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第0章 カイト


「殿下っ、殿下っ、ウワアァァァァァァァァァッガッ!?」


 体力の限界まで駆け、洞窟に戻ったマギクスを待っていたのは、首を落とされ血溜まりの中に倒れた僕の身体だった。

 僕の身体を抱き締め慟哭するマギクスの心臓を、背中からレイナルドの槍が貫いた。


「人外の獣風情が煩いですよ。大人しく死んでなさい。あなたの役目はもう終わったんですから(笑)」


「……キ…貴様………呪…い……こ…ろし………て……」


「うぜー、サッサと死ね!」


 憤怒の表情で最期の呪詛を吐くマギクスの首を、躊躇無くヴォルクが斬り落とす。


「最初にこの獣モドキを発見して、結果的に二人の首を獲ったのは君ですから、『魔族の皇太子と交戦、討伐して、この遠征に終止符を打ったのはヴォルク』と上奏しておきますよ。この子供の魔法は厄介でしたが、それを言葉巧みに無力化したのが貴方なのは本当ですからね。精々、この獣の呪いには気を付ける事です」


「ああ、このケダモノ風情に殺された仲間達に報いてやんないといけないからな。報奨が貰えるのは助かる」


「じゃあ、その首を持って、サッサとこの汚らしい森から撤退しましょう。身体(ナマゴミ)は放っておけば、獣が喰って綺麗にしてくれるでしょう」


「ケダモノの始末は獣の餌ってか(笑)」


 生命を、その存亡を賭けて戦った相手への敬意など存在せず、貶める言葉を吐き捨てながら、ヴォルクとレイナルドは洞窟を後にした。


『魔帝国の皇太子は、ヴォルク=ベンズが討ち取りました。さあ、凱旋しますよ!!』


『『『『『ウオオオォォォォォォォォ!!』』』』』


 洞窟の外から、レイナルドの勝鬨と将兵の歓喜の雄叫びが聞こえる。

 ………そう、首を獲られ討ち棄てられた僕は、この一部始終を洞窟内で傍観していた。


 マギクスが戻った時に、


『マギクス、コイツ等は僕達を騙してる。急いで逃げて!!』


 と叫んだけど、僕の声はマギクスには、そしてあのクソ野郎共にも届いていなかった。

 ただ、マギクスが僕の身体に触れた時、彼の心臓が貫かれる迄の刹那、彼の魂と僕の意識は共鳴した。

 もう、その魂の存在を感じる事も出来ないけど、あの一瞬で、僕に何が起こったかをマギクスは理解したと思う。


 ごめんね、最期の最期まで、辛い想いをさせて……


 僕が甘かったから……


 僕が自惚れてなければ……


 僕があのクソ野郎共を信用していなければ……


 僕が前世の記憶を取り戻してなければ……


 ごめん……


 ごめん……ごめん、ごめん、ごめん、ごめん……


 僕が……僕がいつか……アイツ等に復讐するから……


 マギクスの……父上、母上、みんなの無念を晴らすから……


 本当に、本当にごめんなさい……


 僕なんかに関わらなければ……みんな……


 僕のせいだ……


 僕が【異世界転生ヒャッハー】なんて考えてなければ……


 チート? そんな物……何の役にも立たなかった……


 いや、僕が前世の知識を本気で活用してなかったんだ……


 この世界の常識を……現実を本当の意味で受け入れてなかった……


 種族が違ってもなんて、ラノベみたいに甘くなかった……


 なんで僕は、現実をちゃんと見て来なかったんだ……


 アイツ等は僕達を人種として扱ってなかったじゃないか……


 殺してやる……


 何年掛かろうと、アイツ等だけは殺してやる……


 マイアール帝国? 【転生者】の興した国?


 関係ない……

 

 僕の家族を殺した奴等は、必ず殺してやる……


 マギクスの魂は、僕と違って光になった……


 あれは多分、輪廻の中に戻ったって事だろう……


 僕の魂は、異世界の魂だから現世に残っているのか?


 僕は輪廻に含まれていない?


 永遠に、このまま此処に留まるしか無い?


 好都合だよ……


 何年でもチャンスを待って、必ず復讐してやる……


 勝手に僕の魂をこの世界に招いた奴も同罪だ……


 何年掛かろうと、時間だけはあるんだ……


 復讐するまで、本当の意味で僕は死なない……死ねない……


 もし、僕の【転生】が偶然の産物だとしても……


 この世界は滅ぼしてやる……


 必ず……


 僕とマギクスの身体から漏れる腐臭に惹かれた獣達が、僕達の身体を喰い尽くす様子を眺めながら、僕は復讐を誓った。












 ⊿m=(1.0087+1.0073)-2.0136=0.0024u=    0.0024×(1.661×10-27)=4.0×10-30Kg

E=4.0×10-30×(3.00×108……………


 コレなら簡単にこの世界を滅亡させる事も出来るか?


 いや、それじゃ復讐にはならないか……


 世界から生物を駆逐する事が復讐になるのか?


 神って存在が本当に存在するなら、ただの文明リセットと同じじゃないか?


 核分裂による放射能汚染なんて、神が本気になれば簡単にリセットされるんじゃ……

 それどころか、魔法が当たり前なこの世界みたいに、放射能が当たり前って世界にされたら意味が無い。


 可能性で考えてたら、何も出来ないじゃないか!


 なら、どうする?


 マイアール帝国の初代皇帝が造ったチートアイテム……


 ソレが【転生者】である僕に使用されて起こったバグ……


 そう考えなければ、僕の前に居た【転生者】の影響が限定的な説明がつかない……


 アイツは『初代皇帝陛下が遺した帝国の宝具』『最後の一個』って言ってた……


 つまり、【転生者】であっても、本来は『死ねば終わり』で、現世に干渉は出来ないって事だ……


 でも、僕はあの時、マギクスの魂と共鳴出来た……


 やはり、この腕輪が干渉アイテムになった?


 『魂を吸い取る』って、あのバカが言ってたけど、僕の魂がこの世界の魂じゃないから、腕輪から弾き出された?


 この推測通りなら、僕の魂がこうやって腕輪から離れて存在し続けている事を説明出来る……


 なら、この腕輪に吸収された魂を貯蓄する部分は空のまま?


 じゃあ……もしも……この腕輪を拾う人間がいれば……


 僕はこの場から離れる事が出来ない……


 この場で腕輪の能力を発揮させないと、せっかく今思い付いた事も実現出来ない……


 誰かが腕輪に触れれば僕が干渉出来るなら、その時に言葉巧みに誘導しないといけないな……


 後は、魂の抜けた身体に、僕の魂を定着させる方法か……


 魔法を創るしか無いな……


 本来なら魂なんて実験に使いようが無いけど、僕自身がその状態だ……


 慎重に……


 でも、なるべく早く創らないと……











 あれから十七年……



 初めて人間がこの洞窟に入って来た。

 復讐心が無ければ、たった一人、この場に留まり続ける地獄に僕の魂は壊れてしまったかもしれない。

 そのくらい、ここまでの時間は長かった。


 なのに、このバカ人間は洞窟に入って来た途端、何をするでも無く眠りやがった!

 来いよ、こっちへ!!

 お前が腕輪に触らないと、何も始まらないだろうが!!


 ……苛立つ気持ちを抑えて、この人間が目を覚ますのを待つ。

 いざ、チャンスが来た時に、苛立ちを悟られて警戒されたら意味が無い。 

 ……落ち着け僕……落ち着け……



 よく見ればこの人間、怪我だらけだな。

 優しい声で、心配している感じで話し掛ければ誘導し易いかもしれないな……僕の時の様に(笑)

 待ちに待った機会だ、とにかく落ち着いて、慎重に、気持ちを抑揚させずに、自然な感じを装え……







 (๑•̀ㅂ•́)و✧キターーー!

 腕輪を拾いやがった!!


―――――かなり酷い怪我をしてるね


 自然な感じで話し掛けれたよな?

 不自然じゃないよな?


「ッ!?」


―――――驚かせてしまったかな。大丈夫だよ、僕は君に何もしない……いや、何も出来ないって言った方が良いかな(笑)


―――――そんなに警戒しないでも大丈夫だよ。僕は既に死んでしまった身だ。現世の君達に何かをする事自体、本来は出来ないんだから


「本来? なら、何故俺には干渉出来てるって言うんだ!?」


 よし、話しに乗って来たぞ、この調子だ。






「お……俺は帝国高等騎士学園三階生…ロード=ベンズだ」


―――――ふ〜ん、ロード=ベンズ君か。……んっ?


 この歳頃、ベンズ、あのクズと同じ黒髪……まさか…ね?


「なっ、何だよ?」


―――――ねぇ、……もしかして、君のお父さんって『ヴォルク』って名前じゃない?


―――――ふ〜ん、その反応は当たりみたいだね。……お父さんが有名だと、君は色々と大変じゃない? 常に比べられたり、どんなに努力をしても認めて貰えなかったり


 本当(マジ)か!?

 落ち着けよ僕、感情を悟られるな!

 最高の生贄じゃないか(笑)

 運命に感謝しちゃいそう……な訳無いだろう!

 コレは、ただの因果応報だ!!

 お前のクズっぷりが、お前の息子に及んでるんだよヴォルク!!





―――――この腕輪を嵌めているだけで、僕達は常に一緒に居られる。僕の【知識】も実践出来る身体がなければ意味が無いからね。どうだい?、二人で世界を見返してみないかい?


「コレを腕に嵌めれば良いんだな?」


―――――ありがとう、そしてサヨウナラ、ロード=ベンズ君(笑) あぁ、僕は嘘は言ってないよ、君の父親と違ってね。魂は僕、身体は君……ね、常に一緒でしょ(笑)






 長かった……


 この十七年、本当に実現出来るのか、何の保証も無い状態で待ち続けるのは、本当に……本当に辛かった。

 

「【回復魔法•極(オールヒール)】」


 予想通り、肉体と魂が違っても問題無く魔法を発動させる事は出来た。

 魔法を使う為に必要な素養は、魂に紐付けられているっていう、僕の仮説は証明されたって事だ。

 コレなら、この十七年、練りに練って来た魔法も問題無く使えるだろう。


 現在(いま)の僕はアルベルトでも、ましてやロード=ベンズでも無い。これからの僕の名前は、前世でハンネとして使ってた『カイト』だ。

 人間のカイトとして、この世界の全てを覆してやる。


 アルベルトの時と同じ失敗はしない!

 先ずは、マイアール帝国から離れた場所であらゆる力を蓄える。

 魔族に比べて貧弱な現在の身体でも、チート野郎達と戦える力を身に着けるんだ。

 復讐を焦って、同じ過ちを繰り返さない為にね(笑)

 お読み頂きありがとうございますm(_ _)m


 この話で主人公の名前が初めて出てきました。

 ここから、主人公がザマァに向けて動き初めます。


 前置きが長いと我ながら思いますが、今後もお付き合いをお願いしますm(_ _)m

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