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第1章 ザマァの始まり(ジャブ)


「急報! 急報!!」


 マイアール帝国帝都の中心部にある豪華絢爛な城に、似つかわしく無い悲鳴の様な叫び声をあげながら、蒼白な顔の兵士が駆け込んで来た。

 

「止まれ、所属と官姓名を名乗らんか!!」


 城門に立つ門衛が、駆け込んで来た兵士に槍を向け叱責する様に誰何する。

 世界最大の版図を誇る帝国の最深部と言っても過言ではない宮殿に立ち入るには、当たり前の事ではあるが、それなりの手順、作法が存在する為、門衛の態度は至極当然なモノであるが、


「それどころじゃ無い! いいから通せ!!」


 焦った兵士は、門衛が突き出した槍を払い除け進もうとした。


「「貴様ぁっ!!」」


 門の左右に立つ門衛が、再び駆け出そうとした兵士に飛び掛かり、二人掛かりで組敷き抑え付ける。


「ぐぅあっ、非常事態だ! 翼竜(ワイバーン)が出た!通せ!!」


「そっ、それが本当なら、尚更、官姓名を言わんか!!」


 非常事態だと言ったところで、それが本当かの確認がとれない以上、門衛が不審者を通す訳も無く、堂々巡りで時間が浪費される。


 大きな戦争が終わり十七年……

 平和な時代に育った世代が多くなった、マイアール帝国の軍では、非常時の連携すら衰えをみせていた。






「報告致します! 帝都郊外、魔の森の入口に翼竜(ワイバーン)が襲来しました!! 尚、現地では高等騎士学園の生徒が実践演習中であると思われます!!」


 宮殿内にある帝国軍元帥府に辿り着いた伝令の兵が、帝都城門から確認された現状を報告した。


翼竜(ワイバーン)だと! ……現在(いま)帝都に駐留している五英雄は誰がいる!?」


「常駐されています親衛隊のハンニバル隊長、……昨晩、帝都に帰還され、休暇に入った独立部隊のベンズ隊長のみと思われます!」


 帝国軍元帥に就いているライアット侯爵は、武勇や指揮能力でその地位を得た訳ではない。

 大国の大貴族としての見栄で、権力を振り翳し元帥の地位を手にしただけの凡夫である。

 当然、自身が討伐に赴く考えなど無く、五英雄の戦力を使う事しか考えられなかった。


「ならば、独立部隊を出動させろ!! この様な非常時に備えるのが奴等の職務だ!!」


 当たり前の様に、任務から帰還したばかりの独立部隊の出動命令を出すが、既に休暇に入った部隊の招集に掛かる時間など、その思考に含まれてはいない。

 現在、ライアット侯爵の頭の中を支配しているのは、この非常事態に於ける責任を誰に転嫁するか、のみである。




 バカバカしい理由ではあるが、独立部隊隊長ヴォルク=ベンズにとっては、自分の息子が翼竜(ワイバーン)の出現地で演習中である為、命令を拒否される事は無かった。


「酒が入っている者は申告しろ! 今回の敵は翼竜(ワイバーン)だ、万全の体制で挑まねば死の一択となる!」


「各小隊長は、参戦可能な小隊員の人数を報告!!」


「今回の戦場は目の前だ、兵站は無い! 各自装備は万全に確認しろ!」


 五英雄最強とも云われるヴォルクが隊長を務める、マイアール帝国軍内でも屈指の部隊の練度は高い。


 隊長であるヴォルクの武名は高いが、出身が平民である為、大貴族が実権を握る軍部からの扱いは、便利屋宜しくの遊撃隊であった。

 練度の高さも、軍の上層部からの無茶振りに応え続けて来た結果である為、今回の様な出動もある意味いつも通りでしかなかった。


 不満が出ないのが不思議な扱いを受ける独立部隊の士気が保たれているのは、民衆から『帝国最強部隊』と認識されている自覚から来るものである。

 不遇な扱いを受けていようが、今回の戦場は帝都近郊であり、自然と民衆の目が自分達に向いている。

 更に、尊敬する部隊長ヴォルク=ベンズの息子を救援する為の出動であり、士気が落ちる筈が無い。


「愚息を救援するなんて言ってる奴等は勘違いするな! 救援対象に『偶々』愚息が含まれているだけだ! 出るぞ!」


 訓示を受け、出動する独立部隊の兵士達は知っている。


 この部隊長は敵にこそ容赦無いが、味方、それも立場が下の者に対する情は深い。

 自分の一人息子を心配しない筈が無い、強がっているだけだ。

 

 独立部隊の兵士達は、翼竜(ワイバーン)との戦いを恐れるよりも、高等騎士学園の生徒達、中でもロード=ベンズの救出を堅く誓った。









 報告の遅れ…………


 初動の遅れ…………


 絶対的強者である竜種に属する翼竜(ワイバーン)が、人間の都合に合わせて待っていてくれる筈が無い。

 独立部隊が現場に辿り着いた時には既に、食事を終えた翼竜(ワイバーン)は飛び去っていた。

 残された惨状に茫然とする兵士達に、ヴォルクが指示を出す。


「生存者の捜索を開始しろ!! 第一小隊から第四小隊は森の中を捜索、残りは遺体の回収だ。急げ!!」


 かつての戦争で武勲を上げ、現在の地位を得たヴォルクは見てきた地獄が自分達とどれだけ違うのか?

 こんな惨状を目の当たりにしながらも、冷静に指示を出すヴォルクに改めて驚愕しながら兵士達が動き始める。


「第一小隊はこの方角を捜索する。索敵を怠るなよ!」


「第二小隊は此方だ。行くぞ!」


「第三小隊―――――」


「第四―――――」


 指示を受けた各小隊が、魔の森に捜索の為に踏み込み、残りの小隊は、翼竜(ワイバーン)が喰い残した遺体の回収、ここに着く直前に発見された血の跡について捜査を開始した。





「ウッ……今回の現場は…………酷い…な」


「可哀想に……抵抗する間もなかったんだろう」


「いきなり襲われたのが、痕跡からでも分かるぞ」


「魔物に襲われた村でも、ここまでは……なかなか無いからな」


 周囲に蔓延する屠殺場さながらの血の臭いに、荒事に慣れた筈の独立部隊の面々が顔を顰める。


「出来るだけ遺体を復元する型に並べろ!」


「後で、騎士学園と照会して犠牲者の人数を確認するからな!」


 実践演習に参加した生徒は例年通りなら二十名前後だと、自身も卒業した小隊長クラスの指揮官は予測出来る。

 彼方此方に散らばる遺体の腕、脚、頭、胴体……

 喰われてしまい欠損した部位が多く、遺された部位の方が少ない事は理解しているが、出来るだけ遺族の元へ戻してやろうと、血の匂いに咽ながらも作業を続けた。

 早く集めなければ、血の匂いに惹かれた獣が周囲から集まり、更に遺体が欠損するからである。


「荷馬車を要請する伝令は何をやってるんだ?」


「チッ、例によって元帥様がノンビリされているんだろ」


 作業が進む中、遺体を運ぶ為に要請した荷馬車の到着が遅い事を兵士達がボヤく。

 帝都近郊で起こった惨劇に間に合わなかった、自分達に対する苛立ちも不満を増幅させる。


「隊長のお気持ちを考えろ! 口よりも手を動かさんか!!」


 的確な指示を出しながら、集められた遺体の中から息子ロードの鎧を探すヴォルクの姿が兵士達の目に映り、兵達はなんともいえない気持ちにさせられた。


 そんな時、生存者捜索に出ていた第二小隊が森から戻った。


「生存者ニ名発見しました!!」


 全滅も視野に入れていた独立部隊の面々の顔に、喜色が浮かぶ。

 生存者ニ名の中に、隊長の息子ロードは含まれているのか?

 そんな空気も、長くは続かなかった。


「生存者、ヴァン=マーベリックとランド=スプートニクのニ名であります!」


 ロードの名が出なかった事に、落胆しそうな空気が流れたが、生存者がいたという事実に希望を託そうと、ヴォルク達部隊幹部は二人から事情聴取を始めた。




「ロードは……僕達に『逃げろ』って……」


「自分は剣を構えて……僕達を逃がす為に…………」


 二人は、自分達を逃がす為にロードは一人で翼竜(ワイバーン)に立ち向かって行った。

 そのお蔭で、自分達は逃げ切る事が出来たと話した。


 実際は、二人はロードを突き飛ばして逃げた後、


――――ロードは翼竜(ワイバーン)に殺されただろう


――――万が一、ロードが生き残っていた時には、彼を英雄、立派と持ち上げて誤魔化そう


――――とにかく、僕達はロードに救われたって言い張るんだ


 と、口裏を合わせていたのだが……



 ここに、ロードがいない事に安堵した二人は、涙を流しながらロードを持ち上げる。

 心の中では、『死んでいてくれよ』と考えていながらも、悲壮な涙を流せるあたりは、流石は伯爵家の子息といったところか。

 腹芸という点では、帝国軍元帥府のお偉方と比べて遜色ない二人であった。


 


 その後、数日間掛けてロードの捜索は続けられたが、彼が見つかる事はなかった。

 捜索三日目に、洞窟が発見された時には、血の跡等も徹底的に捜索されたが、血の跡どころか、人がいた形跡は発見されずに兵達を落胆させた。

 

 落胆の度合いでいえば、ヴォルクとその妻エミリアの焦燥ぶりは、帝都で彼等を知る者達が声を掛けることを躊躇する程のものであった。







 




――――その頃、マイアール帝国国境付近


「痕跡は完璧に消したし、僕の存在を知る人間は誰もいない筈だよね(笑) ロード君が最低限の装備を持っててくれたのは僥倖だったな。でも、この鎧は足が付くから始末しておかないと(笑)」


 僕は、道も無い山中で捕まえた兎の肉を焼きながら、今後の事を考えていた。


 最低限にサバイバル出来る装備は助かったけど、そろそろ最低限の装備を残して始末しないとなぁ。

 特に、この鎧だよ!

 ヴォルク達があの時使ってた鎧と違って、何の付与(エンチャント)も無い、見掛け倒しじゃないか!!


 ロード君も、ボンボン気質なだけじゃなく、ボンボンらしい装備くらい持っててくれれば、初代皇帝のチートを少しは解析出来たのに、ホント役に立たないボンクラだったね。

 

 いや、こうやって僕が動けてるのは彼のお蔭だし、ヴォルクの奴は息子が行方不明で落胆してるだろうし、かなり役には立ってくれてるのかな(笑)

 

 この身体でヴォルクに復讐するなんてワクテカだよね(笑)


 お楽しみの為には、事前準備が大切だ(笑)

 

 その為の時間も、ヴォルクが息子を亡くして絶望している時間って考えたら楽しい時間だし……


 まだ軽くジャブ程度だけど、ヴォルク……ザマァ!


 アハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 お読み頂きありがとうございますm(_ _)m


 設定上の前日譚が終わり、本編に突入します。


 主人公のクズっぷりは性格的な設定であり、本人は自らをモラルのある『常識人』と思っています。

 

 ブックマーク、いいねを頂けると、作者のヤル気に繋がりますので、宜しくお願いしますm(_ _)m

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