「いいから黙って着いてこい!!」
自分から絡んで来たクセに……
逆ギレして顔を真っ赤にしたゴリラが怒鳴り散らす。
いや、駄目だ。
僕はもう皇太子殿下じゃ無いんだから、もっと謙虚にしていないと、余計な騒動を呼び込んでしまう。
意識して無かったけど、僕って結構傲慢になってたんだなぁ(笑)
「はい」
余計な事は言わずに大人しくしよう……
「普通は登録したての新人はFランクからスタートだが、お前は特例を適用してDランクからのスタートだ」
ギルドマスター室のソファに座らされた僕に、ゴリラが真面目な顔で告げる。
「Dランクって、ハンターとして一人前って呼ばれるランクですよね?」
「お前の実力がそんなレベルじゃ無いってのは分かってんだよ。単に、これ以上のランクからスタートって訳にはいかねぇんだ!!」
特例って事や、ランクについて不満があるなんて言った覚えは無いんだけどなぁ……
「いや、逆に僕がDランクからで良いのか?って思っただけなんですけど?」
「本来なら、一年前に現役を引退するまでAランクだった俺以上のお前はSランクでも可怪しく無いんだ。しかしな、お前の年齢とハンターとしての経験不足を補わせる為にDランクからスタートって訳だ」
「別に、ランクには拘りませんよ。素材の買い取りをして頂ければ文句は無いです」
このゴリラがAランク相当か……
なら、ヴォルク達は装備込みでSSランクってところだな。
お読み頂きありがとうございますm(_ _)m
クズ主人公のクズは性格的に最低って訳では無く、本人は常識人だと思っているけど、過去の経験と十七年間の孤独で歪み壊れた人格って意味です。
なので、無差別殺人や快楽殺人を行う予定はありません(ヴォルク達を除いて)。




