好きだった人
その人の事、好きだった。
ひとめ見た時からカッコいいなって思ってた。
陸上部部の活動で一生懸命走る姿をみて、きゅんとしてしまった。
ゴールだけをひたすらみてまっすぐに走り込む姿が、脳裏を離れなかった。
告白しようって思ったわけじゃない。
具体的に好き合ったらどうとか、そういう事を考えていたわけじゃない。
ただ、漠然とその人の在り方が好きで、好意を抱いていた。
だから、その熱が数日後に覚めてしまった時、そんなに傷つかなかった。
「陸上部? そんなのモテるためにやってるんだし」
あの人が友達にそう言っているのを、ふいに聞いてしまった。
その言葉で恋の熱が冷めてしまった。
ああ、初恋って叶わないって聞くけど、こんなに早く叶わなくなるとは普通思わない。
「一生懸命やってるのなんて演技だよ演技。そうしたら女子たちはきゃーきゃー言ってくれる。ほら、俺イケメンだし」
ははははは、と男達が笑うのを背中に聞きながらその場を去る。
世の中には、色々な愛のカタチがある。
その分だけ失恋の形もあるんだろうけれど。
こんなあっけない失恋もあったんだなと、どこか冷静に考えていた。