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第0章 アルベルト 3


 自分達から仕掛けた戦いで、反撃を受けたからって怒る理由が分からないな(笑)

 自分達が一方的に殺す側で、僕達魔族は黙って粛々と殺されるなんて妄想でも持ってたのか?


「しぃねええぇぇぇぇっっっ!!」


「させるか!!」


 怒り狂ったバカの吶喊を、マギクスが正面から受け止める。


「邪魔だよ、君は!」


 鍔迫り合いの型で膠着した二人の右側に廻り込んだ僕は、吶喊して来たバカ猪ヤローに【炎弾(ファイアボール)】の魔法を放つ。

 

 【炎弾(ファイアボール)】は攻撃魔法の中でも初級魔法に分類される魔法だけど、それはこの世界の人間ならって話だ。

 炎に風を纏わせる様に回転させ、酸素を送り込む事で火力を上げた僕の【炎弾(ファイアボール)】は、その威力だけなら上級魔法に匹敵する。

 っていうか、僕が使う初級魔法は全て上級魔法レベルの効果を持たせる様に改良済みだ。


 使用魔力量、術式構築に掛かる時間、それらから得られる連射速度……

 コスパを考えると、下手に上級魔法を使うよりも、初級魔法を改良した方が良いに決まってる。

 ただし、魔法の術式構築にイメージが大きな要素となる為、現代知識の無いこの世界の人種には不可能なんだけどね。

 脳筋で『力が全て』な魔族の世界で、十歳の僕がマギクスの様な豪傑からの忠誠を得られているのは、何も皇太子って立場からってだけじゃないんだ。

 忠誠を捧げる価値があるって思わせる力を持っているから、こんな無茶にも付き合って貰えるって訳だ(笑)



 僕の魔法の威力を知っているマギクスが、猪ヤローの剣を弾き後方へ跳ぶ。

 『これで終わり』と思ったが、


「なっ、うおおおおぉぉぉぉっ!!」


 猪ヤローは剣に魔力を纏わせ、僕の【炎弾(ファイアボール)】を上段からの振り下ろしで正面から斬りやがった。


 あり得ねえ…………


「なっ、何だと! 殿下の【炎弾(ファイアボール)】を斬っただと!?」


「………」 


 驚きを隠せ無いマギクスが驚愕の声をあげるが、僕はあり得ない光景に言葉を失っていた。


 反応速度と戦闘感、人間とは思えないデタラメな身体能力、才能が必要な実戦レベルの魔法剣………

 このバカ猪ヤローが、報告にあった強者の一人か!?


 コレは撤退も難しいかもしれない、マズいな…………


『勝ちに不思議の勝ち有り、負けに不思議の負け無し』


 何で、こんな時に前世の野球監督の言葉が浮かぶんだ!?


 偵察だけで、あのまま撤退してれば、こんなバカと戦うなんて状況にはならなかった……

 僕の自惚れが招いた危機!?

 父上に、知ったげに兵法を語ろうとしていた僕こそが、兵法の深妙を知らなかったって事だ。

 

「俺の仲間をヤッたのはお前かぁ!?」


 さっきの魔法で、【超電磁砲•改(レールガン)】を撃ったのが僕だと気付いたバカが、僕に斬り掛かろうとするが、マギクスが素早い対応で斬り込み足留めをする。


「我が名はマギクス、猪武者よ、名が有るなら死ぬ前に名乗るのだな!」


「猪だぁ? 俺にはヴォルク=ベンズって名前があるんだ! 舐めた事を言ってんじゃねぇ!!」


 マギクスの挑発に簡単に乗っていやがるクセに、猪じゃないって本物のバカか?、コイツは?

 とはいえ、その戦闘力(ちから)は本物だ。


 なんとかして、コイツを振り切り、城に帰らないと……












「チッ、しぶといヤローだ。そろそろ諦めたらどうだ!?」


「我が主の前で、貴様如きに不覚をとれるか!!」


 ヴォルクの連撃を捌き、全身から血を流したマギクスが剣を構えながら距離をとる。


 散発的に参戦して来るマイアール帝国軍の残党の存在もあり、一騎当千と呼んでも差し障らない実力を持つ、マギクスも僕も消耗し始めていた。

 更に、残党の中に紛れて現れたコイツの存在が状況を悪くしている。


「流石、陛下から賜った鎧だ。僕とヴォルクには、君の魔法も威力が半減しているよ!」


 レイナルドと名乗った二人目の化け物は、猪の様に突っ込む事しかしないヴォルクをカバーしながら、絶妙に連携して来やがる。

 初撃でヴォルクを仕留められなかった理由も、コイツ等が身に着けた鎧の効力で、僕の魔法の威力を削られているかららしい。


「クッ、【重力増加(グラビティ)】!」


 まだ十歳の僕の身体じゃ、コイツ等と肉弾戦なんて無理だ。

 頼みの魔法は、コイツ等のチートアイテムで威力を削られるし、接近戦がマギクス一人では状況を打開する方法が無い。

 【超電磁砲•改(レールガン)】の威力なら、コイツ等でも防ぎきれないと思われるが、初級魔法と違ってそれなりの時間、集中力を必要とする為、これだけの連撃を捌きながらでは発動する事が出来ない。


 結果として、初級魔法をやり繰りし、現状を凌ぎ続けている訳だ。


「効かないって分からないかな?」


「殿下、危ない!!」


 バックステップで距離をとろうとする僕に突き出されたレイナルドの槍を、無理な体制で弾いたマギクスの左肩をヴォルクの剣が斬り裂く。


「そろそろ投降しませんか? 君はそれなりの立場にいる者でしょう? このままだと、護衛の彼は死にますよ?」


 構えていた槍を肩に担ぎ上げレイナルドは、これで何度目かの降伏勧告をして来る。

 そりゃあ、勝ち筋が見えない状況に、僕の心は何度も折れそうになっているけど、このままじゃ国が、家族が危ないんだ! 

 折れてしまうわ……け……………



―――ズガアァァァァァァァァァァァァンッッッッッ!!


 城の方向から、閃光……数秒遅れて爆音が響き渡った。


「どうやら最終兵器が城を崩壊させたみたいですね。これで、君達が抵抗する理由は無くなりましたよ。どうされますか? このまま全滅するまで戦うか? それとも、君が残党を纏めて皆の生命を救うか?」


 あ……ああああ………………


 全身の力が抜けて、僕はその場に膝から崩れ落ちた。 


 最終兵器って何だよ?

 

 マイアール帝国の【転生者】は、なんて物を造ってんだ!


 大量破壊兵器って、最低限のモラルも無いのか!? 


 人種が違うからって、それで良いのか!?


「最終勧告ですよ? デ • ン • カ?」


 僕に向かって、レイナルドは半笑いで勧告して来る。


「殿下、殿下、お気をしっかり!!」


 膝立ちの状態で茫然自失の僕の両肩を掴み、マギクスが僕を呼びながら激しく揺さぶる。


「あ……ああ…………ち、父上……母上……」


「殿下っ!!」


 パンッ!!


 マギクスに頬を打たれた衝撃が、僕を正気に戻した。


「テメェ等がヤッた事は許せねえが、武人として真っ当に扱ってやる価値はある。投降するなら、生命は保証するぜ」


 僕が正気を取り戻した事を確認して、ヴォルクも勧告をして来た。


「魔帝国皇太子アルベルトは此処に降服します。国民の生命だけは保証して頂けませんか?」

 

「マイアール帝国第三騎士団団長レイナルドの名に於いて、魔帝国皇太子の降服を受諾する」


「マイアール帝国遊撃騎士団のヴォルクだ。俺がこの降服の立会人になってやる」


 あの爆発の規模じゃ、城は全滅、もう魔帝国に継戦能力は残っていない…………

 なら、皇太子として、生き残った国民の生命を護る選択をしないと……


 『生命は保証する』って言ってたが、それは残党に全滅覚悟の結託をさせない為の方策だろう。

 僕の残りの人生は良くて幽閉、奴隷にされるなら……まだまし、下手をすれば実験動物ってところか……


「マギクス、国民に『魔帝国皇太子アルベルトはマイアール帝国に降服した。魔帝国民は、武装解除してマイアール帝国を受け入れるように』って、伝える役目を与える。僕の最後の命令だ。情けない主でご……めん…ね」

 

「でっ、殿下。心中お察しし……ま…す」


 情けないところを見せる訳にはいかない場面だけど、僕もマギクスも涙で声が濡れてしまった。


「ふむ、感動的なところを悪いがマギクスとやら、早く走った方が良いのではないか? 前線の者達は、貴様等が降服した事を知らず、今も無駄死にしているかもしれぬぞ?」


 僕とマギクスのやり取りを茶化すかの様に、レイナルドが口を挟んで来たが、言ってる事は正論だ。

 これ以上、チートな武器で国民の生命を散らす訳にはいかない。


「さぁ、行って。マギクス」


 少しでも安心させようと、ぎこちなく笑おうとする僕にマギクスは懸念を口にする。


「はっ、し……しかし、殿下をお一人で置いて行く訳には……」


 僕の護衛として、この四年間ずっと一緒に居たマギクスからすれば、現状と忠誠の板挟みって感じだ。

 そんな空気を察した様に、ヴォルクが声を掛けて来た。


「あそこに洞窟があるだろ。お前が帰って来るまでは、俺がコイツをあそこに匿ってやる。安心して行って来い」


「信用して良いの……宜しいのですか?」


「武人の誇りに賭けて」


 脳筋同士……いや、武人同士だからこそ伝わるモノがあるのか、マギクスはヴォルクと拳を合わせた後、駆け出した。





「じゃあ、お前はこっちだ」


 駆けて行くマギクスの姿が視界から消えた後、ヴォルクは僕を洞窟へ誘った。

 この様子なら、僕は兎も角……国民に対してもある程度は配慮して貰えるかもしれない。


「降服した捕虜とはいえ、一国の皇太子に隷属の首輪を着ける訳にはいかねぇ。この腕輪を着けてな」


 逃亡防止の為に、隷属の首輪を着けられると思っていた僕は、正直驚いた。


「配慮感謝す………」


 マギクスとのやり取り……


 捕虜である僕に配慮するかの様な言葉……


 まさか、その全てが嘘だった!?


 ヴォルクに促されるまま腕輪を着けた僕は、洞窟内に倒れ込んだ。


「その腕輪は、ウチの初代皇帝陛下が遺した『帝国の宝具』だそうだ。ソレを着けた奴は、魂を吸い取られて死んでしまうんだとよ。ソレが帝国に遺った最後の一個らしい。ありがたく頂戴しな。俺の仲間を殺したテメェを許す訳ねえだろ(笑) テメェの首は俺の手柄にさせて貰うぜ。テメェに殺された奴等の家族にも、報奨金を配ってやらねえといけないからな。あぁ、その腕輪は使い捨てらしいから、帝国からテメェへのプレゼントだ、良かったな(笑)」



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