停電 (ページ4/4)
村について35日目。
西条とサチコと一緒に昔の発電所でスカベンジ中。
カヤはレベル上げだそうだ。
「 それにしても、もう少し言い方ってもんが在るでしょ?! 」
「 悪いな、口ベタなもんで 」
励ましたかっただけ、何だがな。
カヤはサチコにしがみついて寝たらしい、冬は良いけど夏は大変そうだ。
「 使える発電機なんか、もう無いんじゃない? 」
「 発電機は要らんよ、必要なのは金属だ 」
もう原型なんて無いだろうが、欠片でも持って帰りたい。
そうすりゃ、能力者が精製してインゴットにしてくれる。
ダンジョンでも採れるって聞いてるが、俺はダンジョンには入れない。
「 それで、急に何を始める気だ? 」
「 電球でも作ってみようと思ってな 」
「 今さら? 」
そう、今さらだ。
魔物から採取される魔石は、魔道具を通じて色んなものに使われてる。
火を出したり、光ったり、水も出るらしいが見た事は無い。
ダンジョンに潜ってる奴らは、色んな魔道具を持って行くんだと。
魔道具は数が少なくて高価だ、誰でも気軽に使えるもんじゃ無い。
村の灯りも殆どが松明だ。
「 暗いのが怖いってのは、カヤだけじゃ無いだろ? 」
それに電球は評価方法の1つだ、最終目標じゃ無い。
村について55日目。
ロータリー真空ポンプの試作を完了、電球の試作を開始する。
真空ポンプを回す動力は人力に決まってる、他に何が在るんだ?
ガラスはリサイクルして使ってる材料の代表格だ、いくらでも在る。
色んなモノの保存に使われてる、酸にもアルカリにも強いからな。
村について60日目。
試作した電球の点灯に成功。
出力は3~7W位か、夜中でも無いよりマシな程度。
常夜灯だな。
測定器が無いから、電圧も電流も明るさも計れやしない。
サチコが冷たい目をしてるけど、残念だったな。
本命はコレじゃ無い。
村について70日目。
電球の寿命が延びない。
数分で切れちまう。
クリプトンガスとは言わない、せめてアルゴンガスが欲しい。
希ガスって言っても、アルゴンならそこら辺にいくらでも在るのに抽出する手段が無い。
くそったれ。
村について90日目。
そこそこの電球を作れるようになった。
真空ポンプの台数を増やしたのが良かった、配管を太く短くしたのも影響してるだろう。
1時間で10個ほどしか作れないし、1個で四畳ほどの広さしか照らせないが。
暗かったら数を増やせばいいだけだ。
大浴場が男女別々になった。
電球のせいらしい、見えすぎてると困る事もある。
俺は困らないんだが、残念だ。
そこそこ安定した電球が作れるようになった。
これで新型勇者炉の試験を始められる。
村について120日目。
出力が上がらない、電球の出力じゃない、新型勇者炉の出力だ。
投入する能力者の人数を増やせば出力は上がる、ソレは確認した。
だが、10人20人と増やしても、出力は1.5倍程度にしかならない。
電球のフイラメントは切れてないから、電圧も電流も増えていないってことだ。
何処からか魔力が漏れて、効率が落ちてる。
それとも、魔力の伝達速度はそれほど速くないのか?
トイレの個室に電球が採用された、大きい場合の方な。
能力者はしながら電球を点けてるんだと、器用だ。
トイレの松明は、煙いし苦しいし気持ちは判る。
最近は村の人口が増えてるし、新しいトイレから採用するんだと。
村について129日目。
魔道具を作ってる工房を見学した。
砕いた魔石を使ってた。
「 魔石は魔力を貯めておくんだろ? 魔力を通さないのに、インクに混ぜても大丈夫なのか? 」
「 普段は通さないさ、何もしなければな。 だから、魔物を倒せば空じゃない魔石が手に入るんだ。 魔法陣を書くときは、魔力が通るように、魔力を込めてるんだよ 」
なるほど。
カヤへのプレゼントを買う、ドライヤーもどきだ。
村について130日目。
カヤの誕生日だ。
俺の誕生日はとっくに過ぎた。
悲しくはない。
プレゼントは喜ばれた。
村について135日目。
炉を魔石の粉でコーティングしてみた。
出力が入力に対して、正比例に近い曲線を描く様になった。
行けそうだ。
村について155日目。
チョット大型の炉を作成した。
今までは電球30個が限界だった。
大体50~60Wを30個だから、最大でも1800W。
コタツ2個分、大きめのドライヤーなら1.2個分だ。
ソレをパワーアップした。
「 こんな物つくってどうすんの!? 」
サチコは気が短い。
魔石でも、個人や個室単位の魔道具ならどうにでもなる。
大きな魔石なら、1個で体育館位なら魔法の灯りで照らせるだろう。
だが、大きな魔石は数を揃えられない致命的な欠点がある。
火も水も光も何とかできる魔石は、使い勝手が非常に良い。
だが、それじゃダメだ。
文明を維持向上するためには、工場での大量生産が必要だ。
冗談じゃない。
魔石は生物由来のエネルギー、電池やバッテリーと違って規格がない。
最大貯蔵魔力量も最大瞬間魔力量もバラバラだ、まとめて使えたりはしない。
つまり、大きなエネルギー源とはなりにくい。
つまり、魔石に頼ってしまうと産業革命前の中世に逆戻りだ。
冗談じゃない。
俺は、勇者炉の効率改善の開発を担当してた。
逃げ出す前の職場で。
今回は、全く違うアプローチによる高効率の発電炉を作った。
「 これなら、今までの50倍の出力が可能だ。 1台で村全部の電気を賄える 」 多分だが。
「 それが何なのよ? 」
サチコは気が短い。
短期的な視点しか無いようだ。
「 これを量産して、ここに工場を作るのさ。 将来的には、大工業地になるだろう 」
何年後になるかは知らん。
「 それで足りるのか裏杉? また人が増えるみたいだぞ 」
「 なんで! 」
「 近くの村が合流するって、村長言ってたぞ 」
「 ・・・・・・2号炉は、もっと大型化するよ 」
生活が便利になると人が集まる、それは良い、当然のことだ。
数を減らした人類が、魔物に対抗するには協力しないと。
「 そうだな。 急いだ方が良いかもな 」
西条が村の人口の方をアゴで示す。
そこには、見慣れない顔ぶれの集団が、眩しそうに電球を見ていた。
村について200日目。
村の人口が5000人を超えたらしい。
もう街だろ。
村について255日目。
人が減った。
「 西条、人が減ってないか? 」
朝食の時間、第1大食堂は人がまばらにしか居ない。
ここだけじゃ無く、全部の食堂がガラガラだった。
「 なんか、用事が有るらしいぞ 」
「 ほ~、用事ね~ 」
大規模な土木工事でもあるのか? 道はもう整備されてるから灌漑工事か?
ここには温泉はあっても、飲み水は限られてる。
食料は、ダンジョンが在るから何とでもなるが。
でもまぁ、何かしらの仕事はやるべきだろう。
村について275日目。
人が戻った、それと何か来た。
「 初めましてになるのかな? 」
村には似合わないスーツ姿、誰だコイツ。
「 初めまして。 お目に掛かったことは無いと思います 」
コイツの後ろには特務警察が12人、数が合わないから見えない範囲にも多分居る。
和也のパーティーも居るんだが、それより誰だコイツ。
「 元大統領の内ノ竹だ。 ああ、今も大統領だがね 」
1回だけ電話で話をした記憶がある、逃亡前に。
俺を捕まえる為にしては大げさだ、タイミングも意味不明だ。
「 君の力を借りたいと思ってね、わざわざ私が足を運んだんだよ 」
能力者達は、能力者がエネルギー源として扱われていることに不満を抱いていた。
それは、不満を取り締まる側の能力者も同じだった。
人口の95%以上が能力者になっても、能力者は異端扱いされていた。
便利な道具、便利なエネルギー。
それでも、手にした快適さを手放す事は出来なかった。
人々が不便になるのも無視できなかった。
個人個人の思いと都合で、勇者炉を稼働させ続けてきた。
魔力爆発のリスクと、能力者の人権を無視しても、現状を維持する事を選択した。
内ノ竹達は、能力者の現状を打開する方法を模索していた能力者の1人。
オリンピックの強行誘致と、勇者炉のトラブルは革命への布石。
旧式の危険性、能力者の勇者の非道な扱い、これらを大々的に暴露して旧政権を力で打倒。
オマケで、俺の作ってた新型勇者炉に目をつけたと。
能力者の解放、新型勇者炉による、安全で安定したエネルギー供給を約束。
能力者による新政権を樹立して、平等で安全な世界を構築した。
つもりなんだと、出来るのかねそんなこと。
俺は完全に巻き込まれただけじゃねーか。
何でも、革命には世界中の能力者が協力して、同時に行動したんだと。
世界中のほぼ全ての国で、旧政権は打倒された。
人が減ったのはネオ東京で戦ってたからで、被害者も出たそうだ。
連絡や情報の共有は、念話のスキル持ちが活躍したんだと。
能力者ってのは便利だね、端末要らずか。
「 日本は、新生日本として生まれ変わった。 能力者を虐げてきたゴミ共は掃除済みだ、安心してくれて良い 」
「 そりゃどうも。 で、私は何をすれば良いんですかね? 」
「 新型の勇者炉を世界に広めて欲しい、そのお手伝いだな。 基礎構造や理論は把握しているが、不明な点もあるのでね 」
「 なるほど 」
能力者に囲まれた無能力者1人。
拒否権はないんだろうな。
情報もダダ漏れだし。
20年後。
海沿いを1台の白いリムジンが走る。
対向車が居ないのは国有地だから、だけではない。
世界が崩壊したあの日以来、自家用車を保有できるのは一部の人間だけだ。
リムジンの後部座席には、初老の男性と女の子の姿が見える。
「 パパ。 発電所が見えてきたわ 」
「 おお、そうだな 」
ボイラー式だった旧式と事なり、新型勇者炉は爆発しない。
冷却の必要が無いから、海沿いである必要も無い。
個人に膨大な魔力を要求する事もない、パーティーを組む必要もない。
電位差があると自由電子が動く、自由電子が動くと電流になる。
化石燃料は無くなったが魔力なら在る。
だったら、魔力で直接自由電子を動かせは良いじゃないか。
それが新型勇者炉の基本原理だ。
自由電子は動いた。
動いたんだが光速まで加速は出来なかった、いいとこ30%だろう。
電源は交流じゃなく直流になった。
それでも、大電力の供給には成功した。
発電所のゲートを抜けリムジンは進む。
「 久しぶり、班長 」
「 元班長だ。 2ヶ月ぶりだな和也 」
リムジンを降り、和也と握手する俺の隣で娘が緊張してる。
未だに世界最強の座に座り続けてる勇者パーティ、そのリーダー和也。
コイツらのダンジョンでの活躍は、何時でもニュースのトップを飾ってる。
世界中で知らないヤツは居ないだろう、今は世界最大の発電所の所長も兼任してる。
「 白髪が増えたんじゃないのか? 」
「 お前だって、随分老けたじゃないか。 そろそろダンジョンに潜るのもキツイだろ。 引退したらどうだ? 」
「 バカ言うな。 俺はまだまだ現役だ 」
3人で施設の中を進む。
俺の娘は新型勇者炉の正社員として採用された、もちろん能力者だ。
12歳で正社員、どうなんだって思うのは俺だけみたいだ。
昔の仲間も、あの日あの時管制室に居た奴らも、またここで働いてる。
最大貯蔵魔力量が多ければ12歳でも正社員で働ける、娘みたいに。
魔力量が少なくても働けるんだが、アルバイトだな。
余ってる魔力を売る感じだ。
あの後、新型勇者炉を試作、技術的問題点と運用上の問題点を洗い出した。
大型化も推進、ほどなく10MWを達成した。
台数は増やしたが、それ以上の大型化はしてない、必要が無い。
それだけ、人が減ったって言うことだ。
「 奥さんも元気なんだってな。 そろそろ2人目も生まれるそうじゃないか 」
「 お陰様でな 」
和也は聖女と結婚して、ネオ東京に住んでる。
俺もネオ東京に住んでるんだが、お互いに忙しくて顔を合わせる機会が少ない。
少ないんだが、奥さん同士は会ってるんだから不思議なものだ。
俺は聖女の妹と結婚した。
和也の妹も、料理を作ってた亮子さんも、全て内ノ竹の仕組んだ事だった。
新型の情報を入手して、内ノ竹に流してたのも2人だ。
何でも、料理にはスキルによるナンチャラが入っていたらしい。
俺専用の俺だけの料理、美味しいはずだ。
後から聞いたら、最悪のケースじゃ俺は操り人形になった可能性も在るんだと。
聖女に貰った御守りに感謝だ。
「 じゃ、パパ。 行ってくるね 」
「 行っておいで 」
手を振りながら、入社式の会場に入っていく娘を見送る。
「 じゃ、班長は来賓だからあっちの部屋で待機な 」
「 元班長な。 ・・・・・・それで、ゴミの様子は? 」
和也も和也のパーティも、革命に参加してた。
和也の妹の手術は本当だった。
本当だったから、内ノ竹の計画に参加したんだと。
妹が内ノ竹に手を貸したのは、罪悪感があったから。
ドナーがたまたま見つかったのは、神の思し召しか悪魔の罠か。
俺はそれに巻き込まれた。
能力者の解放が元々の理由、安定したエネルギーのナンチャラってのは、完全に後付の理由。
嬉しい誤算だったんだと、いい迷惑だ。
「 まだ腐ってはいない。 腐ったら何時でも捨てられるから、気にしてないけどな 」
政府のトップが代わっても、能力者と無能力者が平等になっても、未だに人は人同士で争ってる。
トップに近づくと、腐ってく奴が多いのはなぜなのか。
それとも、腐ったヤツがトップにすり寄るのか。
んな事やってる場合じゃ無かろうに。
「 心配するなよ、班長 」
「 元班長な 」
顔に出てたか。
これで終わりじゃないらしい、聖女にはこの先も見えてるんだと。
「 後は俺達に任せてくれ 」
今の人類の平均寿命は40歳を切ってる。
子供でも働ける者は働くのが当たり前、そんな過酷な時代だ。
俺はもう50歳を過ぎた、和也でも38歳だ。
「 和也のくせに生意気だ 」
俺に残された時間は少ない。
心配ばかりしている場合じゃない、そろそろ丸投げしても良いだろう。
任せられるヤツを見つけた俺は幸運だった。
和也達なら俺より上手くやるはずだ、表でも裏でも。
若い頃、30台の頃やってた釣りをしながら、余生を過ごすのも悪くない。
「 もう任せてるだろ。 俺は来賓だ 」
俺は、主役じゃなく脇役でもない、モブですらない。
今は、舞台のこっち側で観てることしか出来ないお客さんだ。
だから内ノ竹の威圧スキルも、効果が無かったんだろう。
演者がお客様を脅しちゃいけない。
「 何か在ったら頼るけどな! 」 和也が笑う。
「 まだ働かせるつもりか? 」
ノンビリした余生は送れそうも無いか。
それもまた良し。
---end
気が付かれた点など在りましたら、読後の感想をチョロットでも、足跡だけでも残して頂けると励みになります。